養育費の不払いに悩む方必見! 改正民事執行法について弁護士が解説
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新潟県庁が公表した「平成30年人口動態統計(概数)」によると、新潟県における人口1000人あたりの離婚率は大変低く、全国で2番目に低い1.26という数字を示しています。
しかし、離婚に至っていない人の中には、離婚後の経済的状況などを考えて離婚に踏み切れないという方もいることでしょう。特に子どもがいる方は、養育費も気になるのではないでしょうか。
離婚後の子どもの養育にかかる費用については、親権者だけでなく離婚した相手も負担する義務があります。ところが、実際は養育費の取り決めをしても支払いが滞り、経済的苦境にたたされるひとり親家庭も少なくありません。
そのような養育費の不払いに悩む方を救済する可能性がある、「改正民事執行法」が令和元年5月10日に成立しました。
本コラムでは「養育費の不払いに関して改正民事執行法によってどのように変わるのか」をテーマとして、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説していきます。
1、改正民事執行法によって養育費の問題はどのように変わる?
改正民事執行法によって、養育費の問題はどのように変わるのでしょうか。これまでの問題点と共にみていきます。
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(1)これまでの問題点
離婚の際に子どもの養育費の取り決めをしていたとしても、相手の経済状況の変化や再婚などの諸事情によって、養育費の支払いが滞ることも少なくありません。
そういった場合に、子どもの親である離婚相手と支払いに関して話し合うことができる関係であれば、解決を図ることができる可能性も高いでしょう。
しかし、離婚後は関係が疎遠になり、連絡を取ろうと思っても引っ越していたり、携帯電話もつながらず音信不通になってしまったりというケースも少なくありません。
このような場合は、養育費の不払いを解消するために、相手の財産への強制執行を検討することになります。
現行の法律では、相手の預貯金や給与を差し押さえて強制執行するには、勤務先や預貯金口座の金融機関の支店名を特定する必要があります。離婚しており、ましてや強制執行する状況であれば、相手の勤務先や銀行口座を有する金融機関の支店名まで把握することは難しいでしょう。
また、制度を逆手にとり、養育費の支払い義務を負う離婚相手が勤務先や口座を変えて、養育費を支払わずに逃げることができてしまうという問題がありました。
なお、このような問題を解決するために、平成15年には「財産開示手続き」が創設されています。これは、債務者を裁判所が呼び出して、債務者自身の陳述から財産に関する情報を取得する手続きです。しかし、手続きを申し立てできる人が限定的だったこと、非協力的な債務者への罰則が弱いなどといった課題がありました。 -
(2)改正民事執行法によってどのように変わる?
このような従来の問題点を見直すために、改正民事執行法では債務者の財産を開示する制度が実行されるように変更されています。
改正の柱は、下記の2点です。
●現行の財産開示手続きの見直し
仮執行宣言付き判決や、養育費を取り決めた公正証書があれば、開示手続きを請求できるように見直されました。
あわせて、罰則も見直されています。財産開示期日に債務者が裁判所に正当な理由なく出頭しないなどの場合には、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられることになります。
●債務者以外の第三者からの情報取得手続きの新設
裁判所を通して債務者の勤務先(給与債権)・不動産・預貯金などの情報を得られる制度が新設されています。
この制度を利用すれば、養育費の支払い義務を負う離婚相手(債務者)が転職したり、銀行口座を移したりしていても情報を取得することができるように変わります。
その結果、隠していた財産を見つけられるといった可能性があるので、養育費の不払いに対する強制執行が実現しやすくなるといえるでしょう。
2、財産別にみる情報の取得方法とは?
改正民事執行法が施行された場合、取得できる情報と手続き方法について、財産の種類ごとにみていきます。
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(1)給与債権(勤務先)に関する情報
債務者の給与債権に関する情報を得られるケースは、下記に限定されます。
- 生命もしくは身体の侵害による損害賠償請求権を有する場合
- 養育費などの債権を有する場合
相手の給与情報を得るためには、まず地方裁判所に「財産開示手続き」の申し立てをします。そして、「財産開示手続き」が実施されたのち3年以内に限り、別途「第三者からの情報開示手続き」の申し立てが可能になります。
つまり、財産開示手続きをしても離婚相手の財産状況が分からなかったときにのみ、給与に関する情報開示手続きを実施できるのです。
裁判所が市町村や日本年金機構などから、債務者の住民税や年金の支払いについての情報を取得することで、勤務先や給与口座が判明します。給与口座が判明すれば、給与債権を差し押さえることができます。 -
(2)不動産に関する情報
債務者の不動産に関する情報の取得についても、給与債権と同様に「財産開示手続き」を経て申し立てることができます。不動産に関する情報取得の手続きは、給与債権とは異なり、養育費などの債権者でなくても利用することが可能です。
日本では、土地や建物については不動産登記制度が採用されているので、登記されている不動産については、法務局(登記所)で情報が管理されています。
裁判所は、法務局から債務者の不動産についての情報を取得します。その結果、債務者が所有している不動産が判明します。財産となる不動産があった場合は、不動産の差し押さえなどを行うことができます。 -
(3)預貯金や株式などに関する情報
預貯金口座や、株式の保有状況などの情報取得に関しては、「財産開示手続き」を経ないでも、申し立てることができます。
預貯金や株式などに関する情報は、裁判所が銀行や証券会社などから情報を取得します。
判明した情報をもとに、債権者は債務者が保有する預貯金や株式に対して強制執行できる可能性があります。
3、改正民事執行法はいつから施行される?
これまでご説明したように、養育費の不払いに悩む方にとって朗報といえる民事執行法の改正ですが「いつから施行されるのか」という点が気になることでしょう。
施行期日は原則として「公布の日(令和元年5月17日)から、1年を超えない範囲内において政令で定める日」とされています。現状では、令和2年の春ごろに施行される予定と見込まれていますが、具体的な期日は明らかにはされていません。法務省のホームページや報道などで、情報を確認しておくと良いでしょう。
なお、法務局から不動産に関する情報を取得する手続きに関しては、例外的に「公布の日から2年を超えない範囲内において政令で定める日」から運用が開始されることになっています。
4、養育費の支払いを確実に受けるには取り決めが大切!
改正民事執行法が施行されると、養育費の支払い義務がある離婚相手の財産情報を、裁判所を通して取得する道が開けます。しかし、そもそも養育費の取り決めがしっかりとなされていなければ、制度を利用できない可能性があるので注意が必要です。
たとえば、口頭で取り決めただけ、自分たちで作成した文書があるのみといった場合には、財産開示手続きの申し立てをするための条件を満たしません。この場合は、裁判所を介して相手の財産情報を取得することができません。
ただし改正により、財産開示手続きの申し立てができる条件のハードルが下げられました。裁判の判決で養育費の支払いに関して決定した場合などだけでなく、公正証書で養育費を取り決めた場合にも、財産開示手続きの申し立てをすることが可能になります。離婚後の養育費の不払いに対応できるように、父母双方で合意できた場合でも公正証書で取り決めておくことが重要になるといえるでしょう。
また、家庭裁判所の調停で取り決めた場合には、取り決めを記した調停調書で財産開示手続きを申し立てることができます。
離婚の際には、一刻も早く相手との関わりを断ちたいと離婚の成立をいそぐあまり、養育費の取り決めがしっかりとなされないまま、離婚してしまうケースも少なくありません。
前述したように、養育費の取り決めをしっかりと行っておかなければ、不払いがあっても対応が難しくなります。
なお、相手と話し合いをするのが苦痛、また話し合える状況ではない場合は、弁護士に相談するのも得策です。弁護士であれば、あなたの代理人として相手と交渉することも可能なので、直接の関わりをもたずして養育費の取り決めを確実に行うことができます。
また、不払いがあった場合も、泣き寝入りせず一度弁護士へ相談することをおすすめします。
5、まとめ
本コラムでは、「養育費の不払いに関して改正民事執行法によってどのように変わるのか」をテーマとして解説していきました。
改正民事執行法によって、離婚相手が養育費を支払わない場合は裁判所を通して相手の財産情報を得ることができるように変わります。養育費の不払いに悩む方にとっては朗報ですが、このような制度を利用するためには養育費の取り決めを公正証書などでしっかりと行っておくことが大切です。
ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士は、養育費の取り決めを含む離婚問題や養育費の不払い問題の解決に向けて尽力します。ぜひお気軽に、ご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています