死亡退職金は遺産分割・相続税の対象になる? 法律・税務上の注意点
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人口動態統計のデータによると、新潟県内における2019年中の死亡数は3万572人で、出生数の1万3640人に対して2倍以上の数字となっています。
会社に勤める従業員が亡くなった場合、家族に対して「死亡退職金」が支給されるケースがあります。
この死亡退職金を巡って、過去の裁判において親族間で争いになったケースがあります。そのため、一度、死亡退職金の遺産分割における取り扱いを整理しておきましょう。
また、死亡退職金については、相続税の課税に関して特別のルールが設けられているので、相続税の申告手続き上も注意が必要です。
この記事では、死亡退職金の遺産分割・相続税課税における取り扱いを中心に、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「新潟県の令和元年人口動態統計(確定数)の概況を公表します」(新潟県))
1、死亡退職金とは?
従業員が亡くなった場合、会社は従業員の功労に対して報いる目的で、家族に対して「死亡退職金」を交付することがあります。
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(1)従業員などの死亡時に会社から支給される退職金
死亡退職金は、従業員が死亡したことを条件として交付される退職金です。
一般的な退職金は、定年退職や早期退職など、会社に一定期間以上勤めた従業員に対して支給されます。
これに対して、従業員が会社在籍中に死亡した場合、従業員本人が退職金を受け取ることはできません。
しかし、従業員の会社に対する功労については、退職の場合でも死亡の場合でも、異なるところはありません。
そこで、会社によっては独自に死亡退職金の制度を設け、亡くなった従業員の家族に対して、一定金額の退職金を支給する場合があります。 -
(2)金額・受給権者は退職金規程などに従う
死亡退職金の支給については、特に法律上のルールは定められていません。
そのため、金額や受給権者(受取人)などの詳細については、すべて会社が定める退職金規程の内容に従います。
特に受給権者については、従業員があらかじめ指定しておく場合や、従業員との関係性に応じて自動的に決定される場合など、会社によってさまざまです。
2、死亡退職金は相続財産に含まれる?
死亡退職金が受給権者に支給されるとして、相続において、死亡退職金が相続財産に含まれるかどうかが、裁判で問題となったことがあります。
死亡退職金が相続財産に含まれるとすれば、その全額が遺産分割の対象となり、どのように死亡退職金を分けるかについて、相続人間で争いになる可能性が高いからです。
では、死亡退職金は法律上、相続においてどのように取り扱われるのでしょうか。
この点、法律上は、死亡退職金は「受給権者固有の財産」であると解されています。
最高裁昭和55年11月27日判決では、退職金規程に基づいて配偶者に全額支給された死亡退職金について、以下の理由によって、相続の対象外であると判示しています。
- ① 退職金の受給権者の範囲および順位につき、民法が規定する相続人の順位決定の原則とは著しく異なった定め方がされていること
- ② ①によれば、退職金規程は専ら従業員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とし、民法とは別の立場で受給権者を定めたものであり、受給権者は相続人としてではなく、自己固有の権利として退職金の受給権を取得すると解されること
多くの退職金規程では、上記の最高裁判例と同様に、民法の相続人の順位決定の原則とは全く異なる受給権者の定め方がされているものと考えられます(配偶者1人が全額受け取るなど)。
したがって、死亡退職金は受給権者固有の財産として、相続財産に含まれないのが原則と考えることができるでしょう。
3、死亡退職金には相続税がかかる?
死亡退職金に関するもうひとつの重要な問題が、相続税の課税です。
一般論として、相続税は相続財産に対して課税されます。
前述のとおり死亡退職金は、通常相続財産に含まれません
ただ、相続税法においては、特別の課税ルールが定められているので注意が必要です。
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(1)死亡後3年以内に支給が確定した場合は相続税の課税対象
相続税法第3条第1項第2号によると、
「被相続人の死亡により相続人その他の者が当該被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与」
については、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した場合には、相続税を課税することになっています。
死亡退職金は、受給権者が固有の権利として受け取るものではあります。ただ、亡くなった被相続人本人が受け取るはずだった退職金の代わりとしての意味合いも有するため、上記の「給与」に該当します。
したがって、死亡退職金の支給が被相続人の死亡後3年以内に確定した場合、相続税課税の対象となることに注意が必要です。 -
(2)死亡退職金には非課税限度額がある
ただし、死亡退職金には遺族の生活を保障するという機能があるため、死亡退職金全額について相続税を課税すると、遺族にとって酷になってしまいます。
そこで、死亡退職金に対する相続税の課税に関しては、一定の非課税限度額が設けられています。
死亡退職金の非課税限度額は、以下の計算式によって求められます。500万円×法定相続人の数=非課税限度額
※「法定相続人の数」については、相続放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとして取り扱う。
※法定相続人の中に養子がいる場合、「法定相続人の数」に含める養子の数は、実子がいるときは1人、実子がいないときは2人まで。
死亡退職金の金額が、上記の非課税限度額の範囲内であれば、相続税は一切課税されません。
また、死亡退職金の金額が非課税限度額を超える場合であっても、超えた部分にのみ相続税が課税されます。
なお、法定相続人以外が死亡退職金を受給した場合には、非課税限度額の適用はなく、死亡退職金全額について相続税が課税されます。
4、死亡退職金が発生した場合の注意点
ご家族が亡くなり、ご自身や親族に対して死亡退職金が支給された場合、以下の点に注意して対応する必要があります。
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(1)法律・税務上の整理をよく確認する
すでに解説したとおり、死亡退職金については、法律・税務の両面から特別のルールが存在します。そのため、まずはご自身が置かれている状況を前提に、死亡退職金に関する法律・税務上の整理をよく確認しましょう。
たとえば、死亡退職金が遺産分割の対象に含まれないことが分かったら、無用な相続人間の争いを防ぐために、他の相続人に対して、その根拠を論理立てて説明することが大切です。
また、相続税の課税に関しては、死亡退職金に対して相続税が課税される場合、他の相続人が負担する相続税の金額にも影響を及ぼします。
したがって、直接死亡退職金を受け取っていない相続人であっても人ごとではなく、相続税の課税については詳細な検討を行うことが重要です。 -
(2)弁護士・税理士に相談するのが有効
死亡退職金の法律・税務に関する整理については、間違った知識・情報に基づいて行ってしまうと、後に生じるトラブルの火種を残してしまいかねません。
後に禍根を残さず、死亡退職金についての相続処理を万全に行うためには、専門家である弁護士および税理士に相談することをおすすめいたします。
また、弁護士や税理士に依頼をした場合、他の相続人に対して、法律・税務上問題になりやすい論点について明快な説明を行うことができるため、遺産分割を早期・円満に完了できる可能性が高まります。
5、まとめ
ご家族が受け取った死亡退職金は、退職金規程の定め方にもよりますが、相続財産に含まれないケースが多いものと考えられます。
ただし、相続税の課税対象にはなる可能性が高いので、専門家に相談して税務上の手続き、対策をきちんと行いましょう。
ベリーベスト法律事務所では、グループ内で弁護士・税理士が適切に連携を行い、依頼者の相続が円満に完了するよう全面的にバックアップいたします。
相続についてお悩みの方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスにご相談ください。
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