相続に財産目録は必須? 財産目録の詳細と法改正による変更点

2019年04月09日
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相続に財産目録は必須?  財産目録の詳細と法改正による変更点

平成30年11月、新潟県の花角知事の資産が公開されました。記載された資産に驚かれた方もいるかもしれません。

このように公開されていれば別ですが、多くの場合、子どもは親の資産の詳細すべてを知っているようで知らないものです。複数の不動産や投資信託、株などの金融資産を保有している場合、遺言書を作成する際に財産目録も添付しておかなければ、遺された人々に混乱をきたしてしまいます。

そこで、今回は財産目録の必要性や、財産目録に記載する内容などをベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの現役弁護士が解説します。

1、財産目録って何?

財産目録とは、被相続人の所有する財産を一覧にしたものです。特に決められた書式はないため、表形式でも箇条書き形式でも好きな書き方をすれば大丈夫です。

ただし、財産目録そのものは遺言書を作成する際に、必ず必要というものではありません。それでもきちんと用意されているだけで、遺された人々の負担が軽減されるだけでなく、被相続人が望むように財産を分配することができます。

2、財産目録がなかったらどうなるのか

前述のとおり、財産目録は、遺言書を作成する際に必ず必要なものではありません。そのためか、遺言書に財産目録がないケースも多々ありました。

しかし、財産目録がないと遺された遺族が事務作業に忙殺されたり、相続争いが発生してしまったりと無駄な苦労をかけてしまうことになります。ここでは、財産目録を作らない場合に発生すると考えられるトラブルについて解説いたします。

  1. (1)財産の把握に膨大な時間と労力がかかる

    被相続人であるあなたは自分の財産をほぼ把握しているはずです。しかし、相続人である配偶者や子どもたちはすべてを把握できていないことがほとんどでしょう。

    そのため、被相続人の死後、まずは財産がどこにどれだけあるのかを把握する必要に迫られます。家と預貯金だけであれば問題は少ないかもしれません。しかし、「株をやっていたはず」、「田舎の方に山を持っていたのでは?」などと限られた情報、時間の中で財産を特定する作業をしなければならないのです。

    株式投資や仮想通貨の投資などを行っている場合は、財産があることは知っていてもインターネット証券等のパスワードがわからなければログインできません。つまり、資産額も把握できないということになります。

    さらに、居住していない不動産は、自治体から送付された固定資産税関係の書類を探さなければ、特定できないでしょう。

    万が一、負債がある場合は「相続放棄」を検討する必要があります。相続放棄の期限はたったの3ヶ月であるため、相続人たちは悲しみに暮れる間もなく財産を特定するために多大な時間と労力をかけることになるのです。

    自分たちでは手に負えず、弁護士などの専門家に慌てて依頼することも少なくありません。

  2. (2)遺産分割協議に「漏れ」が発生して二度手間になる

    被相続人の死後、相続人たちが一生懸命財産を特定しても、漏れが発生してしまうケースもあります。ゴルフの会員権や、借金、株式などは家族が把握していない場合が多いので、財産目録がなければ見落としてしまいがちです。

    遺産相続が完了し、財産を分割した後に新たに資産が出てきた場合、もう一度その資産についての遺産分割協議を行わなければなりません。さらに、相続税の申告も再度行う必要があります。税務署に修正申告を行うのですが、放置してしまうと加算税が課されてしまう可能性もあるのです。

3、遺言書作成時に財産目録が必要な3つの理由

財産目録が必要な理由についてはご理解いただけたでしょう。改めて、財産目録を作るメリットについて解説します。

  1. (1)被相続人の死後、スムーズに遺産分割協議をスタートできる

    財産目録があれば、相続人たちは財産の把握に奔走することなく、すぐに遺産分割協議をスタートできます。相続人同士で「本当はもっとどこかに財産があるんじゃないの?」と疑心暗鬼になることもありません。

    財産の総額がすぐにわかるので、相続放棄すべきなのか、相続すべきなのかの判断もすぐにつくでしょう。また、いくら相続税が発生するのかも簡単に計算できるので、納税の準備をあらかじめしておくことも可能です。

  2. (2)申告がしやすくなる

    遺産を相続すると、相続税の申告を行わなければなりませんが、複数の財産がある場合は申告書を作成するのも非常に手間がかかります。しかし、財産目録があれば、財産目録を参考にしながら申告書を作成できるので、作成する手間も省けますし、申告漏れも発生しません。

  3. (3)あなたの意図通り遺産が分割される

    財産目録がない場合、遺言書に記載されている財産は、原則、遺言書のとおりに分割されます。しかし、記載されていない財産についてはあなたの想定していない遺産分割がなされる可能性があります。

    「畑は妻に相続してもらった自分の死後も作物を作って欲しい」と考えていたのに、子どもたちが「畑はもういらないから」と売却して、金銭で分割しようとするかもしれません。しかし、財産目録を作成した上でそれぞれの財産の分割方法までしっかりと指定しておけば、あなたが望む形で遺産は相続されます。

4、財産目録に記載すべき事項

財産目録には、すべての財産を記載する必要があります。財産目録に記載する財産に漏れがあった場合、相続人たちは財産目録を信じられなくなり「他にも財産があるのではないか」と、財産の特定に奔走することになってしまいます。

だから、財産目録を作成する際は必ず財産の漏れがないように、すべての財産をリストアップしておきましょう。忘れがちなのが、ゴルフの会員権や株式、遠く離れた場所の不動産、装飾品などです。

財産目録に記載すべき代表的な資産は以下のとおりです。

  • 預貯金
  • 現金
  • 不動産の所有権
  • 土地などの借地権
  • 車などの動産
  • 株券
  • 債券
  • 小切手
  • 保険
  • 借金、負債
  • ゴルフの会員権
  • 著作権
  • 墓地や墓石

これらの財産の保有数や金額などは、あなた自身がすべて把握して、記載しなければなりません。土地の場合は、登記簿などを確認しながら、正しい地番を記入してください。

株式は、日々トレードして保有株数が変化することもあると思います。その場合は、ご自身名義の証券会社をリストアップしておき、総資産の概算を記載しておいてもよいでしょう。

表形式、リスト形式など好きな方法で書いて構いませんし、面倒であれば預貯金通帳のコピーや、保険の証券などのコピーを添付するだけでも大丈夫です。

5、自筆証書遺言の法改正で、財産目録の書き方もこう変わる!

平成31年1月13日、自筆証書遺言に関する書き方が緩和される相続法の改正が施行されました。これまで、自筆証書遺言を作成する場合は、すべて手書きで書くことが義務付けられていました。遺言書本体だけではなく、財産目録まですべて手書きが求められていたため、作成する際には非常に手間がかかりました。

書き損じた場合は、さらに面倒な修正ルールに従って修正しなければなりません。財産目録が間違っていれば、遺言書自体が無効になることもあります。その面倒さからか自筆証書遺言が作成されているケースが少なく、相続でトラブルが発生することが多かった現状を変えるべく、財産目録のルールが緩和されたのです。

しかし、自筆証書遺言に添付する財産目録は、手書きではなくても認められるようになったのです。まず、財産目録は手書きではなくパソコン等で作成することが認められました。プリントアウトしたものに署名押印すれば、財産目録として認められます。

また、リスト形式にしなくても、財産を把握できるものの写しを添付することも認められました。不動産の登記簿謄本や預貯金通帳の写しなどに署名押印すれば、それだけで財産目録になるのです。

さまざまな資産を保有している人にとっては、財産目録作成のハードルが大きく下がる素晴らしい法改正と言えます。

6、まとめ

財産目録の作成は円滑な遺産相続には必要不可欠なものですが、作成が大変で避ける人が少なくありませんでした。ところが平成31年1月13日からは、手書きでなくてもよいと規定されましたので、簡単に作成できるようになります。

ただ、財産目録は「正確にすべての財産を網羅すること」が重要なので、自分で作成すると漏れが発生する可能性があります。また、遺言書自体が法的に無効な内容になっている可能性もあるので、財産目録を作成する際は遺産相続の経験豊富な弁護士に相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスでも、スムーズな遺産分割ができるように最適な方法をアドバイスします。まずはお問い合わせください。

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