養育費や生活費……専業主婦が離婚するときに気をつけるべきポイントは?
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浮気や暴力、精神的DV、性格や感覚の不一致……。離婚したほうがいいと感じていても、特に女性で、自分自身が専業主婦であれば、生活や子どものことが不安になり、踏み出せないという方は少なくありません。
もちろん、元は他人同士だった二人が家族になったのですから、新たな家庭をはぐくむ過程において、多少の忍耐は必要でしょう。しかし、何よりも大切なものは、あなた自身の命と心です。お子さんがいらっしゃる場合は特に、母親であるあなたが心からの笑顔でいることこそが、お子さんにとって一番うれしいことなのではないでしょうか。
とはいえ、やはり生活費などのお金も必要です。そこでこちらの記事では、離婚しても安心して生活するため、離婚する際に気をつけるべきポイントを、弁護士がわかりやすく解説していきます。
1、専業主婦が離婚したいとき、準備しておくべきこと
「離婚は、結婚の10倍、100倍大変だ」という話があります。それは、もともとひとつのまとまりとして機能していた財産や日常生活における役割を、完全に分割しなければならないためです。
特にあなたが専業主婦である場合、生きていくために欠かせない「収入源」を、失ってしまうことになるケースがほとんどです。そこで、あらかじめ入念な準備が必要となります。
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(1)なぜ離婚したいのかを明確にする
夫から離婚したいと言われているなど、夫婦の双方が離婚を希望している場合は問題ありませんが、もし自分だけが離婚を希望している場合は、離婚するための理由が必要です。もし、離婚の話し合いがこじれた場合、調停や裁判などで離婚理由として認められる条件は5つあり、民法770条1項に記されています。
1.不貞行為(770条1項1号)
⇒配偶者の浮気・不倫が当たります。
2.悪意の遺棄(同条項2号)
⇒生活費を渡してくれない、夫が勝手に別居を始めて帰ってこないなどのケースが当てはまります。
3.3年以上の生死不明(同条項3号)
⇒夫が完全に行方不明になってしまった場合がこれに当たります。単純な離婚ではなく、失踪宣言などを活用したほうが良いケースもあります。弁護士に相談しましょう。
4.強度の精神病に罹り、回復の見込みがないこと(同条項4号)
⇒意思の疎通が難しいレベルの精神病にかかってしまい、かつ回復の見込みがないと診断されている場合はここに当てはまります。うつ病など、意思の疎通が可能で、かつ寛解する可能性が高いケースは当てはまりません。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があること(同条項5号)
⇒あなたや子どもが暴力や暴言など虐待を受けている、性生活面での趣味嗜好を強要されている場合などが当てはまります。
これらの離婚理由は、「法定離婚事由」と呼ばれています。まずは、なぜ自分が離婚をしたいのかということを明確にして、誰が見ても理解してもらえるような準備が必要となります。 -
(2)離婚後の生活について必要な費用などを想定しておく
言うまでもないことですが、離婚をすれば、あなたと夫は他人となります。これまで受け取っていた生活費や、住む場所なども婚姻中と全く同じ状況を続けることはできなくなります。
離婚を決意したら、まずは、離婚後、生活に必要となりそうなお金をシミュレーションしておきましょう。住居費や生活費、子どもがいる場合は教育費や養育費も考えておく必要があります。
また、離婚の際、引っ越しや調停などを起こす費用も必要となるかもしれません。離婚後すぐに就職するための準備はもちろん、離婚するためにもまとまった費用がかかる可能性もあります。離婚を決意したら、ある程度のへそくりを貯めておくことをおすすめします。 -
(3)子どもがいる場合はどちらが親権をもつべきか考えておく
子どもを養育し、保護監督をする権利・義務を負う立場となることを「親権」と呼びます。婚姻中は、あなたと夫の二人でこの親権を担っていますが、離婚後は多くのケースで、どちらか片方が親権をもつことになります。そのため、「子どもがいるから」、「子どものために」離婚を決意できないと考える方は少なくないでしょう。
親である以上、子どもの幸せを願い、ずっと共に過ごしたいと願うことは当然のことです。しかし、子どもを健全に育成するためには、養育者の生活・経済・精神面における安定が必要不可欠であることは、否定できない事実でしょう。仲たがいしている両親のもとで育つこともまた、子どもにとっては悪影響であるともいえます。子どもにとってこそ、離婚したほうが良いケースもあることも考慮すべきです。
また、親権を決める際は、「子どもにとって、どちらが親権を得たほうが良いのか」という観点を最優先事項として考える必要があります。子どもが中学生、高校生くらいの年齢であれば子どもの意志を確認したほうが良いでしょう。
もし離婚をした場合、子どもも生活環境が変わることとなります。後述しますが、さまざまな公的支援もあります。自分自身が離婚後得られる収入や、子どもの預け先なども含め、検討してみましょう。 -
(4)夫婦の共有財産を把握しておく
前述したとおり、離婚後はもちろん、離婚時にもお金が必要となります。そこで、離婚したいと口にする前に、実際に自分がどれぐらいの財産があるのかを確認しておく必要があります。
独身時に作っておいた個人の貯金は、あなたの単独所有財産です。また、結婚生活中に得た財産・資産は、あなたが専業主婦で直接の収入を得ていなくても、夫婦の共有財産となります。
不動産の登記簿謄本や年金手帳、ローン契約書など、貯金財産、資産に関する情報は、あらかじめコピーを取って控えておくとよいでしょう。 -
(5)離婚原因が夫にある場合は証拠集めを!
離婚したい理由が「(1)なぜ離婚したいのかを明確にする」で説明した「法定離婚事由」に当てはまり、夫が離婚原因をつくった「有責配偶者」であると認められた場合は、慰謝料を請求することができます。
しかし、慰謝料を請求したとしても、スムーズに請求額を支払ってくれるとは限りません。場合によっては、調停や裁判など公的な機関を利用して争うこととなる可能性もあります。そこで、有利に話し合いを進められるよう、あらかじめ夫が有責配偶者であるという証拠をしっかりつかんで揃えておきましょう。
また、スムーズに離婚の話し合いが進まない場合は、慰謝料請求をしなくても、法定離婚事由があることを証明する必要にせまられることもあります。いずれにせよ、離婚に関係する証拠は、できる限り集めておいた方がよいでしょう。
2、離婚の際、相手から受け取れる可能性のあるお金は?
専業主婦が離婚するとき、着の身着のまま追い出されるのではという不安を抱いている方もいるかもしれません。しかし、法律上では、婚姻中に夫婦で築いた財産を分け合う「財産分与」や、夫が有責配偶者であれば「慰謝料」、親権が母親であるあなたにあれば「養育費」を受け取ることが可能となります。
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(1)財産分与
財産と一口に言っても、婚姻期間中に夫婦で築き上げた「共有財産」と、婚姻前に自身で貯めた貯金や購入した不動産などの「単独所有財産」があります。
離婚する際に分け合うのは、「共有財産」です。共有財産の定義は、「婚姻中に夫婦の協力により形成・維持されたもの」であり、名義が夫のみであろうと、共同名義であろうと関係ありません。土地や建物などの不動産、貯金、保険解約返戻金も共有財産の対象となりえます。
ただし、離婚前であっても、互いの合意に基づいた別居後に築かれた財産については、共有財産とはみなされないので注意が必要です。
財産を分け合うことは、「財産分与」と呼ばれます。
財産分与は、「清算的財産分与」、「扶養的財産分与」、「慰謝料的財産分与」という3つの側面で分類されています。
一般的に「清算的財産分与」といえば、共有財産を作っていくときの貢献度に応じて分配される財産を指すケースがほとんどです。専業主婦で収入がなかったとしても、家事や育児を担い、夫が安心して仕事に打ち込める環境を作り、家庭生活を支えたという実績があれば、夫婦の共有財産の形成に貢献したとみなされるため、清算的財産分与を請求することが可能です。
「扶養的財産分与」とは、離婚によって収入源が絶たれることで、生産的財産分与を行ったとしても、なお生活に困窮してしまうというケースにおいて、扶養的な目的によって財産の分与が行われることを指します。
また、有責配偶者から受け取る慰謝料と財産分与の内訳を区別せず、まとめて分与したケースは「慰謝料的財産分与」と呼ばれています。
清算的財産分与を請求するうえで重視されるのは、「共有財産がどれだけあるか」と、「自分の資産形成の貢献度はどれくらいか」の2点です。そのため、まずは前述したとおり、共有財産の内訳をあらかじめ調べておき、家庭生活の実績を証拠のひとつとなるように、できる限り残しておく必要があります。 -
(2)慰謝料
前項の「(5)離婚原因が夫にある場合は証拠集めを!」で説明したとおり、夫が不貞行為をしていた、DVがあったなど、有責配偶者である場合、慰謝料の請求が行えます。
離婚原因が双方にある、あなた自身が有責配偶者の場合は、慰謝料請求は行えませんので注意が必要です。 -
(3)養育費
もしあなたに未成年の子どもがいて、あなたが親権を取る場合は、子どもの健全な育成のために養育費の請求が行えます。
養育費は、話し合いに基づいて決められていきます。もし合意できず、調停や裁判となった場合は、あなた自身と夫のそれぞれの収入を参考にして家庭裁判所が定めた「算定表」に基づいて金額が決められます。
養育費の相場については、ベリーベスト法律事務所が養育費算定表を参考にした「養育費計算ツール」をご用意しています。ぜひご活用ください。
養育費計算ツール -
(4)婚姻費用分担請求
離婚後に受け取れる費用ではありませんが、「婚姻費用分担請求」という制度があります。
離婚が成立する前、離婚準備に伴い、別居を選択されるケースは多々あります。その際、専業主婦であれば、別居中の生活費はどうしたらいいのか悩まれる方も多いかもしれません。そんなとき、別居後も夫に生活費の負担を求めることができる制度です。
民法上、夫婦は互いの生活を支える義務があります。婚姻生活中に受け取っていた生活費は、この義務に基づいて支払われているもので、法律用語では「婚姻費用」と呼ばれています。この義務は、別居中であろうと、婚姻中であれば適用されるものです。
もし、別居中は生活費がもらえないという場合は、婚姻費用の分担を請求する調停を申し立ててください。詳しくは弁護士に相談するとよいでしょう。
3、離婚後、ひとり親家庭が受けられる公的援助・扶助
離婚が成立し、あなたが未成年の子どもの親権を取れば、あなたはシングルマザーとなり、あなたの世帯はいわゆる「ひとり親家庭」となります。
かつては母子家庭と定義されていたひとり親家庭は、一般的に所得が低くなりがちなことから、多くの市区町村では、さまざまな助成金や税金の免除などを受けられるケースがほとんどです。
ただし、あなた自身の所得や子どもの年齢、状況、お住まいの市区町村によって、受けられる支援の内容が異なります。詳しくは、離婚後に住む居住地の役所に問い合わせるとよいでしょう。
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(1)受け取れる可能性があるお金
- ①生活保護
- ②児童手当
- ③児童扶養手当
- ④児童育成手当
- ⑤特別児童扶養手当
- ⑥母子家庭等の住宅手当
- ⑦ひとり親家族等医療費助成制度
- ⑧医療費助成制度(乳幼児・義務教育就学児)
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(2)公的費用の負担減免や、その他支援
- ①所得税・住民税の免除
- ②国民年金、国民健康保険の免除
- ③保育料の免除と減額
- ④交通機関の割引制度
- ⑤粗大ゴミ処理手数料や上下水道の減免制度
- ⑥自立支援教育訓練給付金
- ⑦高等職業訓練促進給付金、高等職業訓練修了支援給付金
- ⑧母子寡婦福祉資金貸付金などの奨学金制度
- ⑨母子寮・DVシェルター・母子生活支援施設などの自立支援
まとめ
いかがでしたか? 離婚をするのも、離婚後の生活を考えるという面でも必要となってくるお金。あなた自身の心身の健康以上に大切なものはありません。もし、DVなどの被害に遭っていたら、まずはお住まいの市区町村の福祉課に相談してみてください。生活支援施設の紹介をしてもらえることもあります。また、弁護士費用についても、日本司法支援センター(法テラス)に相談してみましょう。弁護士費用を立て替える「代理援助」という制度があり、分割払いが可能です。
ただ、今回ご紹介したとおり、何の準備もなく、やみくもに離婚してしまうと、必要なときに必要なお金が得られにくくなってしまいます。可能な限り、入念に準備されることをおすすめします。もし、対策や準備をご自身だけで行うことが難しい場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。可能な限り、あなたの新しい生活で有利になるように力を尽くします。
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