ブラック企業と書き込まれたら名誉毀損? 削除依頼の方法も解説
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インターネットの掲示板や転職クチコミサイトなどで、「あの会社はブラック企業だ」といった書き込みを見かけることがあります。新潟市には3万7385の事業所があり、39万6433人もの従業員が働いています(平成26年7月1日時点)。これだけ多くの人が就業している以上、いつ誰がどのような書き込みをしても不思議ではないかもしれません。
しかし、企業としてはブラック企業と書き込まれることで、営業や採用に影響がでることがあります。名誉毀損(きそん)にあたる場合は、書き込みを削除するのはもちろんのこと、損害賠償を求めたいと感じることもあるかもしれません。
今回は、新潟県の企業の方向けに、インターネットの書き込みと名誉毀損の関係、書き込み削除の方法を解説します。
1、名誉毀損の罪とは?
まずは、そもそも名誉毀損(きそん)とは、どのような犯罪なのかを説明します。
刑法第230条には「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、 3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」とされています。
「公然と」とは、不特定多数の人が認識できる場所や状態を指します。インターネット上に書き込まれた誹謗中傷は、不特定多数の人が目にする可能性が高いため、これにあたります。また、仮にその情報が特定の人しか見ることができない仕組みになっていたとしても、見た人が流布させる可能性がある場合は「公然と」にあたります。
「事実を摘示」とは、具体的な事実を指摘し、知ることができる状態にすることです。事実が、真実なのか虚偽なのかは問題にならず、公表する方法も問われません。
「人の名誉を毀損する」とは、人の価値に対する社会的地位や評価を低下させることです。ここで言う「人」には企業や団体も含みます。また実際に低下したかどうかは関係ありません。
2、ブラック企業と書かれたら名誉毀損罪を主張できるのか
では、ブラック企業という書き込みは名誉毀損罪にあたるのでしょうか。
単に「○○会社はブラック」と書き込まれただけでは、名誉毀損罪にならない可能性が高いでしょう。具体的な事実を示しているとは言えず、人が信じるに足る根拠もないため、企業の社会的評価を低下させることにはならないからです。
では、下記のようにブラック企業である理由を、具体的に書き込んだ場合はどうでしょうか。
- 定時になると上司がタイムカードを勝手に押してサービス残業を強いる
- パワハラやセクハラが横行していて離職率が異常に高い
この場合は、名誉毀損罪が成立する可能性が高くなります。名誉毀損を主張できる余地は、十分にあるでしょう。
ただし、これらの内容が真実であった場合は、要件を満たしていても名誉毀損罪にあたらないことがあります。
刑法第230条の2では、公共の利害に関する事実が公益を図る目的で公表され、その事実が真実だと証明される場合に限り、「罰しない」と定めているからです。
つまり、会社の不正が真実だった場合、ブラック企業であるという情報は、就職活動中の人や、その企業との取引を考えている人などにとって有益なものになります。公表した目的が私利私欲を満たすためではなく、真剣な意図をもっていれば、公益を図る目的だと認められる可能性が高いでしょう。加えて、ブラック企業と呼ぶに値するような法令違反が行われていたと証明されてしまった場合は、残念ながら名誉毀損罪で訴えることは難しくなります。
ただし、特定の個人を名指し、たとえば「経理課は不倫が多い。○○と△△は不倫関係だ」などと書き込まれた場合には、事実だとしても名誉毀損罪が成立する可能性があります。特定の個人を攻撃するような書き込みは、「公共の利害に関する事実」にあたらず、「公益を図る目的」とも考えにくいためです。
3、名誉毀損にあたる書き込みをされた場合の削除方法
ブラック企業と書き込まれると、企業イメージの低下につながります。インターネットの情報は、あっという間に拡散する可能性が高いので、採用活動や会社の経営に影響を及ぼすおそれもあります。速やかに削除する必要があるでしょう。
削除の依頼手続きは、書き込まれた媒体によって異なりますが、代表的なものをご紹介します。
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(1)企業の担当者が依頼する場合
書き込みがあったサイトの規約に準じて、メールやウェブフォーム、スレッドなどを用いて削除依頼をだします。この時点で削除してもらえることもありますが、サイトによっては数日かかることもあります。通常の流れで削除してもらえなかった場合や、削除依頼の方法が定義されていない場合などは、送信防止措置依頼を行います。これは、「一般社団法人 テレコムサービス協会」が作成したガイドラインにもとづく削除依頼の方法です。サイト管理者やプロバイダー宛てに、推奨されているフォーマットに準じた依頼書を送付し、削除を依頼します。
これらは、すぐに対応できる方法ですので、企業の担当者が単独で着手することも可能です。ただし依頼する際には、侵害された権利や、権利侵害となっている理由などを的確かつ明確に伝えなければいけません。また、法的な根拠をもって申請することを求めるサイトもあります。削除依頼に応じるか否かは任意ですので、サイト管理者の判断によっては削除されないケースも少なくありません。
手続きの対応が難しい場合や、削除依頼をしても対応してもらえない場合は、弁護士へ依頼することをおすすめします。 -
(2)弁護士が依頼する場合
削除依頼を弁護士が対応する場合でも、まずは規約に従った方法で削除を求めます。弁護士であれば、法律上の権利侵害について適切に主張することができます。サイトの管理者へ削除要請の強い意志が伝わりやすいので、応じてもらえる可能性が高まります。特に相手が個人サイトやブログの場合には、効果が期待できるでしょう。
しかし、弁護士からの依頼であっても応じないサイトは当然ながら存在しています。通常の依頼で削除に応じてもらえない場合は、民事訴訟をおこします。通常、民事訴訟は時間がかかりますが、インターネット上の誹謗中傷は、少しでも早く削除することが必要です。そこで、より迅速に進められる「仮処分」の申し立てを行うことが一般的です。仮処分で認められると、裁判に勝訴したと同義になります。
ブラック企業と書き込まれたことで名誉を損なわれていると主張、立証し、訴えが認められると、削除の仮処分の決定がくだります。裁判所の決定に従わないと強制執行されるおそれがあるため、ほとんどのケースで書き込みが削除されます。訴訟を提起するよりも時間をかけずに削除できる点もメリットです。
4、ブラック企業と書き込んだ相手に損害賠償を求める方法
ブラック企業という書き込みが名誉毀損にあたるとしても、実際のところ、よほど悪質なケースを除けば、名誉毀損罪で書き込んだ相手が逮捕されるケースは多くありません。
そもそも名誉毀損罪は、被害者側である企業が書き込み者に対して処罰を求め、告訴する必要があります。告訴を決めたとしても、犯罪事実を明確に証明できなければ、捜査機関が告訴を受理しない場合や、内容によっては民事的解決を勧められることもあります。
ただし、刑罰としての処罰を与えることが難しくても、名誉毀損は民法の不法行為にあたるため、損害賠償請求できる場合があります。
損害賠償を請求するためには、書き込みをした相手を特定する必要があります。このとき行うのが「発信者情報開示請求」です。プロバイダーへ発信者情報(書き込み者の氏名や住所など)の開示を求めることができます。民事上の請求権のため、任意開示と言って裁判手続きをしなくても請求ができますが、実際には任意開示に応じるケースは多くありません。そのため、裁判上の請求手続きを利用するのが一般的です。
発信者情報が開示されると、書き込んだ相手がわかります。発生した損害の補てんや、企業の信頼を低下させられたことへの責任に対して、損害賠償を求めることができます。それだけではなく、企業が決然とした対応をとることで今後の書き込みを防ぎ、また別の者による書き込みへのけん制にもなるでしょう。
損害賠償請求をする場合も、弁護士のサポートは不可欠です。ブラック企業と書き込まれて名誉を損なわれているのであれば、まずは弁護士へ相談するのが望ましいでしょう。
5、まとめ
今回は、インターネットにブラック企業と書き込まれた企業の方へ向けて、名誉毀損との関係や書き込みを削除する方法について解説しました。
書き込みの内容が具体的で、かつ虚偽の情報であるのなら、名誉毀損罪が成立する可能性があります。企業イメージを失墜しかねませんので、削除を求める、損害賠償請求を行うなど、迅速な対応が必要です。企業の担当者が通常業務と並行して行うのは労力がかかるだけではなく、必死に対応しても、削除されないという結果になるおそれもあります。そのため、早い段階で弁護士へ相談する方がよいでしょう。
インターネット上の書き込みで頭を悩ませている企業の方は、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスへご連絡ください。新潟オフィスの弁護士が、少しでも早く書き込みが削除されるように尽力します。
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