「嫁に行った娘も相続できない」は間違い! 新潟の弁護士が詳細を解説
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厚生労働省が公表する「平成30年人口動態統計(概数)」によると、新潟県では平成30年の1年間で、約3万人の方が亡くなっていることが分かります。
ご家族が亡くなったときには、深い悲しみに襲われながらも「相続問題」に直面することになります。
相続については、現在の法律に基づいた考え方ではなく、古くからの風潮を重視した主張がなされ、トラブルに発展してしまうことも少なくありません。たとえば、実家にいる長男から「嫁にいった娘は実の親の財産を相続する権利がない」などと主張されることもあるのです。
本コラムでは、「嫁に行った娘は実の親の財産を相続できないのか」という疑問にお答えしつつ、遺産相続の正しい知識やトラブルの解決法について、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説していきます。
1、嫁に行った娘にも相続権はある!
早速「嫁に行った娘は実の親の財産を相続できないのか」という疑問にお答えしていきましょう。
結論としては、「嫁に行った娘にも相続権はあり、実の親の財産を相続できる」です。
たとえば、被相続人(故人)のAさんには、長男Bさんと長女Cさんがいたとします。長男のBさんは実家で同居しながら家業を継いでおり、長女のCさんは結婚して実家を離れて生活している状況です。
また、Cさんのように嫁いだ場合は配偶者の名字を名乗ることが多いので、AさんやBさんとは異なる名字を名乗ることになります。
このようなケースでは、「Aさんの相続において、長男Bさんと長女Cさんは違う取り扱いを受けるのが当然だ」などと誤解する方も少なくありません。
しかし、現行の法律では「実家で同居している長男だから」「嫁にいった娘だから」といった理由で、兄弟間に相続の権利や相続分に差を設ける規定はありません。遺言で相続分の指定がなされていなければ、原則としてBさんもCさんも「被相続人の子ども」という同じ立場に基づいて法定相続し、同等の相続分を有することになります。
つまり、Cさんは名字が変わっており同居もしていませんが、Aさんの娘であることには変わりがなく、相続権や相続分にも影響を及ぼすものではないといえます。
なお、仮にCさんが夫の親と養子縁組をして、他家の養子になっていたとしても、法律的には実の親Aさんの相続に関する権利や相続分に影響はありません。
2、「嫁に行った娘には相続権がない」と誤解される背景
では、なぜ「嫁に行った娘には相続権がない」などと誤解されることがあるのでしょうか。その背景には、昭和22年に廃止された家督(長子)相続制度があると考えられます。
家督相続制度は江戸時代から続く家制度の一部で、原則として戸主となる長男が家の財産のすべてを引き継ぎ相続する制度です。
この制度のもとでは、戸主である父親から生まれた長男と長女がいても、基本的に長男が財産すべてを相続し、長女は一切相続できないとされていました。また、長女が結婚した場合には、戸籍上も結婚相手の父親などを戸主とする戸籍に、嫁という立場で入籍する取り扱いがなされていました。
このような家督相続制度の考え方が根強く残っていることが背景となって、現在も「嫁にいった娘には相続権がない」と誤解されることがあるといえるでしょう。
なお現行法では、結婚した女性は結婚相手の家の戸籍に嫁という立場で入籍するということはなく、結婚を機に新しい戸籍が編製される取り扱いがなされます。
3、遺産は誰がどのように相続する?
被相続人が遺言で、「長男にこのくらいの財産を残す」といった相続分の指定をしなかった場合などには、法律の規定に基づき定められた相続人が法定相続分を取得することになります。
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(1)誰が相続人になりうるのか?
被相続人に「配偶者」がいる場合には、「配偶者」は常に法定相続人になります。 また、次の順位のうち一番早い順位にいる人も法定相続人です。配偶者がいるときには配偶者とともに相続人となります。
第1順位 子どもや孫などの直系卑属
第2順位 父母や祖父母などの直系尊属
第3順位 兄弟姉妹
具体的には、たとえば被相続人に妻(配偶者)がいれば、妻は必ず法定相続人になります。
加えて子どもがいた場合、子どもは第1順位なので、配偶者である妻とともに法定相続人になります。
子どもがいないときには、第2順位である被相続人の父母などが、妻とともに法定相続人となります。
また子どもがいなく、両親も他界しているような場合には、妻と第3順位である被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になります。
なお配偶者がいない場合には、もっとも早い順位の人が相続財産の全部を承継することになります。 -
(2)相続分はどうなる?
それぞれの法定相続人の法定相続分は、次のように規定されています。
①配偶者が、子どもなどの直系卑属とともに相続する場合配偶者の相続分は2分の1。残りの2分の1が子どもの相続分
たとえば、被相続人の妻と長男、長女が相続する場合には、妻の相続分は2分の1で、長男と長女の相続分は4分の1ずつとなります。長男と長女の相続分は基本的に均等で、「長男だから多い」「嫁に行った娘だから少ない」といった差は生じません。
②配偶者が、父母などの直系尊属とともに相続する場合配偶者の相続分は3分の2。残りの3分の1が父母の相続分
たとえば、被相続人の父は他界しており、妻と被相続人の母が相続する場合には、妻の相続分は3分の2で、母の相続分は3分の1になります。
③配偶者が兄弟姉妹とともに相続する場合配偶者の相続分は4分の3。残りの4分の1が兄弟姉妹の相続分
たとえば、被相続人の妻と、被相続人の二人の兄弟が相続する場合には、妻の相続分は4分の3で、二人の兄弟は相続分である4分の1を等しく分け、それぞれ8分の1ずつになります。
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(3)相続分を修正する寄与分とは?
法定相続分は、それぞれの相続における個別の事情を考慮することなく一律に決められているものです。
そのため「寄与分」などが認められ、相続分が修正されることがあります。
「寄与分」とは、被相続人の家業に従事したり療養看護に努めたりした相続人がおり、被相続人の財産の維持、または増加に特別の貢献をしたなどの事情があるときに認められる取り分です。
たとえば、被相続人と同居していた長男が家業を手伝い、介護もしていたといった事情があれば、他の共同相続人は寄与分を検討する必要があるでしょう。
具体的な寄与分については、基本的には遺産分割協議を行い相続人全員で話し合います。では遺産分割協議とは、どのような協議なのでしょうか。次の章で説明していきます。
4、遺産分割協議の基礎知識
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(1)遺産分割協議とは
前述した法定相続分で相続する場合、相続する割合は明確に定められています。
しかし、相続財産には金銭のように分けることが可能なものだけでなく、車や不動産など物理的に分けることが難しく共有状態になってしまう財産も含まれます。
遺産分割協議は、このような共有状態を解消して、具体的に財産をどのように分けるかを決める相続人同士の話し合いです。 -
(2)遺産分割協議におけるルール
遺産分割協議は、必ず「相続人全員」で行わなければならないという重要なルールがあります。相続人の一部を除外して行われた遺産分割協議は、無効になります。ただし、相続人全員で同じ場所に集まって話し合う必要はなく、メール等でのやりとりや、遺産分割協議書を相続人間で持ち回り方式にすることでも有効に成立します。
なお遺産分割協議書には、それぞれの相続人が署名し実印で押印したうえで、印鑑証明書を添付する必要があります。 -
(3)遺産分割協議がまとまらなかったときには
相続人全員の話し合いで合意できなかった場合には、遺産分割協議は成立しません。
このような場合には、家庭裁判所の遺産分割の調停、または審判の手続きを利用して解決を図ることができます。なお、話し合いで解決できなかった時点で、弁護士に相談するのが得策でしょう。
5、相続トラブルの解決法とは?
相続トラブルの中には、長男が「嫁に行った娘には相続権はないものだ」などと主張し、他の相続人に相続放棄を迫ったり、寄与分として過大な相続分を要求したりするケースもあります。
自身にとって不利な話し合いになっても、「身内で争いになることは避けたい」「相続権があることは分かっていても、権利を主張しにくい」と思われる方も少なくありません。
そういった場合には、早期に弁護士に相談することがおすすめです。
弁護士という第三者が、法的知見をもって対応することで、こじれてしまった部分をひもとき、親族が納得いく形でまとまることが期待できます。
また、弁護士はあなたの代理人として、他の相続人と交渉することもできます。直接はいいにくいことも、弁護士が間に入ってもらえることで、正当な主張がしやすくなるでしょう。そのほか、必要な書類の準備や、裁判に至った場合のサポートまで、あなたの強力なサポーターとして、相続問題のトラブルに対応してもらえます。
相続は、期限が定められている手続きも多いので、トラブルになりそう、どのように対応すればよいか分からないといった場合は、まずは弁護士へ相談することをおすすめします。
6、まとめ
本コラムでは、「嫁に行った娘は実の親の財産を相続できないのか」という疑問にお答えして、遺産相続の正しい知識やトラブルの解決法などを解説しました。
結論として、嫁に行った娘でも実の親の子どもであることは変わらないので、財産を相続する権利があります。
しかし、相続権があっても他の相続人に過大な寄与分を主張されるなど、納得できない内容で遺産分割協議が進められてしまうといった相続トラブルが生じることはあります。
ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士は、相続トラブルの解決を含めた相続全般についてご相談をお受けしています。ひとりで悩ます、まずはお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています