成年後見人制度とは? 相続手続きの際の注意点を新潟オフィスの弁護士が解説
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近年は全国で高齢化が進んでいます。新潟も例外ではありません。新潟県が発表した統計によると平成30年の新潟県の高齢化率は31.9%と全国平均の28.1%を大きく上回っています。高齢者の人数は71万2667人にものぼります。
さらに、新潟県による推計によると平成30年の認知症の患者は7万人に迫る勢いです。認知症の方も年々増加していますので、相続などの法的手続きの際に支障をきたすケースも増加していることが想定できます。
では、相続人の中に認知症の方がいる場合はどうなるのでしょうか? ここではベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が、認知症の方がいる場合の成年後見制度について解説します。
1、成年後見制度とは?
成年後見制度とは、認知症や精神障害、知的障害、病気や事故等で植物状態になっている方が契約や相続、財産の管理等などで不利益を被ることがないように作られた制度です。たとえば相続人の中に認知症の方がいる場合、遺産分割協議の内容について正常な判断ができない可能性があります。自分にとって、不利益な内容で遺産分割協議が進んでいてもそれに気づかずに手続きを進めてしまうことが少なくありません。
このような事態を避けるため、第三者に判断を委ねることで、本人の権利や財産を保護することを目的にした制度が「成年後見制度」です。
成年後見制度には以下の3つの種類があり、本人の判断能力に応じて決定されます。
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(1)後見人
日常生活の基本動作もままならない方のための制度が成年後見です。ひとりで自宅に帰ることができないなど、本人の判断能力低下の程度が大きいと判断できる状態であれば、成年後見が選択される可能性が高いでしょう。
成年後見人が選定された場合、一定の行為を除き本人が行う法律行為の「代理権」と「取消権」を成年後見人が保有します。 -
(2)保佐人
日常生活は一通りできるものの、不動産の購入や売却等の重要な財産の処分に関する決定は難しいという方のための成年後見制度です。保佐人には、「重要な財産行為」の同意や取り消しなどの権利が与えられます。
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(3)補助人
日常生活や契約等も自分で行うことができるものの、判断能力に若干不安がある場合は補助人をつけることになります。保持人は成年後見人や保佐人よりも、権利が制限されており、あらかじめ裁判所に申し立てた行為の代理権や取消権等しかありません。
認知症が進み、日常生活がままならない状態になっていれば「成年後見人」が選定される可能性が高いでしょう。その場合は、相続の際の遺産分割協議には成年後見人が参加して話し合うことになります。
2、成年後見人をつけずに相続を進めることはできる?
遺産分割協議は、被相続人が亡くなってから早急に開始しなければ、手続きや納税額などの面で支障をきたします。したがって、成年後見人をつけたくないと考える相続人の方が少なくありません。
ここでは、認知症の方が相続人にいる場合、成年後見人をつけずに済む場合とつけなければならない場合について説明します。
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(1)遺言書に従って相続する場合
亡くなった方が、生きている間に法律的に有効な遺言書を作成していて、それに従い財産を分割する場合は、成年後見人は不要です。ただし、遺言書の内容が法的に無効であれば、遺産分割協議が必要となるため、成年後見人が必要になります。
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(2)法定相続分に従って相続する場合
民法上、相続の際には、相続すべき人が定められており、それぞれの分割割合も明確に規定されています。それを「法定相続分」と呼びます。法定相続分で相続する場合は、成年後見人を選任しなくても相続手続きを進めることができます。
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(3)遺産分割協議をする場合
遺産分割協議とは、相続人全員で財産の分割割合等を話し合うことを指します。遺産分割協議は、相続人全員が参加しなければなりません。したがって、認知症を発症されている相続人を除外して話し合いをすすめることはできないということです。また、認知症の方がきちんと判断できずに合意してしまった遺産分割協議も無効になります。
つまり、認知症を発症されている方がいる場合は成年後見人なしでは遺産分割協議はできないのです。
3、成年後見人になれる方
成年後見人には以下の方を除き、誰でもなることができます。ただし、実務上は弁護士や親族などがなることが多く、まったくの他人が成年後見人になることはほとんどないと言ってよいでしょう。
- 未成年
- 破産している方
- 本人に対して訴訟を起こしたことがある方
- 本人に対して訴訟を起こした方の配偶者もしくは直系の親族
親族を成年後見人にすることもありますが、手続き上の利便性等から弁護士などの専門職が選ばれることが少なくありません。特に遺産相続の場合、親族は利害関係が生じる可能性が高く、トラブルに発展しやすいものです。そこで、公平な第三者である弁護士に依頼するケースが増えています。
4、成年後見人の選任手続き方法
成年後見人は原則として、申立てる方が候補者を選びます。その後、家庭裁判所に「申し立て」を行い認められなければなりません。成年後見人の候補者がいない場合は、家庭裁判所に選任を一任することも可能です。
ここでは成年後見人を選任するための手続きを解説します。
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(1)成年後見人の申し立てに必要な書類
家庭裁判所に申し立てを行う際には、以下のような書類が必要になります。
- 申立書
- 本人が成年後見等の登記がされていないことがわかる証明書
- 本人の戸籍謄本、住民票
- 後見人候補者の戸籍謄本、住民票
- 判断能力が欠けていることを立証している診断書
- 本人の財産目録
- 親族関係図
- 本人の収支状況報告書
- 親族の同意書
- 申立書に貼り付ける収入印紙800円
- 返送用の郵便切手
これらの書類を不備なく作成して、申立て人が家庭裁判所へ提出します。 -
(2)成年後見人の申し立てが可能な方
成年後見人の申し立ては、原則として、本人や配偶者、4親等以内の親族や、検察官、市区町村長などです。多く見受けられるのは、兄弟姉妹や子ども、配偶者などが申し立てを行うケースです。
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(3)成年後見人選任までの流れ
次に、成年後見人が選任されるまでの流れを説明します。
- 申立人による申し立て まずは申立人が必要書類を用意して、家庭裁判所に提出をします。これを「申し立て」と言います。申し立ては、本人の住民票を管轄とする家庭裁判所に行います。
- 裁判官と関係者の面接 申し立てが受理されたら、裁判官と申立人、成年後見人の候補者の面接が行われます。申し立てた理由や、候補者との関係性が聴取されます。さらに、本人に判断能力が残っている場合は本人に面接を行うこともあります。面接の所要時間は1時間から2時間です。
- 親族へ意向照会 成年後見人の申し立てを行うと親族に書面などで成年後見人申し立ての内容や、候補者などが通知されます。親族の意向を確認し、成年後見人を選任することや候補者に異論がないことを明らかにするためです。
- 鑑定 本人に判断能力がどの程度残っているかを医学的見地から判断するために行われるのが「鑑定」です。申し立ての際に提出した診断書で十分判断することができれば、鑑定は省略されることもありますが、後見人選任の場合は原則として鑑定が必要とされています。
- 審判 上記の手続きがすべて完了すると審判が開始されます。申し立てが受理されてから審判開始までの期間は1ヶ月から2ヶ月とされていますが、親族への意向照会や鑑定などに時間がかかるとさらに審判開始が遅れることもあります。
- 後見開始の登記 審判によって、成年後見人が選任されたら、成年後見人であることを法務局で登記します。これを「後見開始・後見人選任の登記」と言います。
成年後見人候補者が、親族の場合は利害関係が生じてしまいトラブルが発生することが少なくありません。後日、トラブルが発生することを避けるためあらかじめ親族に意向を確認しておくのです。
調査や鑑定の結果をもとに、家庭裁判所が後見人を選定しますので、場合によっては候補者以外の専門家等が成年後見人に選任されます。
5、弁護士が成年後見人を務めるメリットとは
弁護士が成年後見人になるメリットは「申し立ての手続きから行えること」と、「法的に有効な遺産分割協議が可能」という点です。前述のとおり、成年後見人申し立ての手続きは、非常に必要書類が多く複雑です。面接等で何度も家庭裁判所を訪れなければならず、仕事や家事に悪影響を与えてしまいます。しかし、弁護士に依頼すれば、書類作成から依頼できます。成年後見人選任手続きがスムーズに進みます。
また、遺産分割協議にも弁護士は参加するため、法的に有効な遺産分割協議を行うことが可能です。当事者同士では紛糾する話し合いでも、弁護士を交えることで効率よく交渉が進み、もめることなく遺産分割協議を終えることもできるでしょう。
6、まとめ
相続人の中に認知症の方がいる場合は、法定相続分や遺言書に従った遺産分割しか行うことができません。任意の割合で分割したい場合は「遺産分割協議」を行わなければならないので、成年代理人を選任する必要があります。
成年代理人が決定するまでに2ヶ月以上時間がかかることもあります。すでに被相続人が亡くなっている場合は慎重かつ早急に行動しましょう。ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスでも、成年後見人に関するご相談を受け付けています。相続問題に直面している方はぜひご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています