スキーやスノボの衝突事故、相手に損害賠償請求はできる? ゲレンデ事故のポイントを弁護士が解説
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毎年たくさんの雪が降り、県内はすべて豪雪地帯に指定されている新潟県では、平成28年度の冬(平成28年12月~29年3月)、雪に関連した事故で6人が死亡、93人が負傷しています。
路面凍結による転倒や除雪作業中の事故など、冬ならではの事故というのはさまざまありますが、その中のひとつとして考えられるのが、スキー・スノーボード中の事故ではないでしょうか?
全国3位のスキー場数を誇る新潟県では、例年多くのスキーヤーやスノーボーダーが訪れ、ウインタースポーツを楽しんでいますが、残念ながら事故も多く発生しています。
スキーやスノボ事故の代表ともいえるのが「衝突事故」ですが、「滑走中に転倒し、転倒直後に上方から滑走してきたスキーヤーと衝突してしまった」場合、事故の責任は誰にあるのでしょうか?
また、その事故により、転倒中に衝突された人がケガをした場合、上方からのスキーヤーに対し、損害賠償を請求することができるのでしょうか?
出典:「新潟県警察ホームページ」「新潟あれこれ 全国ベスト5」(新潟県庁)
1、スキー中の衝突事故、責任は誰にある?
スキーやスノーボードを楽しんでいる最中に起きた衝突事故。転倒者を避けられず衝突した側に責任があるようにも思えますし、コースの途中で止まっていた側にも過失があるように思えます。
過去の事例では「責任の所在」が誰にあると判断されているのでしょうか?
これについて、結論からいいますと、スキー中の衝突事故の責任は、基本的には「上方からの滑走者(衝突した人)」にあるとされ、下方滑走者が後方を注意する義務は原則とされていません。スキーやスノーボードをするときには、他人にぶつからないように避けて滑らなければならないということです。
加害者側に、「(被害者が)コースの途中で止まっていたため、衝突を回避できなかった」という事情があったとしても、原則、上方滑走者に責任があるとしています。
そうはいっても、コースの途中で正当な理由なく止まっていたにもかかわらず、ぶつかった人だけを悪いとするのでは公平性に欠けますので、そのような事故においては、衝突された側にも過失があると判断された例もあります。
基本的には、上方からの滑走者(衝突した人)が悪いけれど、漫然とコース途中に立っていた結果、事故が起きたなどの場合には、下方滑走者(衝突された人)も責任を問われる可能性があるといえるでしょう。
2、スキー・スノーボード事故で損害賠償請求できるケース
ゲレンデで起きたスキーやスノボの事故において、損害賠償請求が認められるのはどのようなケースなのでしょう? 参考となる過去の判例(裁判所の見解)を紹介します。
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(1)損害賠償請求が認められたケース
はじめにお伝えしたように、スキー場での衝突事故については、上方から滑ってきた人に責任があるとするのが原則です。
有名な裁判事例としては、平成7年3月10日に最高裁判所第2小法廷で以下のような判決がなされています。
「スキー場で上方から滑ってくる人が、下方を滑る人よりも速い速度で滑降し両者が接触する事故について、事故現場が急斜面ではなく、下方を見通すことができた場合、上方から滑降する人には、前方や下方を滑走している人の動作に注意して、その人との接触や衝突を回避することのできる速度や進路を選択しなければならない注意義務がある」
この裁判では、1審(札幌地方裁判所)・控訴審(札幌高等裁判所)と、加害者の滑走に違法性はなかったとして、下方を滑っていた被害者の訴えを棄却(認めなかった)していました。しかし、上告審(最高裁判所)で被害者の訴えが認められ、札幌裁判所に差し戻しとなったのです。その後、差し戻しを受けた札幌裁判所にて、加害者の過失を6、被害者の過失を4として和解が成立しています。
加害者の滑り方には問題がなくても、下方を滑っている人に衝突したこと自体に過失(下方にいるスキーヤーに対する不注意)があるとした点がポイントといえるでしょう。
スキーやスノボの衝突事故においては、基本的には、「上方滑走者に責任」があるとしつつ、「事故の状況」や「双方のスキーの腕前」などにより、過失の割合や認められる損害賠償額が変わると考えられます。 -
(2)被害者にも過失があるとされたケース
過去には、スキー場の見通しの悪い段差の下にいたスノーボーダー(被害者)に、後続のスノーボーダー(加害者)が衝突した事故で、加害者に損害賠償責任を認めつつ、被害者にも過失があるとしたケースがあります。このケースでは、損害賠償額が35%減額されました(名古屋地方裁判所、判決:平成13年7月27日)。
損害賠償の請求自体はどのようなケースでもできますが、それが認められるか、あるいはどの程度認められるかについては、ケース・バイ・ケースとなるでしょう。
スキーやスノボ事故に遭い、相手に損害賠償請求をしたいと考えても、請求が認められるかどうかの判断をおひとりですることは非常に困難です。可能であれば弁護士に相談し、適切なアドバイスをもらうのが望ましいでしょう。
3、スキー事故ではどのような損害賠償が発生する?
衝突事故の責任が相手にあるとして、どのような費用を損害賠償として請求できるのでしょうか?
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(1)ケガの治療費
ケガの治療にかかった費用だけでなく、病院までの通院費なども含まれます。
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(2)壊れたスキー用具の費用
壊れたスキー板や破れたスキーウエアなどの弁償・修理費用を請求することができます。
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(3)休業損害
休業損害とは、事故のケガにより仕事を休まざるを得なくなったことで発生する損害をいいます。通常、有給休暇を使った場合でも、ケガが原因で休んだのであれば休業損害として請求することが可能です。
破損したスキー用具の修理費やケガの治療費などに比べて、仕事を休んだことと衝突事故との関係性を判断するのは難しいため、休業損害については、より厳格に判断されることとなります。 -
(4)慰謝料
慰謝料とは、損害賠償のうち、精神的苦痛に対して支払われる金銭をいいます。スキーやスノボ事故による傷害の場合、通院や入院期間を目安として算定するのが一般的です。
事故の状況やケガの具合、双方の収入などによって金額は変わると考えられますので、おおよその額を知りたい場合には、資料を持って弁護士に相談するのが良いでしょう。
4、スキー事故で損害賠償請求する方法
スキー・スノボ事故で相手に損害賠償請求をする場合の方法をご紹介します。
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(1)内容証明郵便
スキーやスノボ事故における損害賠償請求として、まず加害者本人に手紙や内容証明郵便などを送り、示談交渉をするという方法が考えられます。内容証明郵便というのは、「誰が、誰に、いつ、どんな内容の手紙を送ったか」を、郵便局(日本郵便株式会社)が証明してくれる制度のことです。
はじめに内容証明郵便で請求を行い、それをもとに話し合い(示談交渉)を進めるといったイメージになります。内容証明郵便には、利用するために守らなければいけない決まり(縦横の字数制限や使用可能文字など)がありますが、ご自身で作成することができます。難しい場合やより確実な請求を行いたい場合は、弁護士に依頼することもできます。 -
(2)示談交渉
内容証明郵便を送付した後は、その請求内容をもとに示談交渉(裁判をせず、話し合いで解決する方法)を行います。
請求金額や支払い方法に双方が合意したら示談成立となり、支払いを待つだけとなりますが、当事者だけでの話し合いではなかなか折り合いがつかないこともあるため、あらかじめ弁護士に相談しておくことをおすすめします。
また、スキー・スノボの事故では、相手(加害者)が加入している保険により、保険会社が対応をするケースも多くありますが、その場合、十分な検討が必要です。保険会社から提示される賠償金額が、休業損害や後遺障害に対する評価額として必ずしも適正とは限らないからです。すぐに同意することなく、弁護士による無料相談などを利用することをおすすめします。 -
(3)調停・裁判
話し合いによる合意が得られなかった場合や、相手にそもそも支払い意思がない場合などには、調停や裁判といった手続きを検討することになります(はじめから裁判をすることもできますが、スキー事故などにおいては示談交渉から入るのが通常といえるでしょう)。
調停は裁判所で行われますが、裁判のように「勝ち」「負け」を決めるものではなく、調停委員による仲裁を受けて進める話し合いとなります。調停や裁判に発展すると、相当な時間と労力がかかってしまいますので、示談交渉の段階で弁護士に相談・依頼しておくのが理想といえるでしょう。
5、まとめ
今回は、スキー・スノーボード中に起きた衝突事故の損害賠償請求についてご案内しました。
ゲレンデでの事故に関しては、上方からの滑走者に責任があるとするのが原則です。しかし、ドライブレコーダーなどの証拠がないことから、状況の説明や過失の証明が困難になる場合があります。
事故に遭い、「提示された示談金額が適正なものかわからない」、「時間がたってから後遺障害が出たらどうしよう……」など、不安を抱えていましたら、お気軽にベリーベスト法律事務所にご相談ください。経験豊富な弁護士が、それぞれの事故の内容に合った最適なアドバイスや対処法の提案を行っています。
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