株式を相続するときの評価方法は? 上場・非上場での違い
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新潟県を管轄する関東信越国税局が公表している相続税の申告事績の概要によると、令和2年の相続税額のある申告書に基づく相続財産の総額は、2兆1966億円でした。そのうち、株式などの有価証券の金額は2317億円であったため、相続財産の1割弱は株式などの有価証券が含まれていることがわかります。
相続財産に株式が含まれている場合には、遺産分割や相続税申告の前提として、当該株式を評価する必要があります。株式の評価については、上場株式であるか、非上場株式であるかによって評価方法が大きく異なってきます。
適切な評価方法を把握していなければ、遺産分割などの場面で不利益を被る可能性もあるため、株式の評価方法について日頃から把握しておくことが大切になります。本コラムでは、株式を相続する場合の評価方法について、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説します。
1、株式の評価は上場・非上場で異なる
遺産分割や相続税申告をする際には、相続財産に含まれる株式の価値を評価しなければなりません。
株式の評価額は、「1株あたりの株価×株数」によって計算することができますが、「1株あたりの株価」については、証券取引所に上場している上場株式の場合とそうでない非上場株式の場合とで異なってきます。
上場株式の場合には、株価が公表されていますので、株式の評価も比較的容易に行うことができます。
一方で、非上場株式の場合には上場株式のように株価が公表されていないため、特別な評価方法によって算定する必要があるのです。
2、上場株式の相続方法と評価方法
相続財産に含まれる株式が上場株式である場合に、株式を相続する方法や評価する方法について解説します。
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(1)上場株式の相続方法
上場株式を相続する方法は、以下の通りです。
① 相続財産調査
遺産分割の前提として、まずは、被相続人がどのような株式を保有していたかの調査を行います。
上場株式の場合には、証券会社や信託銀行などで口座を開設して株式の取引を行います。そのため、被相続人が口座を開設している証券会社や信託銀行に問い合わせをすることによって、被相続人が保有していた株式を把握することができるのです。
被相続人が口座を開設していた証券会社や信託銀行が不明な場合には、「証券保管振替機構」に対して、登録済加入者情報の開示請求をすることによって、どこの証券会社・信託銀行で被相続人の株式が管理されていたかを把握することができます。
② 遺産分割協議
相続財産調査によって明らかになった株式を対象に相続人による遺産分割協議を行います。遺産分割協議をする際には、当該株式を評価する必要がありますが、これについては後述します。
株式の評価および分割方法について相続人全員の合意が得られた場合には、遺産分割協議書を作成して、相続人全員が実印で押印をします。
③ 株式の名義書き換え
遺産分割協議によって被相続人の株式を相続した相続人は、被相続人が口座を開設していた証券会社や信託銀行に連絡をして、株式の名義書き換えの手続きを行います。
株式の名義書き換えにあたって必要となる書類は、各証券会社・信託銀行によって異なります。したがって、あらかじめ連絡をしてから手続きを進めるようにしましょう。
名義書き換えが完了した株式については、相続人がそのまま保有することもできるほか、売却して現金化することも可能です。 -
(2)上場株式の評価方法
上場株式は、市場価格が形成されていますので、基本的には証券取引所で取引がされている株価を基準に評価することになります。しかし、株式市場の上場株式の場合には、さまざまな要因によって株価が大きく変動する可能性があります。
そのため、相続税評価額の計算においては、以下の4つの価額のうち最も低い価額を上場株式の評価として採用することになっています。- ① 相続開始日の終値
- ② 相続開始日の月の取引日ごとの終値の平均額
- ③ 相続開始日の月の前月の取引日ごとの終値の平均額
- ④ 相続開始日の月の前々月の取引日ごとの終値の平均額
たとえば、被相続人が4月10日に亡くなったとして、株価の価額が以下のようなものであった場合には、最も低い価額である1100円に被相続人が保有する株式数をかけて、上場株式の評価額を算出することになるのです。
- 相続開始日(4月10日)の終値:1200円
- 相続開始日の月(4月)の終値の平均額:1150円
- 相続開始日の月の前月(3月)の終値の平均額:1100円
- 相続開始日の月の前々月(2月)の終値の平均額:1250円
3、非上場株式の相続方法と評価方法
相続財産に含まれる株式が非上場株式である場合に、株式を相続する方法や評価する方法について解説します。
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(1)非上場株式の相続方法
非上場株式を相続する方法は、以下の通りです。
① 相続財産調査
非上場株式は、上場株式のように証券取引所で取引されません。そのため、証券会社や信託銀行では非上場株式を管理しておらず、証券会社などに照会をかけたとしても、非上場株式を把握することができないのです。
したがって、非上場株式の場合には、株式発行会社に直接問い合わせをしなければ、その存在および内容を把握することができません。
ただし、通常の場合は、非上場株式を保有している方は株式発行会社との間に何らかの関係性があるでしょう。
被相続人が会社経営者や同族会社の役員であった場合には、当該会社の株主である可能性があるため、当該会社に問い合わせをするようにしてください。
② 遺産分割協議
非上場株式の場合にも、上場株式と同様に、遺産分割協議によって遺産分割を行います。
非上場株式の場合には、後述するように複数の評価方法があり、どの評価方法を採用するかによって、評価額は大きく異なってきます。
非上場株式の評価方法は非常に複雑であるため、弁護士や税理士などの専門家に相談をすることをおすすめします。
③ 株式の名義書き換え
上場株式の場合には、証券会社や信託銀行において名義書き換えの手続きを行います。
一方で、非上場株式の場合には、株式発行会社に連絡をして名義書き換えの手続きを行うことになるのです。 -
(2)非上場株式の評価方法
非上場株式の評価方法としては、以下のようなものがあります。
① 原則的評価方式
株式を相続することによってその会社の経営権を取得することになる場合には、原則的な評価方式である以下の方法によって、非上場株式の評価を行います。
● 類似業種比準価額方式
相続の対象となる株式を発行している会社が大会社である場合には、原則として類似業績比準価額方式によって非上場株式の評価を行います。
類似業種比準価額方式とは、事業内容の類似する上場会社の株式の株価に比準して、非上場株式の株価を評価する方法です。
類似業績比準価額方式による評価は、純資産価額方式に比べて評価額が低くなることが多くなっております。
● 純資産価額方式
相続の対象となる株式を発行している会社が小会社である場合には、原則として純資産価額方式によって非上場株式の評価を行います。
純資産価額方式とは、株式を会社財産に対する持ち分と考えて、会社の純資産額に基づいて非上場株式の株価を評価する方法です。
● 併用方式
相続の対象となる株式を発行している会社が中会社(大会社と小会社以外の会社)である場合には、上記の類似業種比準価額方式と純資産価額方式を併用して、非上場株式の株価の評価を行います。
どちらの方式をどの程度の割合で併用するのかについては、中会社の規模に応じて具体的な割合が決まっています。
中会社の中でも規模が大きいものについては、類似業種比準価額方式を90%、純資産価額方式を10%としますが、中会社の中でも規模が小さいものについては、類似業種比準価額方式を60%、純資産価額方式を40%とします。
② 特例的評価方式
株式を相続することによってその会社の経営権に影響を及ぼすことがない場合には、特例的評価方法である「配当還元方式」によって非上場株式の評価を行います。
配当還元方式とは、当該株式を所有することによって1年間に受け取る配当額を一定利率で還元して元本である非上場株式の株価を評価する方法です。配当還元方式では、類似業種比準価額方式や純資産価額方式と比べて簡単に非上場株式を評価することができますが、評価額は類似業種比準価額方式や純資産価額方式よりも低くなる傾向があります。
4、株式の相続は弁護士へ相談を
相続財産に株式が含まれている場合には、弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)正確な財産調査が可能
預貯金や不動産であれば相続人でもある程度はその存在を把握していることがあります。しかしながら、株式については、相続人でもその存在を把握していることはあまりありません。そのため、株式の存在に気付くことなく、遺産分割手続きを進めてしまうおそれがあるのです。
弁護士であれば、株式についての相続財産方法を熟知しているため、上場株式だけでなく非上場株式についてもさまざまな手段を駆使してその存在を明らかにすることができます。相続財産に漏れがあった場合には、再度遺産分割協議を行う必要もあるため、株式が相続財産に含まれる場合には、弁護士に相続財産の調査を依頼するとよいでしょう。 -
(2)株式について適切に評価することが可能
相続財産に含まれる株式が上場株式である場合には、その評価も難しいものではありません。しかし、非上場株式である場合には、評価方法は非常に複雑になります。相続に関する専門的な知識がなければ、非上場株式の評価額を算定するのは困難でしょう。
株式について適切に評価するため、弁護士に依頼することをおすすめします。
5、まとめ
相続財産に株式が含まれる場合には、その株式が上場株式であるか非上場株式であるかによって、株式の評価方法が異なってきます。評価方法を誤ると、本来相続することができるはずであった財産も相続できなくなるリスクがあります。
そのため、株式が含まれる相続については、弁護士に相談するようにしましょう。
新潟県にお住まいで、相続に関してお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスまでお気軽にご相談ください。
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