相続登記の義務化はいつから? 罰則規定はあるのか

2019年08月06日
  • その他
  • 相続登記
  • 義務化
相続登記の義務化はいつから? 罰則規定はあるのか

被相続人から財産を承継できる相続において、受け取れるのがもらってうれしい財産だけとは限りません。たとえば、遠方に住まわれている両親から土地を相続する場合、土地の管理に手間がかかる上、処分するにも買い手が見つからずに困る事例が散見されます。

また、ニュースで話題になっているように、相続登記が義務化されると考えられています。本記事では新潟オフィスの弁護士が、相続登記の義務化やその背景、そして不動産相続を避けるための相続放棄についてわかりやすく解説いたします。

1、相続登記の義務化はいつから? 罰則は?

法務省では相続登記に関して、義務化する動きが出てきています。まずは相続登記がいつから義務化されどのような罰則となるのか気になる方のために解説したいところですが、まだ法案さえ提出されていない状況です。

  1. (1)相続登記の義務化は2020年以降?

    まず明らかになっているのは、相続登記の義務化が2020年以降であることです。これは山下貴司法務大臣が土地所有権放棄や相続登記の義務化などについての民法改正案を、2020年の臨時国会で提出する見通しを明らかにしたことからの推定です。

    実際にいつ可決および施行されるかは未定ですが、今すぐというわけではないようです。

  2. (2)相続登記の罰則はおそらく過料

    相続登記が義務化されるということは、その義務を違反すると罰則になることを意味します。しかし、この罰則については他の登記懈怠(けたい)と同じく過料になることが予想されます。少なくとも相続登記だけが多額の罰金や懲役になることはないでしょう。

    ただ、罰則が軽いとしても登記の信頼性が揺らぐため、利害関係者にとって登記懈怠は非常に迷惑です。特に相続登記は名義人がこの世に存在しないことがさらに問題をややこしくします。

  3. (3)誰が相続登記の義務を負うことになるか

    相続登記の義務を負うのは相続した方です。単独相続の場合であればその方が行います。共同相続、つまり数人で相続した場合は、共有者全てあるいは代表者に任せて相続登記が可能です。つまり共同相続においては相続人全てが登記の義務を負うと考えられます。

  4. (4)相続登記について簡単に解説

    ここで相続登記の内容について簡単に解説します。相続登記とは冒頭で説明した通り相続を原因として行う登記のことで、登記原因を示すための書類が必要となります。原則として遺産分割協議書と被相続人および相続人の戸籍謄本を提出しますが、遺言書がある場合はそれが証明になります。

    あとは土地の所有権を示すための権利証と、土地情報としての固定資産税評価額が必要となります。新たに測量を求められる場合もあります。

  5. (5)相続登記が簡単な人、難しい人

    相続登記は被相続人が土地を持っていた証拠と、正しく相続されたという証拠があれば面倒ではあるものの難しくはありません。しかし、相続登記がすんなり終わる方と弁護士や司法書士に頼んでも相続放棄で大変な思いをする方では大きな差があります。

    相続登記が簡単なのは、単独相続でかつ被相続人まで相続登記をしっかり行っていた場合です。

    相続登記が難しいケースにはいくつか考えられます。まずは単純に不動産の数が多い場合です。次に不動産に対する係争が残っている場合です。そして相続登記が何十年も放置されている場合です。相続登記が放置されているということは、誰が本当の所有者なのかわからないことを意味します。もし遺産分割協議書さえ残していなければ目も当てられない事態になります。

    相続登記をせずに放置するリスクは次章で詳しく説明します。

2、相続登記をしないことでどんな問題が起きているのか?

登記とは土地の所有者を表す重要な情報です。土地の二重譲渡がされた場合も登記が対抗力を決めるのは有名な話ですね。この登記を放置していると、普段の商取引なら誰かに土地を奪われてしまう恐れがあります。

しかし、相続登記についてはそれよりも頭を抱えたくなるような問題が起こっています。ひょっとしたらあなたのご両親が住んでいる場所も所有権が不明かもしれません。

  1. (1)登記をしないせいで所有者不明土地が増えている

    土地の所有者は登記から判断します。もし、土地の所有者が間違っているなら正しい所有者に登記を書き換えることが社会の要請と言えます。ところが相続登記については被相続人の死亡によって所有者が変わるため、放置していると何代も所有権が移転します。

    法務省の調べるところによると、中小都市・中山間地域において90年以上も登記が変わっていない土地が7%もあると考えられています。70年以上登記が変わっていない土地であれば合わせて12%、50年以上登記が変わっていない土地も入れると計26.6%という数字が出ています。

    田舎だけの問題と思いきや、大都市圏においても最後の登記から90年以上経過している土地が存在するようです。

    また、一般財団法人国土計画協会の所有者不明土地問題研究会によると、平成28年度においてすでに20%もの土地が所有者不明で、面積にすると410万ヘクタール、すなわち九州本島を超える面積に及びます。

    しかも2040年には所有者不明土地面積がおよそ720万ヘクタールに及ぶという試算もあるようです。
    個人の怠慢が積み重なるとここまで大きな問題になるのです。

  2. (2)所有者不明の土地ではどんな問題が起きるのか?

    所有者不明の土地はだれも所有者意識を持っていません。そのため土地の管理保全がされずに問題となります。たとえば草木が生え放題だったり空き家が朽ち果てたり、揚げ句の果てには不法侵入や不法投棄の問題も発生しています。このような問題を放置されている現状こそが登記懈怠の現れです。

    所有者不明の土地においては所有者を探索するためのコストや、その土地を自由に使えないことに関する機会損失が大きく、土地管理不行き届きが原因となる災害について責任を取らされる可能性すら考えられます。

  3. (3)土地の所有者を決めるために多大な苦労が

    所有者不明の土地問題を解決するためには、所有者を明らかにする必要があります。当たり前のことですがこれが非常に大変です。

    登記に書かれた方が存命であればその方を調査すれば終わります。

    その方がなくなっている場合、あるいは失踪している場合は相続が行われます。この場合でも遺産分割協議書があればまだ簡単です。

    問題は次のようなケースで起こります。

    • 登記上の所有者が亡くなっている
    • 誰かに譲渡された契約がない
    • 遺言も遺産分割協議書もない
    • 数10年も放置されたせいで数代の相続が起こっている
    • 家族同士が疎遠だ

    まず登記上の所有者がなくなっているため相続が起こっています。遺産分割協議書がないということは「遺産分割協議がされるまで法定相続分で共有された」ことを意味します。数次相続が起こってもなお遺産分割協議で土地を相続しなければまた法定相続分が共有されたことになります。

    こんなことが続くと、ある土地の相続人が10人や20人になってしまいます。

    相続人を全て特定してから土地の所有者を決めるためには、遺産分割協議を行う必要があります。数次相続をしている場合は先代の相続についても一緒に話し合う必要があります。不動産を共有すると共有者全員の同意なく処分できなくなるので単独所有にすることが望ましいです。

    また、土地の所有者が1人に特定されたとしても、所有者不明の土地がまさか自分に帰属すると思わないためその事実を信用してもらえず、土地取引に重要な支障が出ることもあります。

  4. (4)残念ながら土地放棄の制度は存在しない

    これだけ面倒なら土地をいっそのこと放棄してしまいたいところですが、現行民法では不動産の放棄を認める法律がありません。国に寄付しても利用価値のない不動産は受け取ってもらえないのが現状です。

3、相続放棄で相続登記と土地管理義務を免れるのか?

遠方の不動産を相続すると思った以上の管理コストが費やされ、後悔する場合があります。その土地を大切にする意思がないなら、相続放棄も現実的な選択肢になり得るように思えますね。

最後に、相続放棄で土地を放棄する上で知っておくべきことを紹介します。

  1. (1)法的には相続放棄が最善の対策になるが……

    相続放棄は相続財産に関わる権利も義務も全て放棄することができます。なぜなら、相続放棄をした人は初めから相続がなかったものとされるからです。

  2. (2)相続放棄をすると他の財産も放棄することになる

    相続放棄は土地以外の相続財産も全て放棄することになります。しかも相続放棄の起源は相続開始を知ってから3ヶ月以内で、その間に財産に手をつけると相続放棄できなくなる可能性があります。(単純承認が認められる恐れがあります)

    くれぐれも「土地だけ放棄して他の財産は相続する」という認識は持たないようご注意ください。

  3. (3)相続放棄だけでは相続登記の義務を免れない

    相続放棄の手続きが受理されても、それで相続登記の義務を免れるわけではありません。確かに相続放棄をした段階で自身の財産ではなくなるのですが、家庭裁判所に申し立ててあなたと別に相続財産を管理してくれる相続財産管理人が選定されるまで、自己の財産と同じように管理する義務があります。

    つまり相続登記をすぐにする必要はなくても、不動産から自由になれるわけではないのです。

  4. (4)相続財産管理人が行う登記とは?

    相続財産管理人が選定された場合はその方が財産の管理と清算を行います。このとき相続財産は法人となるため法人格に基づく登記を相続財産管理人が行います。これでようやくあなたが相続登記をする義務がなくなります。

    最終的に残った相続財産は国庫に帰属されます。

  5. (5)相続放棄は戦略的に行うこと

    相続放棄は財産を全て放棄することになります。場合によっては税の支払いを覚悟で生前贈与してしまうことも手段として検討すべきでしょう。相続財産管理人を素早く選定することも相続放棄のデメリットを小さくしてくれます。

    一度受理された相続放棄は撤回できないので戦略的に行いましょう。

4、まとめ

あなたが相続する予定の土地、どうしますか? 今はまだ相続登記が義務化されていないですが、今後のために土地の状況を調べておく必要はありそうですね。少なくともご両親が存命であればすぐにでも登記問題を解決したいところです。

相続登記の適正化や相続放棄について頭を悩ませているならベリーベスト法律事務所 新潟オフィスでご相談ください。経験豊富な弁護士が煩雑な手続きをサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています