交通事故で認められる通院交通費とは? 電車・タクシーなど手段別にくわしく解説

2020年07月08日
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交通事故で認められる通院交通費とは? 電車・タクシーなど手段別にくわしく解説

新潟県の交通事故発生件数は、ここ数年右肩下がりとなっています。平成26年時点で6,317件あったのが、平成30年には3,799件にまで減少。警視庁が発表している「道路の交通に関する統計」によると、全国的に見て特別に交通事故が多い県という訳ではありません。

もちろん、新潟県でも交通事故に絶対遭わないという保証はどこにもありません。万が一交通事故で負傷してしまった場合には、正しい手続きを行って給付されるようなお金はしっかりともらっておくことが大切です。

交通事故における損害賠償にもさまざまな種類がありますが、交通事故後に通院しなければならなくなった場合、そのための交通費を保険会社に請求することができるのです。
そしてこの通院交通費は、自家用車・電車・タクシーなどの交通手段によっても計算方法や手続きが異なります。

今回は、そのあたりをしっかり理解するために、通院交通費の請求方法や注意点などについて新潟オフィスの弁護士が解説します。

1、通院交通費とは?

交通事故で負傷すると、定期的に通院しなければならなくなることがあります。その際にかかる交通費は、「通院交通費」と呼ばれます。
この通院交通費は、交通事故で請求できる損害賠償金のひとつです。そもそも交通事故に遭わなければ交通費を支払う必要もなかった訳ですから、交通費の支出も「交通事故による損害」として扱われているのです。

通院交通費は通院のたびに金額が確定するので、一回の通院ごとに請求することができるとされています。しかし、実務では手続きの煩雑さを避けるために、後でまとめて請求することがほとんどです。もし経済的に厳しい場合は、月払いが可能かどうか保険会社に問い合わせてみてください。

通院交通費の金額については、金融庁・国土交通省の公表している「自動車損害賠償責任保険の保険金等および自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払い基準」で「必要かつ妥当な実費」とされています。
具体的には、交通手段別に実際にかかった費用を「通院交通費明細書」に記載して保険会社に提出することになります。この手続きについては、後ほど詳しく解説します。

2、通院交通費と通院慰謝料の違いとは?

  1. (1)通院交通費は「財産的損害」、通院慰謝料は「精神的損害」の賠償

    通院交通費と通院慰謝料はよく混同されがちですが、この二つは全く異なる性質を持ちます。
    まず通院交通費は、「財産的損害に対する賠償」です。前述したように、そもそも交通事故にさえ遭わなければ、自腹で交通費を支払わなくて良かったのです。通院交通費の支出は、交通事故が原因の「財産的損害」として扱われます。

    一方、通院慰謝料は、「精神的損害に対する賠償」になります。「つらい、苦しい」「面倒くさい」「疲れるなあ」など、通院を余儀なくされることによって感じるさまざまな苦痛を、一定の基準に従って金銭的に算定します。

  2. (2)通院交通費と通院慰謝料では計算方法も異なる

    最初から金額がはっきりと確定している“通院交通費”と、目に見えない精神的苦痛を金額で表す“通院慰謝料”では、計算方法も異なります。
    通院交通費は、実際にかかった交通費の実費を計算します。ただし、前述の「必要かつ妥当な実費」という基準に沿った金額でなければなりません。たとえば、電車・バスなどで通院できる程度のケガにもかかわらず、わざわざタクシーに乗って通院していた場合には、タクシー代の請求が認められない可能性もあります。

    一方、通院慰謝料は入通院の期間・日数に基づき算定されます。通院が長期間にわたり、かつ不規則な場合は、実通院日数の約3.5倍を目安に慰謝料を算定することもあります。

3、通院交通費の請求方法

  1. (1)請求に必要な書類「通院交通費明細書」とは

    通院交通費の請求方法は、それほど複雑ではありません。
    保険会社の担当者から送られてくる「通院交通費明細書」という書類に必要事項を記載し、領収書などを添付の上で保険会社に提出しましょう。
    保険会社によって若干フォーマットが異なる場合もありますが、基本的な項目は共通しています。
    たとえば、「事故日」「通院期間・通院日付」「通院区間」「通院手段」「往復距離」「往復料金」「通院している病院名」などです。
    「往復距離」については、自宅から病院までの距離を『Googleマップ』などのツールで測れば、おおよその距離がわかります。

    なお、徒歩・自転車など交通費がかからなかった場合についても、必ず「通院交通費明細書」を提出する必要がありますので、注意しましょう。
    「通院交通費明細書」は症状固定後のタイミングで保険会社に提出することがほとんどです。交通費の立て替え払いを続けるのが難しい場合は、月単位での請求が可能かどうか保険会社に確認してください。会社によっては対応してくれるケースもあります。

  2. (2)「通院交通費明細書」に添付する領収書等について

    交通手段によっては、「通院交通費明細書」に領収書を添付する必要があります。順番に見ていきましょう。
    まず電車・バスなどの公共交通機関の場合は、領収書の同封は不要です。「通院交通費明細書」に記載された区間が不自然でなければ、その区間の運賃を支払ってくれます。
    自家用車の場合は、「走行距離1km=ガソリン代15円」で算定するため、領収書は不要です。ただし有料駐車場を使用せざるを得ない場合には、その領収書を添付します。

    タクシーをやむを得ず利用した場合も、領収書を添付しなければなりません。ただしタクシーを利用する「必要性・妥当性」が認められないと、いくらしっかり領収書を提出しても通院交通費として認定されない可能性があります(その場合は代わりに公共交通機関の運賃が支払われる)。どうしてもタクシーを利用したい場合は、事前に保険会社に確認しておくことをおすすめします。

4、交通手段別の請求方法と注意点

  1. (1)自家用車

    自家用車を通院に使用した場合、交通費として「通院にかかったガソリン代」が支払われることになります。
    しかし、ガソリン代は時期によって変動するので、便宜上一律「1km=15円」で計算されています。つまりこの場合、

    自宅から病院までの往復距離(km)×15円×自家用車での通院日数=通院交通費


    となります。
    一口に自家用車と言っても電気自動車、ディーゼル車などさまざまな種類がありますが、これらも一律「1km=15円」で計算されます。種類によって細かく計算方法を変えると、手続きが必要以上に複雑になってしまうからです。

    「通院先に有料駐車場しかなかった」など、何らかの理由で有料駐車場を使用せざるを得なかった場合には、通院日数分の駐車代も請求できます。
    しかし、「無料駐車場があったのにわざわざ有料駐車場に駐車した」などの場合には、請求しても支払われない恐れがあります。

  2. (2)電車・バス

    電車・バスなどの公共交通機関は、自宅から病院まで複数のルートでたどり着けることも多いです。その場合は、原則として目的地まで最短・最安で行ける「もっとも合理的なルート」が認められています。計算式は、

    自宅の最寄り駅・バス停~通院先の最寄り駅・バス停までの往復料金×通院日数


    となります。ちなみに、徒歩圏内で電車・バスを使用した場合でも、支払ってもらえることがほとんどです。

  3. (3)タクシー

    もっとも高額なタクシーの利用については、事前に保険会社に相談しておくことをおすすめします。タクシー利用の「必要性・相当性」が認められなければ、領収書を提出しても却下される場合があるからです。タクシー利用が認められない場合でも、公共交通機関による交通費分はちゃんと支給されますので安心してください。
    タクシー利用の可否は、「ケガの部位・程度」「本人の年齢」「公共交通機関の状況」などを基準に判断されることが多いです。
    具体的には、医師からタクシー通院の指示が出た、高齢で足腰が弱っている、最寄り駅・バス停までが遠い、周辺の公共交通機関が1日に数本しかないなどのケースです。

  4. (4)徒歩・自転車

    徒歩・自転車の場合は、交通費がかからないので当然請求はできません。
    ただし、有料駐輪場を利用せざるを得なかった場合には、「通院交通費明細書」と一緒に領収書を提出すれば駐輪代を請求できる可能性があります。
    徒歩・自転車で交通費が一切かからなかった場合でも、「通院交通費明細書」は保険会社に提出する必要がありますので注意してください。

5、その他押さえておくべきポイント

  1. (1)通院付き添いの費用について

    ケガがひどい、子ども・高齢者であるなどの理由で、通院に付き添いが必要なケースもあります。その場合は、付添人の通院交通費も請求できる可能性があります。
    子どもの年齢は、12歳以下であれば付添人の「必要性・相当性」が認められやすいとされています。

  2. (2)交通事故の影響で通勤手段が変わり、出費が増えた場合

    交通事故で足をケガしたために、タクシー通勤しなければならなくなることもあるでしょう。
    交通事故の影響で通勤手段が変わった場合、その増額分を請求できる可能性があります。
    つまり「交通事故後の通勤で実際にかかった交通費-通常時の通勤費=請求できる金額」ということです。

  3. (3)通勤定期券を使って通院できる場合

    通勤定期券の範囲内に通院先がある場合は、通院交通費を請求できないとされています。
    冒頭でも説明した通り、保険会社から支払われる通院交通費は、「財産的損害」に対する賠償という性質を持ちます。
    このケースでは、交通事故の結果として余分な出費(財産的損害)が発生した訳ではないからです。

6、まとめ

通院交通費と通院慰謝料はまったく別の性質のものなので、それぞれ個別に請求することができます。
通院交通費も交通手段によって微妙に手続き・注意点が異なりますので、実際に利用するまでにしっかりと把握しておきましょう。
もし保険会社とトラブルに発展しそうな場合は、早めにベリーベスト法律事務所・新潟オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています