むちうちの慰謝料の算定基準や相場と後遺障害慰謝料を請求する方法
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新潟市の統計によると、令和3年における新潟県内の交通事故の件数は、2848件、死者数47人、負傷者数3203人となっており、いまだ多くの交通事故が発生しているということがわかります。
このように、交通事故は身近なものでもあるにもかかわらず、いざ自分が被害者となった場合には、慰謝料などの損害をどう請求したらいいのか、悩む方も多いのではないでしょうか。
本記事では、交通事故によるけがで、もっとも多いとされる「むちうち」について、慰謝料の算定基準や相場、具体的な金額について弁護士が詳しく解説します。
1、むちうちになったときに請求できる慰謝料とは
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(1)むちうちとは
むちうち(鞭打ち)とは、自動車事故による衝突などの衝撃を受けて、首などが「むち」のようにしなるために起きる身体の症状を総称したものです。
自動車の追突事故や、衝突事故で転倒した際に首や腰に負担がかかって発症するケースが多く見られます。
基本的に骨折などは伴わないため、レントゲンなどでははっきりとした所見が得られません。したがって、自覚症状をもとに診断をつけるケースが大半になります。むちうちの主な症状は、痛み、しびれ、頭痛、めまい、可動域制限(肩、腕、腰などが動きにくくなる)、耳鳴り、眼精疲労などです。 -
(2)交通事故による損害の内訳
交通事故でむちうちとなった場合、被害者にはさまざまな損害が発生します。そして、被害者は事故によって自分に生じた損害を、加害者に請求することが認められています。
では、具体的にはどんな損害について、加害者に請求できるのでしょうか。
交通事故によるむちうちの場合に賠償請求が認められる代表的な損害の項目を整理しておきましょう。
① 治療費
交通事故でけがをした場合、まずは病院で検査や診察を受ける必要があります。この場合の治療費は加害者に請求することが可能です。治療費には、診察料、レントゲンなどの画像診断料、検査料、リハビリなどの処置料、薬代などが含まれます。
② 入院・通院交通費
治療のために病院へ行く際の交通費なども加害者に請求できます。公共交通機関を利用した場合はもちろん、自家用車で通院した場合も、所定の計算方法でガソリン代を請求できます。
③ 休業損害
けがのために仕事ができなくなり、収入が減った場合には、休業損害を請求できます。なお、主婦(主夫)業を行っている方にも休業損害が認められますので、忘れずに請求しましょう。
④ 傷害慰謝料
けがをした場合に認められる慰謝料です。けがの重さ(重症か、軽症か)、入通院の期間や日数などに応じて計算します。なお、一般的に、むちうちは交通事故によるけがの中では軽症に分類されています。
⑤ 逸失利益
治療の後に、残念ながら後遺障害が残ってしまった場合に認められる損害です。後遺障害が残ると、その後の就労に制限が生じ、事故がなければ本来受け取ることができたはずの収入が得られなくなる可能性があります。この将来の減収分を「逸失利益」と呼び、加害者に請求することが認められています。
⑥ 後遺障害慰謝料
後遺障害が残ったこと自体に対する慰謝料です。けがをしたことによる慰謝料とは別に認められる損害です。 -
(3)けがをした場合の慰謝料には二種類ある
前述のとおり、慰謝料と一言でいっても、実は二種類に分けられており、それぞれ別々の請求項目となります。
考え方の整理としては、まず、事故でけがをして治療を開始したら、「傷害慰謝料(入通院慰謝料)」が請求できると考えましょう。
そして、治療を続けても症状が治まらず、後遺障害が認定された場合には、さらに、「後遺障害慰謝料」が請求できます。
なお、後遺障害等級には1級から14級までの区分がありますが、むちうちの場合は、12級か14級に該当する可能性があります。
ただし、むちうちの特徴として、骨折などの他覚的所見(検査結果等から判断された医師の見解)がないケースが大半であるためその判断は難しく、後遺障害を主張しても認められないケースも多いため注意が必要です。
2、交通事故の慰謝料算定における三つの基準
交通事故慰謝料の三つの基準とは、「自賠責基準」、「任意保険基準」、「弁護士基準(裁判所基準)」を指しています。それぞれの違いを説明します。
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(1)自賠責基準
自賠責基準とは、自賠責保険法で定められた慰謝料の算定基準のことです。
自動車の所有者には、自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)への加入が義務付けられています。自賠責保険は、強制保険として加入義務があり、事故に遭った場合の最低限度の補償のための制度といえます。自賠責基準による慰謝料は、一般的には三つの基準の中で最も低い金額となります。 -
(2)任意保険基準
任意保険基準とは、加害者が加入している任意保険会社(自動車損害保険会社)が慰謝料を計算するときに用いる基準です。
自賠責基準と異なる点は、各社が独自に定めた社内運用の基準にすぎない点、そして、基準そのものが一般に公表されていない点です。
一般的には、自賠責基準に少し上乗せした程度の金額の場合が多く、被害者としては、納得できないケースも多いでしょう。 -
(3)弁護士(裁判所)基準
弁護士(裁判所)基準とは、これまで行われてきた交通事故問題の裁判例をもとに設定された慰謝料の基準のことです。
慰謝料の三つの基準の中では、基本的に最も高額で、被害者にとって有利な基準といえます。けがの重さや通院状況によっては、自賠責基準で計算した場合に比べて2~3倍程度の慰謝料を受け取ることができるケースも多々あります。任意保険基準と比較しても、けがや障害の程度によっては、数十万~数百万といった金額の差が出ることもあります。
3、傷害慰謝料の具体的な金額例
では、それぞれの基準によって、傷害(入通院)慰謝料が具体的にどのくらいの金額になるのかを見てみましょう。
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(1)自賠責基準
治療期間と、「実治療日数×2」を比較し、少ない方を通院期間とし、それに、4300円をかけて、算出します。実治療日数とは、実際に通院した日数のことです。
たとえば、
1月1日に事故に遭い、
1月1日、1月2日、1月6日、1月10日、1月11日、1月14日、1月15日、1月17日、1月20日、1月23日、1月28日と通院した場合は、
治療期間は28日(1日~28日)、
実治療日数は11日
になります。
この場合の、通院期間28日間と、実治療日数11日×2=22日を比較すると、実治療日数のほうが短いことがわかります。
したがって、
22日×(1日当たり4300円)=9万4600円
が、自賠責基準での慰謝料となります。 -
(2)任意保険基準
任意保険会社ごとに基準が異なりますが、一般的には自賠責基準よりは多少高く、弁護士基準よりは相当低い場合が多いでしょう。
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(3)弁護士基準
原則としては、入通院にかかった期間で計算します。たとえば、むちうちで整形外科に通院を続けた場合の慰謝料の基準額は次のとおりです。
通院期間 慰謝料の基準額 1カ月 19万円 2カ月 36万円 3カ月 53万円 4カ月 67万円 5カ月 79万円 6カ月 89万円
なお、通院だけでなく「入院を伴う」場合には、さらに慰謝料が加算されます。また、むちうちや打撲等ではなく、骨折などの重症の場合は、上記のものよりも高い金額の弁護士基準が用いられます。
ただし、むちうちなどの軽傷ケースで、通院が長期にわたり、通院頻度が低い場合には、全期間ではなく、実際に通院した日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間とみなすこともあります。
たとえば、1月1日に事故に遭ってむちうちの診断を受けて6カ月間治療した場合、原則としては上記のとおり、89万円の慰謝料が相場となります。
しかし、この6カ月間に実際に通院したのがわずか10日しかなかったとなると、実際に通院した日数10日×3=30日を慰謝料計算の期間とみなす場合があります。すると、慰謝料は19万円程度と判断される可能性があります。
つまり、弁護士基準における傷害慰謝料は、
① 原則として通院期間で算出しますが、
② 通院回数が少ない場合は、全期間分が認められない場合もある
という2点をおさえておきましょう。
4、後遺障害慰謝料の具体的な金額例
次に、後遺障害が認められた場合の慰謝料について具体的にみていきましょう。
なお、後遺障害は、原則として損害保険料率算出機構に所定の診断書(後遺障害診断書)を提出し、後遺障害等級を認定してもらう必要があります。そこで認定された後遺障害等級をもとに、以下のとおり慰謝料が算定されることとなります。
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(1)自賠責基準
後遺障害等級 慰謝料 1級 1150万円(要介護の場合1650万円) 2級 998万円(要介護の場合1203万円) 3級 861万円 4級 737万円 5級 618万円 6級 512万円 7級 419万円 8級 331万円 9級 249万円 10級 190万円 11級 136万円 12級 94万円 13級 57万円 14級 32万円 -
(2)任意保険基準
任意保険基準は非公開ですが、一般的には、弁護士基準よりは低く、自賠責基準に若干上乗せした程度で提示されます。
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(3)弁護士基準
弁護士(裁判所)基準は、東京、大阪、名古屋など地域によって若干の相場のずれがあります。新潟では東京地裁で用いられている基準(以下「赤本基準」といいます)によって判断されるのが一般的です。以下は、赤本基準による後遺障害等級ごとの慰謝料基準額です。
なお、弁護士基準はあくまで「基準」ですので、具体的な事情によってその金額が上下することがあります。
後遺障害等級 慰謝料基準額 1級 2800万円 2級 2370万円 3級 1990万円 4級 1670万円 5級 1400万円 6級 1180万円 7級 1000万円 8級 830万円 9級 690万円 10級 550万円 11級 420万円 12級 290万円 13級 180万円 14級 110万円
5、まとめ
ひとことに慰謝料と言っても、そもそも傷害慰謝料と後遺障害慰謝料の2種類があるということ、そして、それぞれの慰謝料の金額には三つの基準があることがお分かりいただけたかと思います。
被害者の立場としては、できるだけ適正な金額の賠償をしてもらいたいと思うのが当然です。
しかし、ご自身のケースで、実際にはどのくらいの慰謝料が適正なのか判断するのは簡単ではありません。
また、弁護士基準に関する知識を得て相手保険会社に交渉をしたとしても、弁護士が代理人にならない限り、相手方の保険会社は弁護士基準での交渉にはほとんど応じないという実情があります。したがって、被害者の方が十分な金額の慰謝料を受け取るためには、基本的には弁護士が代理人となって交渉することが必要となるでしょう。
ベリーベスト法律事務所では、被害者の方の立場で、親身に相談をお受けしています。まずは、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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