これから裁判をする人必見! 訴訟上の和解のメリットや流れとは
- 一般民事
- 訴訟上の和解
新潟県統計年鑑によりますと、令和元年、新潟地方裁判所では6124件の民事訴訟が新たに受理されています。
民事訴訟は、判決という形で結果が出ると思われがちですが、実際は多くの民事訴訟が和解により解決しています。この訴訟における和解を「訴訟上の和解」といいます。
本コラムでは、民事裁判の和解に関する基本的な知識から訴訟における一般的な流れ、そして訴訟上の和解におけるメリットについて、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説します。
1、和解には2種類ある
和解には、「裁判外の和解」(民法695条)と「裁判上の和解」があります。以下でその特徴を確認しましょう。
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(1)裁判外の和解
和解とは当事者が互いに譲歩して、生じている争いごとをやめることを約束する有償・双務・諾成契約です(民法第695条)。
日本では訴訟により紛争の解決を目指すことがあまり好まれず、当事者どうしの話し合いによる和解により争いごとが解決することが多くあります。これを「裁判外の和解」または「私法上の和解」といいます。 -
(2)訴訟上の和解
裁判上の和解には「起訴前の和解」(民事訴訟法275条)と「訴訟上の和解」(民事訴訟法89条)があります。
「起訴前の和解(即決和解)」は、訴訟係属前(裁判所での訴訟前)に訴訟を予防するためになされる和解であるのに対し、「訴訟上の和解」は、訴訟係属を終了させるためになされる和解です。両者はこの点で異なりますが、成立要件や手続き、それに法的効果も同じなので、両者はともに「裁判上の和解」と呼ばれています。
訴訟上の和解は、訴訟係属中に当事者双方が、その対立する主張(法的主張や事実関係に関する主張)を互いに譲歩することによって、訴訟を終了させる旨の訴訟期日における合意です。裁判所は、訴訟係属中のどの段階でも、和解の見込みがあれば当事者に和解してはどうかと働きかけをすることができます。実際に多数の訴訟において、和解の試みが一度はなされることが多いです。
2、訴訟上の和解までの流れ
訴訟上の和解を検討するにおいて、訴訟の基本的な流れを理解しておきましょう。
ポイントは、「基本的に訴訟の過程において和解はいつでもできる」ということです。
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(1)訴訟の提起
訴訟を提起するためには、原告またはその訴訟代理人が管轄する裁判所に「訴状」を提出します。訴状には、請求の趣旨および原因を記載し、訴え提起の手数料として、法律で定められた金額の「収入印紙」の貼付などが必要となります。
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(2)訴状の審査
事件の配布を受けた裁判官(合議体で審理される事件については裁判長)は、訴状の必要的記載事項の具備や所定の印紙貼付の有無を審査し、不備があれば相当の期間を定めて原告に対して補正を命じます。原告が補正に応じない場合は訴状を却下します。
訴状に必要な記載事項は、以下の通りです。- 当事者の表示……誰が原告であって誰が被告であるかを特定できる程度の表示が必要
- 請求の趣旨……訴えによって求める審判内容の記載。通常、請求認容判決の主文に対応した表現にする
- 請求の原因……請求を特定するのに必要な限度での権利関係と発生原因事実
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(3)訴状の送達
裁判長が訴状を受理すべきものと認めたときは、訴状は副本によって被告に送達されます。送達がなされるときに、第1回の口頭弁論期日を定めて、当事者双方を呼び出します。
訴えの提起によって訴状が相手方に送達されると、その時点から、特定の当事者間の請求に関する事件が、両当事者関与の下に特定の裁判所によって審理される状態が開始します。この状態を「訴訟係属」と呼びます。 -
(4)争点および証拠の整理手続き
裁判官の判断に必要な事実関係について当事者間に争いがあり、争点および証拠の整理を行う必要がある事件について、裁判所は、証人尋問に向けた証拠調べを争点に絞って集中的かつ効率的に行えるように準備します。それによって本質的口頭弁論を実施する前に、争点および証拠の整理手続きを実施することができます。
この手続きとしては、「準備的口頭弁論」、「弁論準備手続き」、「書面による準備手続き」の3種類があり、裁判所は、事件の性質や内容に応じてもっとも適切な手続きを選択することになります。
「準備的口頭弁論」の審理の重点は争点と証拠の整理にありますが、手続きは口頭弁論(準備的口頭弁論)として、公開の法廷で行われます。あらゆる証拠方法について証拠調べまでやりながら争点や証拠の整理を行います。
「弁論準備手続き」とは法廷以外の準備室等において行われ、必ずしも公開を要しません。争点等の整理のために証人尋問をできないなどの制約がありますが、当事者の一方が遠隔地に居住している場合などには、電話会議システムによって手続きを進めることもできます。
また、「書面による準備手続き」は、当事者が遠隔地に居住している場合などに、両方の当事者が出頭することなく準備書面の提出等により争点等を整理する手続きです。さらに、必要がある場合には電話会議システムを用いて争点などについて協議することもできます。
これらの手続きを終了するに当たっては、裁判所と当事者との間で、その後の証拠調べ
によって証明すべき事実を確認するものとされています。 -
(5)口頭弁論等
口頭弁論は、訴訟当事者が公開の裁判所の「面前で」「対席して」「直接に」「口頭で」供述を行う方式をいいます。
口頭弁論は、簡易裁判所ではひとりの裁判官により、地方裁判所ではひとりの裁判官または3人の裁判官の合議体によって、高等裁判所では原則3人の裁判官の合議体によって、それぞれ行われます。
地方裁判所については、法律に特別の規定がない限りひとりの裁判官で審理することができますが、簡易裁判所の裁判に対する控訴事件は合議体で審理しなければなりません。また、事案が複雑困難である等の理由から合議体で審理する旨決定された事件についても、同様です。
口頭弁論は期日に、裁判長の指揮の下に行われます。原告・被告本人、またはその訴訟代理人が出頭した上、事前に裁判所に提出した準備書面に基づく主張を述べ、その主張を裏付けるための証拠を提出することが要求されます。被告が欠席した場合には、被告が答弁書等において原告の請求を争う意図を明らかにしていないかぎり、被告にとって不利な内容の判決が言い渡される可能性があります。
裁判長は、当事者の主張や立証に矛盾や不明確な点があれば、質問をしたり、次回期日にその点を明らかにするよう準備することを命ずることができます(釈明権)。口頭弁論が終了すると、立ち会った裁判所書記官により「口頭弁論調書」が作成されます。口頭弁論調書には特別の証明力が法定されています。
なお、この口頭弁論の終了時に裁判官から和解案が提示されるケースが多いようです。 -
(6)訴訟の終了
訴訟は、原告の訴えによって開始し、目的が達成されるか、またはその達成が不可能となった場合に終了します。具体的には、以下のとおりです。
- 終局判決の確定
- 訴えの取り下げ
- 訴訟上の和解
- 請求の放棄・認諾
- 原告・被告たる法人の合併など、訴訟中における原告・被告の地位の混同
- 訴訟物たる権利・義務が一身専属権である場合の当事者の死亡
この中でもっとも典型的な手続きの終了事由は、和解または判決です。
和解の場合は、裁判所書記官が和解の内容を調書に記載します。これを「和解調書」といいます。
また、判決の言い渡しは口頭弁論終結後2か月以内にするのが原則です。判決書には、「判決の結論を簡潔に表示する主文」、「事件の事実関係を明らかにする事実(当事者の主張)」、「結論に至る判断過程を明らかにする理由」等が記載され、言い渡し後速やかに当事者双方に判決正本(原本の写し)が送達されます。
ただし、被告が原告の主張した事実を争わない場合など、実質的に争いがない事件については簡易な言い渡しが可能です。この場合、判決書の作成に代えて、裁判所書記官が主文などを明記した調書を作成することになります。
この判決に原告・被告の一方または双方が納得しない場合は、控訴という不服申し立ての手続きをすることで、上級審での審理に移ります。
3、訴訟上の和解のメリット
和解である以上、その内容や考え方にもよりますが、それに応じることは決して「負け」ではありません。そして、訴訟の過程において相手方と和解することにメリットがあるのです。
第一に判決と異なり「解決するまでの時間が短縮できる」ということにあります。民事訴訟は、判決が出るまで思いのほか時間がかかります。その間、原告・被告を問わず費用や時間などさまざまなコストが発生します。訴訟の途中で和解が成立するということは、特に時間に関するコストを節約することにつながるのです。
第二に、訴訟上の和解の内容は強い法的拘束力を持ちます。仮に相手方が和解したはずの約束(例:慰謝料を支払う)に応じなかったとしても、強制執行(例:給料や預貯金を差し押さえる)などの手段で和解内容の実現を図ることができるのです。
4、和解の効力とは
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(1)裁判外の和解
当事者間で和解がなされると、争いごとの法律関係が確定します。そして、仮に和解の合意の対象全体について錯誤(誤解)があったとしても、和解の無効を主張することはできません。つまり、和解契約を締結したあと、当事者は将来の法律関係を主張できなくなるのです。
ただし、以下のような和解は無効となります。- 和解契約が解除された場合
- 和解の前提として争わなかった事実について錯誤があったとき
- 和解契約の内容が公序良俗等に反する場合(民法第90条)
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(2)訴訟上の和解
訴訟の過程で和解が成立すると、その内容が和解条項として必ず和解証書に記載されます。和解調書は確定判決と同一の効果が認められ、訴訟はその範囲で終了します。一方、和解が不成立となった場合は、訴訟手続きが継続されます。
5、まとめ
訴訟において裁判所から提示された訴訟上の和解に応じるか否かは、感情論もあり判断が迷うところがあるかと思います。しかし、訴訟上の和解に応じなかったために、最終的には自分にとって不利な判決が出てしまうこともあり得ます。
そのような事態を防ぐために、訴訟に臨むときは弁護士へ相談することをおすすめします。
民事訴訟に経験と実績のある弁護士であれば、法的なアドバイスはもちろんのこと、あなたの代理人として裁判に出廷し、状況を見極めながら訴訟上の和解に応じるべきか否かをアドバイスします。
民事訴訟を検討される場合には、ぜひベリーベスト法律事務所 新潟オフィスにご相談ください。
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