相続放棄が行われると代襲相続は発生しない? 両者の関係性について解説
- 相続放棄・限定承認
- 相続放棄
- 代襲相続
人口動態統計のデータによると、新潟県内における2019年中の死亡数は3万572人で、出生数の1万3640人を大幅に上回りました。
相続人が被相続人よりも先に死亡したケースなどで発生する「代襲相続」には、民法上複雑なルールが設けられています。
代襲相続は相続人の死亡時以外にも発生しますが、相続人が相続放棄をした場合、代襲相続は発生するのでしょうか。
この記事では、代襲相続と相続放棄に関する基礎知識と、両者の関係性を中心に、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「新潟県の令和元年人口動態統計(確定数)の概況を公表します」(新潟県))
1、代襲相続・相続放棄とは?
まずは代襲相続と相続放棄について、基本的な知識を理解しておきましょう。
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(1)代襲相続とは
代襲相続とは、何らかの理由によって相続人が相続権を失った場合に、相続人の子どもなどが代わりに、同じ相続割合による相続権を得ることをいいます。
代襲相続の制度が設けられているのは、相続権を失った直系卑属(子ども・孫など、ご自身から見て垂直につながる世代が下の血族のこと)の相続に対する期待を保護する公平の観点と、血縁の流れに従って財産を引き継がせるのがよいという価値判断を理由としています。
代襲相続が発生するのは、相続人が以下のいずれかの理由によって相続権を失った場合です(民法第887条第1項)。- 死亡
- 相続欠格事由(民法第891条)
- 廃除(民法第892条)
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(2)相続放棄とは
「相続放棄」とは、被相続人の遺産を一切相続しないという相続人の意思表示をいいます。
遺産の中には、資産だけでなく、借金などの「負債」が含まれている場合があります。相続を承認すると相続人は、負債を含めて遺産を相続することになります。
しかし、資産に比べて負債の方が多い債務超過の場合、相続人はマイナスの財産を相続することになってしまい、大きな負担となります。
このような場合には、資産・負債を含めて一切の遺産の相続を放棄することにより、マイナスの財産を相続する負担を回避することができるのが相続放棄となります。
相続放棄手続きは、家庭裁判所に対して申述書を提出する方式によって行う必要があります(民法第938条)。
相続放棄をした場合、その相続人は初めから相続人とならなかったものとみなされ(民法第939条)、他の(次の順位の)相続人へと相続権が移ります。
なお、相続放棄は原則として、「相続の開始を知った時から3か月以内」に行わなければならないため(民法第915条第1項)、遺産の中に負債があることが分かった場合には、できる限り早めの対応をとることが大切です。
2、代襲相続人の範囲は?
代襲相続人となることができる者の範囲は、被相続人と相続人の続柄によって決まっています。
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(1)被相続人の孫
被相続人の子どもが死亡・欠格事由・廃除のいずれかに該当した場合、さらにその子ども(被相続人の孫)が代襲相続人となります(民法第887条第2項本文)。
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(2)被相続人のひ孫以降(再代襲相続)
また、被相続人の子どもと、代襲者である孫がいずれも死亡・欠格事由・廃除によって相続権を失った場合、孫の子ども(被相続人のひ孫)が代襲相続人となります(民法第887条第3項)。
これを「再代襲相続」といいます。
再代襲相続のルールは、ひ孫以降の子孫についても同様に適用されます。
したがって理論的には、ひ孫の次の玄孫(やしゃご)、来孫(らいそん)・・・・・・についても、代襲相続人となることが可能です。 -
(3)被相続人の養子の子どもの取り扱いは?
注意しなければならないのが、被相続人の養子が死亡・欠格事由・廃除に該当したことによって代襲相続が発生する場合です。
被相続人の養子も「子ども」であることに変わりはないのですが、養子の子どもが代襲相続人となるためには「被相続人の直系卑属であること」が要件となります(民法第887条第2項但し書き)。
この点、養子の子どもが被相続人の直系卑属に当たるか(=代襲相続人になれるか)どうかの分岐点は、「養子の子どもが養子縁組の前に生まれたか、後に生まれたか」の点にあります(大審院昭和7年5月11日判決)。
養子の子どもが養子縁組よりも前に生まれた場合、その子どもと被相続人の間には何ら血族関係がありません。
したがってこの場合、養子の子どもは被相続人の「直系卑属」には当たらず、代襲相続人になることはできないのです。
これに対して、養子の子どもが養子縁組よりも後に生まれた場合には、その子どもは被相続人と血族関係になります。
よってこの場合は、養子の子どもは被相続人の「直系卑属」に該当し、養子の相続権喪失によって代襲相続人となることができます。 -
(4)被相続人の甥(おい)、姪(めい)
被相続人の兄弟姉妹が相続人であるケースで、兄弟姉妹が死亡・欠格事由・廃除によって相続権を失った場合、その子どもである被相続人の甥・姪が代襲相続人となります(民法第889条第2項、第887条第2項)。
ただし、被相続人の甥・姪の子どもについては、被相続人の孫のケースとは異なり、再代襲相続は認められません。
3、相続放棄と代襲相続の関係性について
代襲相続が発生するのは、相続人が死亡・欠格事由・廃除によって相続権を失った場合であることを、これまでに解説しました。
では、相続人が相続放棄によって相続権を失った場合、代襲相続は発生するのでしょうか。
相続放棄と代襲相続の関係性について解説します。
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(1)相続放棄では代襲相続は発生しない
代襲相続の発生事由は限定列挙であり、民法の規定に書かれていない事由によって代襲相続が発生することはありません。
したがって、相続放棄が民法上の代襲相続事由とされていない以上、相続放棄をした相続人の子どもが代襲相続人となることはありません。 -
(2)相続放棄により、別の相続人について代襲相続が起こるケースがある
ただし、一部の相続人が相続放棄をしたことの結果として、別の相続人について代襲相続が発生するというケースは一応考えられます。
たとえば、以下のようなケースを考えてみましょう。<設例>- もともとの相続人は子どもAのみ(被相続人の配偶者はすでに死亡。被相続人に他に子どもはいない)
- 被相続人の父母はすでに死亡
- 被相続人の弟Bはすでに死亡。被相続人に他に兄弟姉妹はいない
- Bの子ども(被相続人の甥)であるCは存命
- Aが相続放棄をした
設例のケースでは、被相続人の配偶者がすでに死亡しており、他の子どもはいないため、子どもAが単独で相続権を有するはずでした。
しかし、Aが相続放棄をしたことにより、Aははじめから相続人とはならなかったものとみなされます。
この場合、被相続人の父母もすでに死亡していますので、相続権は被相続人の唯一の兄弟であるBに移ります。
ところがBも死亡していますので、Bの子どもであるCが代襲相続人として相続権をすることになります。
このように、もともとの相続人であるAが相続放棄をした結果として、別の相続人であるBについて代襲相続が発生するケースも、ごく例外的ではありますが存在します。
4、代襲相続によるトラブルを回避するためにできること
代襲相続が発生すると、相続関係が複雑になり、また比較的年少の相続人が相続権を得るケースが多いこともあって、相続に関してトラブルが生じる可能性が高くなります。
代襲相続をめぐる相続トラブルを防止するためには、以下の対策をとることが有効です。
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(1)遺言書・生前贈与によりあらかじめ財産の処分方法を決める
代襲相続によって決定される相続分にかかわらず、遺言書を作成すれば、被相続人となる人が自分の意思で相続分を指定することができます。
また、相続発生前に財産を生前贈与しておくことも考えられます。
遺言書や生前贈与によって、代襲相続とは無関係に、被相続人の意思によって財産の分け方を決めておけば、遺産分割協議の対象となる財産の範囲が狭くなり、相続に関する紛争のリスクは低下します。
ただし、遺言書の作成や生前贈与を行う際には、法定相続人に認められた遺留分に配慮することが大切です。
被相続人となる人が自分の意思で相続分を指定できるとしても、遺贈や生前贈与が遺留分を侵害するような場合、相続開始後に遺留分侵害額請求が行われ、相続人同士の紛争が発生してしまうおそれがあるので注意しましょう。 -
(2)弁護士に遺産分割協議の調整を依頼する
代襲相続人を含めて遺産分割協議を行う場合、弁護士にその調整を依頼することをおすすめいたします。
弁護士に相談すれば、代襲相続の結果を踏まえた正しい相続処理を行い、公平・迅速・円満に遺産分割を完了できる可能性が高まります。
5、まとめ
相続放棄は代襲相続事由に該当しないため、相続人が相続放棄によって相続権を失った場合でも、その子どもが代襲相続人となることはありません。
代襲相続が発生する場合、通常の相続よりもトラブルが生じる可能性が上がるので、お早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめいたします。
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相続手続きに関するトラブルをお抱えの方、相続問題を円満に解決したい方は、お早めにベリーベスト法律事務所 新潟オフィスまでご相談ください。
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