遺産分割協議書の書き方とは? 記載すべき7つのポイントを新潟県の弁護士が解説
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厚生労働省が発表する「平成30年人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、平成30年中に新潟県で亡くなった方は3万67人おり、その分だけ相続が発生していることが分かります。
相続では、特に遺言書が残されていなかった場合など、遺産分割に関するさまざまなトラブルが生じることも少なくありません。実際に平成30年度には、相続人間の遺産分割協議では話がまとまらず149件の遺産分割調停が新潟家庭裁判所で取り扱われています。
このような家庭裁判所における調停にまで発展することはそう多くないとはいえ、遺産分割協議では「相続人のひとりが合意していたのに合意した覚えはないと言い出した」など、トラブルが起きることもあります。
こういったトラブルを未然に防ぐためには、遺産分割協議書を作成しておくことが有効です。しかし、遺産分割協議書をいざ作成しようと思っても、初めて作成する方も多いため、多くの方が書き方に戸惑うことでしょう。
本コラムでは、遺産分割協議書を作成する際の注意点や書き方についてベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説していきます。
1、遺産分割協議書とは
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(1)そもそも遺産分割協議とは
遺産分割協議とは、複数の相続人で共有している被相続人の相続財産を相続人それぞれの単独所有とするための話し合いです。
たとえばX不動産を所有するAが亡くなり、Aの子どもである相続人Bと相続人Cが法定相続分の2分の1ずつの割合で相続したとします。
するとBとCは、X不動産の所有権の2分の1ずつを共有することになります。
しかし、このような共有状態では、お互いの合意がなければ自由に不動産を活用することができないなどの不都合が生じます。こういった共有状態による不都合を回避するためにも、たとえばBがX不動産を単独で相続する代わりにBはCに共有持ち分に相当するお金を支払うといった内容で遺産分割協議を成立させます。
なお、遺産分割協議は相続人全員が参加して行わなければなりません。ひとりでも相続人を除外して行われた協議は無効となるのです。ただし、これは相続人全員がひとつの場所に集まって話し合う必要があるわけではなく、郵送やメールなどでやり取りをして合意することでも問題ありません。 -
(2)遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、遺産分割協議の内容について相続人全員が記名押印などをすることで合意したことを示す書面です。
遺産分割協議書は法律上、作成が義務付けられているわけではありません。しかし、遺産分割協議書は、協議の内容や合意の有無に関するトラブルを未然に防ぐ役目を果たします。
また、不動産の相続登記や預貯金の名義を変更する際などには、法定相続分と異なる持ち分を遺産分割協議で取得したことを示すために、遺産分割協議書が必要になります。
そのため遺産分割協議書の書き方を知っておき、いざという時に作成できるようにしておくことは大切です。
2、遺産分割協議書の書き方とは? 記載すべき7項目
遺産分割協議書については、一般的に次のような事項を記載します。
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(1)見出し
何に関する書面かを明確にするために、まず見出しとして「遺産分割協議書」などと記載します。
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(2)被相続人と相続人に関する事項
遺産分割協議で取り決めた内容が誰の相続に関するものなのかを明らかにします。
被相続人の氏名、本籍地、死亡日などを記載して、相続が開始した事実を記載します。また、相続人の名前も記載し、遺産分割協議を行った事実を記載します。 -
(3)相続財産を特定する事項
相続財産をすべて記載し、相続財産を特定します。
できるだけ具体的に特定することが、後のトラブルを防ぐことにつながるでしょう。
相続財産のうち不動産に関する記載は、法務局で交付請求できる「登記事項証明書(登記簿謄本)」の記録と同様に、正確に記載します。日常の生活で使用する「住所」ではなく、土地であれば「所在」「地番」「地目」「地積」などを記載し、建物であれば「所在」「家屋番号」「構造」「床面積」などを記載します。
このように記載しておけば、不動産の名義を被相続人から遺産分割で取得した相続人に変更する相続登記などを行う際に役立ちます。
また、預金に関する記載は、金融機関の通帳などをもとに「銀行名」「支店名」「口座番号」「金額」などを正確に記載しておきましょう。このような不動産や預貯金などの相続財産を、遺産分割協議書内に記載する方法のほか、一覧表を作成し「別紙遺産目録」として遺産分割協議書に添付する方法もあります。 -
(4)遺産分割方法
遺産分割には3つの方法があります。
1つ目は、「相続人Aは甲不動産を相続し、相続人Bは乙不動産を相続する」というように、相続財産の現物そのものを分割して相続する「現物分割」という方法です。
2つ目は、相続財産を売却してその金銭を相続人が分割して相続する「換価分割」という方法です。
3つ目は、「相続人Aは甲不動産を相続する代わりに相続人Bに共有持ち分に相当するお金を支払う」というように、自分の財産で代償して法定相続分以上の持ち分を取得する「代償分割」という方法です。
遺産分割協議書には、明確に相続財産を特定し、分配方法についても法務局や金融機関に分かりやすいように記載することが重要です。
ちなみに「代償分割」の場合は、相続人が代償する金額や支払い方法、そして期限についても記載しておくと良いでしょう。 -
(5)清算条項
遺産分割協議書には、協議で取り決めた内容以外には今後金銭のやり取りが発生しないことを確認する、清算条項を入れておくとよいでしょう。清算条項の記載があれば、後に相続人のひとりから不当な金銭の要求があっても応じる必要がないことを、証明することができます。
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(6)協議後に判明した遺産の帰属先に関する事項
遺産分割協議が成立した後に、新たに遺産が見つかることもあります。
そういった場合には、新たに見つかった遺産について遺産分割協議を行う必要が生じることや、ケースによっては一度成立した協議自体をやり直さなければならないこともあります。
しかし、「協議後新たに遺産が判明した場合には誰が取得するか」を決めておけば、遺産分割協議を今後行う必要はないことになります。 -
(7)相続人全員の署名・捺印
遺産分割協議書の末尾には、相続人全員の署名・捺印を行います。署名に関しては、住所と氏名を自書し、捺印は実印を使用しましょう。
不動産の相続登記などに添付する遺産分割協議書には、相続人全員の実印と、市区町村が交付する印鑑証明書の添付が必要になります。そのため実印の登録をしていない相続人がいる場合には、市区町村の窓口で印鑑登録を行った上で、印鑑証明書の交付を受けて、遺産分割協議書に添付しておく必要があります。
3、遺産分割協議書の作成における注意点とは
遺産分割協議書を作成する際には、次のような点に注意する必要があります。
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(1)複数ページにわたる場合は契印が必要
遺産分割協議書が複数ページにわたる場合には、末尾の相続人氏名の横に捺印するほかに、ページとページの境目にも相続人全員で実印を押印します。
これは「契印」と呼ばれるもので、複数の紙が一体となって遺産分割協議書になっていることを示すものです。遺産分割協議書の大きさや枚数に決まりはありませんが、複数ページにわたって作成する場合には、相続人全員の「契印」を忘れないように注意する必要があります。 -
(2)遺産分割協議書のひな型を利用する際には注意が必要
遺産分割協議書のひな型は、インターネット上などでも見つけることができます。
しかし、ひな型はあくまでも参考であり、利用する際にはご自身の責任で利用することになります。インターネット上のひな型を利用して作成しても、法務局や金融機関が不十分であるとして受理しなければ、遺産分割協議書を作成し直さなければなりません。場合によっては、再度相続人全員の合意を得なければならないなど、非常に多くの手間がかかることになります。
インターネット上のひな型を利用して作成する場合でも、必要な事項が正確に記載されており漏れがないかなどを、入念にチェックして作成していくことが大切です。
4、確実な遺産分割協議書を作成するためには
確実に有効な遺産分割協議書を早期に作成するためには、弁護士に相談することを検討されるとよいでしょう。弁護士は、それぞれの方にとって必要な記載事項を盛り込んだ遺産分割協議書を作成することができます。
なお、遺産分割協議書の作成時期について決まりはありませんが、可能な限り相続税の優遇措置が受けられる時期までに作成することが望ましいといえます。
5、まとめ
本コラムでは、遺産分割協議書の書き方について解説していきました。
遺産分割協議書の書き方に法律的な決まりはありません。ただし、法務局や金融機関に正しく受理されるよう、また、可能な限りトラブルを未然に防ぐことができるような書面を作成することが大切です。
ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士は、遺産分割協議書の書き方をはじめとする相続全般に関して、ご相談に応じています。相続問題でお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています