子どもを連れて家出すると親権に影響する? 弁護士がリスクを解説
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新潟県内を管轄とする新潟家庭裁判所では、平成30年度には472件の「子の監護事件」が取り扱われています。
「夫(妻)との結婚生活に耐えられず、子どもを連れて家出したい」とお悩みの方も少なくないものでしょう。しかし衝動的に子どもを連れて家出をしてそのまま別居すれば、子どもを違法に連れ去ったものとして、離婚の際の親権獲得に不利な影響を及ぼす可能性があります。
親権に不利な影響を及ぼすことなく子連れ別居をするためには、家庭裁判所の「子の監護者指定の調停・審判」手続きを利用するなど正当な方法で実現することが大切です。
本コラムでは、子どもを連れての家出が親権に及ぼす影響について、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説します。
1、違法な連れ去りは親権獲得に不利になる可能性も
未成年の子どもがいる夫婦が離婚するときには、原則として父または母の一方を子どもの親権者として定めなければなりません。
しかし離婚については合意できても、両親が子どもの親権を譲らず争いになることも少なくありません。そういった場合には、家庭裁判所の調停で、父母のどちらが親権を獲得するのにふさわしいかを話し合うことになります。
家庭裁判所の親権者の判断における考え方では、子どもの生活している現状を維持することが重視される傾向がありました。子どもにとっては、学校や生活圏などの環境が変わらないようにすることが福祉にかなうと考えられるためです。しかしそれでは、子どもを連れて別居をした側が、親権獲得に有利になってしまうという問題が生じていました。
近年、日本がハーグ条約に加盟した影響もあり、家庭裁判所の考え方に変化が生じています。簡単にいえば、「違法な子どもの連れ去りは認めない」という考え方が強まっているといえます。
つまり、子どもを連れての家出が違法な連れ去りと判断されたときには、親権獲得に不利になる可能性があるので注意が必要です。
2、違法なケースと正当なケース
具体的に、どのようなケースで子どもを連れて家出が違法な連れ去りと判断されうるのでしょうか。
またどのようなケースが、正当と判断されるのでしょうか。
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(1)違法な連れ去りになりうるケース
離婚前における子どもを連れての家出は、子どもの連れ去りの態様や夫婦間の話し合いの状況などが考慮された上で違法性があるかを判断されることになるでしょう。
具体的には、次のようなケースは違法と判断される可能性があります。- 保育園や小学校などで子どもを待ち伏せしてそのまま連れ去った
- 親権をめぐって夫婦間で争いがある中、無理やりに子どもを連れ去った
また「子どもが行きたくないと意思表示しているのに無理やり連れて家を出た」「普段全く養育していないのに子どもを連れて家を出た」といったケースも、子どもの利益を考えていない行動として、親権獲得に不利に働く可能性があります。
配偶者の同意なく子どものためにならない連れ去りを行えば、家庭裁判所が親権者として適格かを判断する際に不利に働く可能性があると言えます。 -
(2)正当と判断されうるケース
子どもを連れての家出で違法性が問われない可能性が高いケースは、次のようなものが挙げられるでしょう。
- 配偶者からのDVがあり子どもへの影響が懸念されていた
- 配偶者が子どもを虐待していた
- 配偶者の合意が得られていた
- 家庭裁判所で監護者として指定を受けた上で子どもを連れて別居した
家を出ることが、子ども自身の利益になるケースや、配偶者の合意または監護者の指定を得られたケースでは、正当と判断されると考えられます。
3、子どもを連れて家出する前に知っておきたい! 親権者の決定方法とは
親権に不利な影響を及ぼさないようにするためには、親権者がどのように決まるのかを知っておくことも重要です。親権者は、主に次のような方法で決定します。
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(1)夫婦の話し合い
夫婦の話し合いで離婚および親権者についても合意できれば、親権者は決定します。
なお、協議離婚は離婚届を提出して行いますが、離婚届には親権者を記載しなければなりません。つまり親権者が決定できなければ、離婚も成立しません。 -
(2)家庭裁判所の離婚調停
夫婦の話し合いで親権者が決定できないときには、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
離婚調停の中で、調停委員を交えて夫婦が話し合いを重ねて親権者についての合意を目指します。
調停中、裁判所が必要と判断したときには、家庭裁判所の調査官による調査が行われます。具体的には、調査官が父母や子どもと面談する、家庭や学校を訪問するなどの調査を行います。そして調査官の報告によって、父母どちらが親権者としてふさわしいかといった裁判所の方針が定められることになります。
裁判所では、次のような事柄を総合的に考慮して親権者を判断します。- 監護状況
- 子どもの対する愛情
- 子どもの年齢や意思
- 父母の健康状態や経済状況
- 子育てのサポート体制
そのため違法な連れ去りがあれば、裁判所が親権者を判断する際の不利な材料となりえます。
なお離婚調停でも親権者が決定できないときには、離婚裁判を申し立てて最終的には裁判官の判決をもって親権者を決定することになります。
4、親権へのリスクを回避するためにするべきこと
子どもを連れての家出が親権獲得のリスクにならないようにするためには、合法的に子どもと家を出ることが重要です。
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(1)家出前
親権獲得に不利にならないようにするためには、家出前にはご自身が子どもの監護権を認められる状況を作っておくことが重要です。
監護権とは、子どもと一緒に暮らして身の回りの世話や教育を行う権利をいいます(民法第820条)。
ここで、監護権と親権は何が違うのかと、疑問が生じるかもしれません。
監護権は親権に含まれる権利です。しかし、必ずしもセットである必要はなく、親権と分けて考えることが可能です。つまり、親権を父がもち、監護権は母がもつ、というケースもあり得ます。
監護権は、父母の話し合いで合意できれば決定できます。
しかし、話し合いで合意できないときや話し合いさえ拒絶されているようなときには、家庭裁判所に「子の監護者の指定調停」や「子の監護者指定審判」を申し立てるとよいでしょう。
「子の監護者の指定調停」では、調停委員を介して父母で監護者を定めるための話し合いを進めます。
裁判所では、次のような事情を把握した上で、子どもの健全な成長につながることを考えて話し合いを進めていきます。- 監護者になることを希望する事情
- これまでの養育状況
- 父母双方の経済力
- 家庭環境、子どもの生活環境など
- 子ども側の性格
- 就学の有無
なお調停で父母が合意できなければ、調停は不成立になります。そして自動的に「子の監護者指定審判」の手続きに移行します。審判では、裁判官が一切の事情を考慮して父母どちらを監護者として指定するかを判断します。
監護者と指定された上で子どもを連れて別居した場合、離婚時に親権も獲得できる可能性が高くなります。 -
(2)家出後
すでに子どもを連れて家出した後であれば、配偶者から子どもとの面会交流の申し出があった場合、不当に拒絶しないようにしましょう。
面会交流を不当に拒絶することは、子どもの健全な成長を阻むものと判断されて親権獲得に不利に働く可能性があるという理由からです。
また子どもを戻すように相手側から要求されたときなどには、状況に応じた適切な対応をとる必要があります。
かたくなに拒否するのは得策ではありません。まずは弁護士へ相談し、話し合いの場を設けるなど解決に向けた前向きな対応を心掛けてください。
5、離婚問題は弁護士に相談を
離婚の際には、子どもの親権だけでなく養育費・財産分与・慰謝料など解決すべき問題は多岐にわたります。離婚したいという気持ちが勝り、問題を解決しないまま離婚してしまえば、大きな損失となり後悔へとつながる可能性も高いものです。
そのようなことのならないように、離婚問題は弁護士に相談することが重要なポイントになるでしょう。
親権を獲得したい、すでに家出をしてしまった、など状況はさまざまです。弁護士は、経緯や現状を丁寧にヒアリングした上で、それぞれにあった解決方法や法的手続きをアドバイスします。
また、弁護士は、代理人として配偶者と話し合うことができるので、顔をあわせることなく話し合いを進めることも可能です。
その他、養育費や財産分与などについて適切に請求ができるようサポートします。
離婚問題は、家庭に深く踏み込む内容のため相談がしにくいという側面があります。そのため、精神的な負担をひとりで背負ってしまうケースも少なくありません。しかし弁護士は、あなたの味方であり、離婚が成立するまで力強くサポートを続けます。
離婚問題こそ、ひとりで悩むのではなく弁護士に相談することをおすすめします。
6、まとめ
本コラムでは、子どもを連れての家出が親権に及ぼす影響について、リスクを含めて解説していきました。
裁判所の現状維持の原則から考えると、親権獲得は子どもと一緒に暮らす側に有利になりうると考えられます。だからといって、子どもを連れて家出して別居を強行すればよい、というわけではありません。違法に連れ去ったと判断された場合は、かえって親権に不利に働くことがあることためです。
子どもを連れて家を出る場合は、法的に問題ない状態であることはもちろん、未来を見据えて行動することが大切です。
ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士は、親権獲得を含めた離婚問題のアドバイスや解決に向けたサポートを全力で行います。
ひとりで悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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