有給休暇は労働者の権利! 理由を求められるのは違法となりうる理由

2023年07月20日
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有給休暇は労働者の権利! 理由を求められるのは違法となりうる理由

厚生労働省が毎年発表している就労条件総合調査によると、令和3年の1年間における労働者ひとりあたりの平均有給休暇取得率は58.3%でした。政府が目標とする「令和7年までに年次有給休暇の取得率を70%」には、程遠いといえるでしょう。

企業によっては、有給休暇の取得をよしとしない雰囲気や体質があり、実質的に有給休暇の取得はできない状況になっているケースもみられます。ここでは、有給休暇とその取得に関する法的な考え方について、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説します。

1、有給休暇とは

有給休暇(年次有給休暇)は、労働基準法第39条に基づき労働者に与えられるもので、労働者の心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与され、有給で休むことができる(取得しても賃金が減額されない)休暇です。

使用者は、有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他の不利益な取り扱いをしないようにしなければならないことが、労働基準法で定められています。
また、労働基準法は、気兼ねなく有給休暇を取得するための制度として計画的付与制度を定め、有給休暇の日数のうち5日を超える部分について、労使協定により有給休暇の時季に関する定めをすることができるようになっています。

なお、有給休暇は、権利を行使せず2年間が経過した場合、時効により消滅してしまいます。

有給休暇の付与条件は、次の2点です。

  • 雇入れの日から起算して6か月間継続勤務したこと
  • 全労働日の8割以上出勤した労働者

法定有給休暇は、正社員であれば、6か月間の勤務により10日間の有給休暇が与えられ、その後1年継続して勤務するごとに次の通り有給休暇が与えられるという仕組みになっています。

  • 6か月:10日
  • 1年6か月:11日
  • 2年6か月:12日
  • 3年6か月:14日
  • 4年6か月:16日
  • 5年6か月:18日
  • 6年6か月:20日

パートなど、所定労働日数が少ない労働者にも有給休暇は付与されます。その場合、週の所定労働日数などに応じて付与されることになります。

2、有給休暇を申請する際、理由はいる?

有給休暇の取得に理由は不要です。
労働基準法第39条は、「使用者は、有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。」とし労働者の権利として定めているからです。

従って、本来は、会社で有給休暇の取得理由を尋ねられたとしても、答える義務はなく、答えなかったからといって、会社がその従業員を不利益に取り扱ったり、査定や昇給に影響が出たりすることもありません。
会社の申請用紙に理由記載欄がある場合もありますが、法的には労働者はこの欄に記載する義務はなく任意であるため、空欄で提出してもかまわないことになります。

なお、有給休暇の取得申請に理由は不要であるとしても、たとえば、同日に複数の労働者が有給休暇の申請をすることがあった場合、仕事が回らないため取得理由を確認し、緊急性を比較検討して取得する人を決めるということはありえるでしょう。しかし緊急度が低いと見なされ、その日に取得できなかった人も、別日に取得させてもらうことはできます。

3、有給休暇を取得する際、ウソの理由で申請したら?

すでにご紹介した通り、有給休暇の取得理由は不要ですが、会社によってはたとえば、就業規則に「届出などにおいて虚偽の申告を行わないこと」などが定められていた場合、懲戒処分などの対象になる可能性はあるかもしれません。ただし、取得理由欄へウソの理由を書いて申請したことで、重い処分になるということは考えにくいでしょう。

法律上、取得理由は不要とされていることは、人事部でなくとも管理する立場にある人であれば把握されていることが多いため、何らかのきっかけで申請した取得理由がウソである事実が判明したときの信用問題を考えれば、あえてウソをつく意味はないといえるでしょう。

4、有給休暇の取得を拒否されたら?

労働基準法第39条第5項は、労働者が有給休暇を申請してきたときに、事業者は有給休暇を与えなければならないと定めているため、従業員が有給休暇の取得申請をしたときに、会社が取得させないのは違法行為となります。

一方、同条第5項ただし書きは、「ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」と定めています。労働者が希望するタイミングで有給休暇を与えることで事業の運営に支障を及ぼす場合、事業者は休暇日の時季変更権が認められているのです。従って、会社から時季変更の要請があった場合には、それに応じて取得することが必要になります。

なお、有給休暇の取得を常に拒否されるようなケースの場合、証拠をとり今後の交渉や争いに備えておくことが必要です。
すでに述べた通り、有給休暇を申請したときに有給休暇の取得を拒絶されたら、会社は違法行為をしているということになります。後日会社と交渉したり、争いになったりした場合に、有給休暇の取得を拒否されたことについて何らかの証拠がないと明確な主張ができませんので、メールや書面、録音(ICレコーダーなど)による証拠を残しておくことが必要です。

なお、何らかの理由によりすでに退職することを決めている場合であれば、退職時にまとめて有給休暇を取得するにより会社との軋轢を生じさせず、楽な気持ちで有給休暇を消化することができます。

5、困ったときの相談先

会社から常に有給休暇の取得を拒否されるなどの状況があり、改善を求めたい場合、相談先として次のような機関があります。

①労働組合
労働組合は、会社に対し団体として労働条件の改善を求め、組合員の雇用を維持、向上するための活動を行う労働者が結成した組織です。
有給休暇を取得させないことは、労働者の権利への侵害ですので、労働者の権利を守るための団体である労働組合に相談してみましょう。

社内の労働組合があればそこへ、社内になかったら、業種や地域ごとの合同労組(ユニオン)に相談すれば、労働組合が会社と団体交渉をしてくれる可能性もあります。

②労働基準監督署
労働基準監督署とは、労働基準法その他の労働関係法令に基づき事業場に対する監督や労災保険の給付などを行う厚生労働省の機関です。
労働基準監督署に相談し、労働基準法違反がありそうだということになれば、会社を調査し、違反の事実が明らかになれば、指導・是正勧告などが出されます。指導・是正勧告の結果、会社が自主的に労働環境を改善することもあります。
ただし、労働基準監督署の指導・是正勧告に会社(経営者)への強制力はなく、従って労働基準監督署に相談しても、解決しないこともあります。

③厚生労働省 総合労働相談コーナー
厚生労働省の窓口で、あらゆる労働問題の相談ができます。専門の相談員が面談もしくは電話で対応し、予約不要、利用は無料です。労働相談を受けるほか、「助言・指導」や「あっせん」を案内しています。
また、労働基準法などの法律に違反の疑いがある場合は、行政指導などの権限を持つ担当部署に取り次ぎます。

④全労連 労働相談ホットライン
全国労働組合総連合の窓口で、あらゆる労働問題の相談ができます。また、全国に労働相談センターも設置されています。新潟県では、新潟市中央区の勤労福祉会館に事務局があり、直接窓口で相談することも可能です。

⑤NPO法人労働組合 作ろう!入ろう!相談センター(旧 労働相談センター)
労働組合を作る・入ることによって労働問題の解決を図ることを進めていくNPO法人です。相談方法には、電話、メール、来所(要予約)による面談があり、無料です。

⑥法テラス
国が運営する法的トラブルの総合的な案内所です。資力などの複数の要件を満たすことで、弁護士費用の立て替えなどの援助も受けることができます。

⑦法務省 みんなの人権110番
労働問題だけでなく、差別や虐待、パワハラなど人権問題についての相談を受け付ける、法務省の相談ダイヤルです。

⑧弁護士
弁護士であれば、法律相談はもちろん、会社との交渉から訴訟まで一括して幅広い対応が可能です。特に労働事件は、高度な専門性を求められます。弁護士を選ぶ際には、労働問題の解決経験が豊富かどうかを、選定の基準にしてみてください。
初回相談が無料の事務所も多いので、まずはお気軽に相談されるとよいでしょう。

6、まとめ

労働問題については複雑な争点を含む場合も多く、会社との交渉による折り合いがつかなければ、労働審判や訴訟などの手段が必要になってくる可能性もあります。有給休暇の取得ができない、会社とご自身で交渉しようとしても交渉に応じてもらえない、有給休暇を申請したことにより不利益を受けている、などお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスまでご相談ください。新潟オフィスの弁護士が、適切に有給休暇を利用できるよう全力を尽くします。

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