相続人に未成年がいる場合はどう進めるのがベスト? 弁護士が解説
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相続が発生すると、相続人は、亡くなった人(相続人)の財産や借金をめぐり、さまざまな重要な選択や決断をしなければなりません。たとえば「相続を受け入れ承認するのか、それとも相続放棄するのか」といった選択や、「遺産分割協議でどのような主張をするのか」の判断などです。
ところが、相続人が未成年者である場合には、本人だけでこのような重要な選択や決断をすれば、大きな不利益を被る可能性があります。そのため、相続人のなかに未成年者がいる場合には、法定代理人である親権者が未成年者を代理したり、家庭裁判所で選任された特別代理人が代理する対応が必要になります。
ちなみに裁判所の司法統計によると、新潟家庭裁判所では、年間162件の特別代理人の選任事件が取り扱われています(令和元年度)。
本コラムでは、相続人に未成年者がいる場合の対応について、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説していきます。
1、知っておきたい相続の基礎知識とは
相続の基礎知識について、簡単に確認していきましょう。
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(1)相続手続きの流れ
相続は、人(被相続人)の死亡によって開始されます。被相続人が遺言書を残していれば、基本的に、遺言書の内容にそって遺産を分配します。
遺言書がない場合は、民法で定められた法定相続人が法定相続分に則って遺産を取得します。
具体的にどの財産を、誰が取得するかについては、相続人全員で行う遺産分割協議で決めることになります。 -
(2)相続人の範囲
民法では、配偶者のほかに、次の順位で先順位にある方が法定相続人になることを定めています。
- 第1順位 子どもなどの直系卑属
- 第2順位 父母などの直系尊属
- 第3順位 兄弟姉妹
たとえば未成年の子どもがいる被相続人が亡くなれば、配偶者とともに未成年の子ども(第1順位)が相続人になります。 -
(3)遺産分割協議
遺産の分配について具体的に決める遺産分割協議は、相続人全員で行わなければならず、一部の相続人を除外して行われた協議は無効になります。
もっとも相続人であっても未成年者は、行為能力(単独で確定的に有効な法律上の権利を取得し、義務を負担する行為(法律行為)をすることのできる能力のこと)が十分にあるわけではないので、代理人が遺産分割協議を行わなければなりません。
協議が成立したときには、遺産分割協議書を作成して合意の内容を記載します。なお、協議で合意できないような場合には、家庭裁判所の調停や審判で解決を図ることになります。
2、未成年者が相続人になるときの対応策
未成年者は、行為能力が制限されているため、代理人が相続手続きをする必要があります。
誰が未成年者の代理人になるかは、未成年者と代理人となろうとする者の「利益が相反するかどうか」によって異なります。利益が相反するとは、一方が有利になり、他方が不利益を被ることをいいます。
利益相反にならなければ「親権者」が代理人になることができますが、利益相反になれば「特別代理人」を選任する必要があります。
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(1)親権者が代理人になる
親権者の利益と子どもの利益が対立しないときには、親権者が未成年者の代理人になり遺産分割協議を行うことができます。
たとえばAが亡くなり、妻Bと子どもC(未成年者)と前妻の子どもDが相続人であるとします。
このケースでBが相続放棄しているような場合には、Bは、Cの法定代理人としてDと遺産分割協議を行うことができます。なぜならBは相続放棄しているので、遺産分割協議でCの取得分が少なくなればBの取得分が増えるなどといった利害関係がないためです。
ただし、親権者の利益と子どもの利益が対立しないときでも、同じ親権者が複数の子どもを代理することで子ども同士の利益相反行為になるときには、特別代理人の選任が必要になります。 -
(2)家庭裁判所に特別代理人を選任してもらう
親権者の利益と未成年者の利益が対立する場合には、家庭裁判所に「特別代理人選任」の申し立てをする必要があります。また、同一の親権に服する複数の未成年者同士の利益が相反するときにも、特別代理人の選任が必要になります。
特別代理人の選任は、親権者や利害関係人が子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
申立時に必要な書類は、一般的に、申立書のほか未成年者と親権者の戸籍謄本、特別代理人候補者の住民票(もしくは戸籍の付票)、利益相反を表す資料(遺産分割協議書案など)になります。
詳しくは、申し立てを行う家庭裁判所に確認しながら進めるとよいでしょう。
申し立てを受けた家庭裁判所は、未成年者との関係性などを考慮して特別代理人として適格かどうかを判断して選任します。
選任された特別代理人は、家庭裁判所で決められた行為についてのみ、未成年者を代理することができます。そして決められた行為を終えたときには、特別代理人としての任務が終了することになります。
3、特別代理人の選任が必要な行為とは?
未成年者が相続人になる場合で、特別代理人の選任が必要な行為を具体的にみていきましょう。選任が必要かどうかの判断ポイントは、客観的にみて、利益が相反する行為に該当するかどうかという点です。
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(1)親権者と未成年者で遺産分割協議をする
たとえばAが亡くなり、Aには妻Bと未成年の子どもCがいたとすると、BとCで遺産分割協議を行うことになります。この場合、BとCの関係は、どちらか一方が遺産を多く取得すれば他方は少なくなるという利益が相反する関係です。
このような場合には、親権者Bは、家庭裁判所に特別代理人の選任申し立てをして、Cの特別代理人と遺産分割協議を行うことになります。 -
(2)複数の未成年者を親権者が代理して遺産分割協議をする
たとえばAが亡くなり、現在の妻Bと(Aの前妻Cが親権を持つ)前妻の子どもDとE(未成年者)が相続人であったとします。
この場合、遺産分割協議は、BとD・Eの代理人で行う必要があります。
しかしD・Eの親権者のCは、遺産分割協議においてDとEの両方の代理人になることはできません。なぜならDとEの利益は、相反する関係にあるためです。
そのため、たとえばCがDの代理人になるとすれば、Eについては特別代理人を選任して遺産分割協議を行う必要があります。 -
(3)未成年者のみ相続放棄をする
親権者と未成年者が相続人になる場合に、未成年者のみが相続放棄するためには、特別代理人の選任が必要になります。
この場合、親権者と未成年者は、未成年者が相続放棄すればそれだけ親権者の利益が得られる利益相反の関係にあるためです。 -
(4)複数の未成年者の一部のみ相続放棄する
1人の親権者に対して複数の未成年の子どもがいるような場合に、一部の未成年者の代理人として親権者が家庭裁判所で相続放棄の申述をする行為は、利益相反になります。
相続放棄すれば他の子どもの相続分が増えるので、利益相反行為となり、特別代理人の選任が必要になります。
なお、未成年者全員が相続放棄の申述をする行為は、同一の親権者がおこなっても利益相反になりません。
そのため親権者と未成年者の利益相反が問題にならない場合であれば、特別代理人を選任することなく同一の親権者が代理して相続放棄の申述をすることができます。
4、選任しないで遺産分割協議をしたらどうなる?
特別代理人の選任が必要な場合に、親権者が未成年者を代理して遺産分割協議を行ったときにはどうなるのでしょうか?
このような場合には、基本的に、遺産分割協議は「無権代理行為」により無効になります。
したがって、未成年者が相続人にいるときには、特別代理人の選任の必要性の有無も含めて弁護士に相談するなど適切な対応が必要です。
なお未成年者が成人すれば、無権代理行為を追認して遺産分割協議を有効にできる可能性はあります。
5、相続トラブルになる前に弁護士に相談!
未成年者の相続では、特別代理人の選任が必要なケースも少なくありません。
特別代理人として適切な人物が親族などにいなければ、弁護士などの専門家に依頼するのもひとつの選択肢です。
相続の場面では、相続財産や相続人、遺産分割の内容などトラブルが生じやすいさまざまな問題を解決していく必要があります。
また相続税などの税務面に関しても、たとえば未成年者が相続人にいる場合には未成年者控除を利用することで節税できる可能性があるなど、適切な知識と対応が必要になります。
弁護士に相続問題を相談したときには、ご相談者の代理人として他の相続人などと話し合いをすることができます。弁護士は冷静に話し合いを進めることができたり、裁判所を利用して事件を解決する際のサポート(裁判への出席や書面作成等)をすることができます。したがいまして、相続問題発生後はもちろん、相続問題が発生する前であっても、早期に弁護士に相談すれば、相続トラブルの深刻化を防げる可能性もあります。
税理士とも連携している法律事務所であれば、ワンストップで相続問題を解決できます。
6、まとめ
本コラムでは、相続人に未成年者がいる場合の相続について解説していきました。
遺産分割協議や相続放棄などの相続手続きのなかで、未成年者には代理人が必要な場合があります。親権者の代理行為により、利益相反になるようなケースでは、家庭裁判所に特別代理人を選任してもらう必要があります。
ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスでは、弁護士が相続問題のご相談に応じています。ご相談者のお話をしっかりとうかがい、解決に向けて全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。
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