高齢の親が万引き!? 窃盗罪の逮捕と示談や謝罪など適切な家族の対応とは
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平成29年9月、新潟市内のショッピングセンターで万引きを行ったとして、家族や知人計5人が逮捕されるという事件が起こりました。まるで、話題になった映画のような一家ですが、5人のうち3人が65歳以上の高齢者だったことが明らかになっています。
万引きはいうまでもなく犯罪です。刑法で定められた「窃盗」罪に該当します。平成29年の犯罪白書によると、65歳以上の高齢者による「窃盗」の検挙人数は、3万3979人となっており、高齢者による刑法犯人検挙数の実に7割を占めているのです。高齢の親が万引きで逮捕されてしまうことも、ひとごとではない時代……なのかもしれません。
今回は、高齢の親が万引きをしてしまったケースを例として、窃盗罪と逮捕の関係から、事件発生後、家族ができる対応方法を中心に、新潟オフィスの弁護士が解説します。
1、万引きは窃盗ではないという誤解
万引きは繰り返すうちに規範意識が低下していく傾向がある犯罪として、犯罪白書などでも取り上げられています。「ほんの出来心」や「たいしたことがない」こと……という意識の延長で繰り返す人が多い傾向があるようです。
しかし、前述したとおり、万引きは刑法第235条で定められた「窃盗」罪に該当します。
窃盗罪には、空き巣、スリ、車上ねらい、置引など、さまざまな手口があり、警察の統計でも分類されて計上されています。「万引き」もそれらと同じ、窃盗罪の手口に過ぎません。
窃盗罪は、「人の財物を窃取」することで成立する犯罪です。「財物(ざいもつ)」とは、他人の持ち物です。財産的な価値がある、金銭や商品はもちろん、電気なども財物としてみなされます。そして「窃取(せっしゅ)」とは、簡単にいうと、こっそり盗むことを指します。
万引きもまた、「売り物である商品を、店側の意思に反して自分の自由に扱う」行為ですから、当然ながら窃盗罪に該当するのです。たいしたことがない行為ではありません。
2、窃盗罪の刑罰
窃盗罪の刑罰は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。「懲役(ちょうえき)」とは、刑務所に服役する刑罰で、「罰金(ばっきん)」はお金を支払う刑罰です。
窃盗で逮捕されても、初犯であれば「不起訴」処分や「罰金」刑で済むこともありますが、事件が悪質と判断されれば懲役刑となることもあるでしょう。「たかが万引き」と軽く考えた結果、刑務所に収監される可能性もあるのです。
前述のとおり、窃盗罪は再犯率が高い犯罪のひとつです。犯行を繰り返したケースでは、さらに重い刑罰が科されます。たとえば、過去10年の間に窃盗罪の懲役(執行猶予含む)の前科が3回以上ある場合は、刑法上の窃盗のほか、「盗犯等の防止及処分に関する法律」を違反した「常習累犯窃盗」として、「3年以上20年以下の懲役刑」に加重されます。
3、万引きと逮捕の関係性
繰り返しますが、万引きは犯罪です。よって、逮捕される可能性は十分に考えられます。あとからでもちゃんとお金を払えばいいというものではありません。
しばしば誤解されがちな万引きと逮捕の関係性、逮捕後の流れを知っておきましょう。
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(1)万引きは現行犯逮捕しかない?
怪しい動きをする人物が店の商品をバッグに入れ、店を出た瞬間に万引きGメンに現行犯逮捕される……。テレビなどでよく見るシーンのせいか、「万引きは現行犯逮捕でしか捕まることがない」と思う方もいるようです。
しかし、証拠があれば、犯行の後日に逮捕される可能性もあります。後日、逮捕される「通常逮捕」とは、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるため、身柄を拘束する必要性があり、逮捕状にもとづいて逮捕することです。
たとえば、証拠がそろっているのに否認している、複数の共犯者がいるなどのケースでは、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるとして、後日、逮捕される可能性が高まります。その他、殺人などの重大事件とのかかわりがある可能性があるときは、「緊急逮捕」されることもあるでしょう。
冒頭の事例では、5人が逮捕された際の容疑は、およそ1年前の窃盗に関するものだったと報道されています。家族らが合流して商品を盗む姿が防犯カメラの映像に残っていたことが、逮捕の決め手になったのではないかと推察されています。つまり、万引き事件においても通常逮捕が十分あり得ること、逮捕される時期が必ずしも犯行の直後とは限らないことをご理解いただけるでしょう。 -
(2)高齢だから逮捕されないわけではない
万引きで逮捕されるか否かは、店側の考え方によっても変わります。かつて、高齢者や未成年者の場合は、店側の配慮により通報されず、家族の呼び出しや口頭注意で終わるケースも多々ありました。家族としても、「年老いた家族なのだから、逮捕だけはやめてあげてほしい」と感じるかもしれません。
しかし、昨今、万引きによる全国の被害額は年間で4000億円にのぼるといわれており、店側にとって無視できない問題として扱われています。そのため、年齢次第で許してもらえるということはなく、店舗によっては全件警察へ通報する方針をとるように指導されています。よって、逮捕される可能性は大いにあるといえるでしょう。 -
(3)万引きで逮捕されたあとの流れ
窃盗罪に限らず、警察に逮捕されると、取り調べを受けて、必要に応じて48時間以内に検察庁へ送致されます。検察官は、送致から24時間以内に裁判所に対して勾留請求を行います。勾留請求とは、引き続き身柄を拘束して捜査する必要がある際に行われる手続きのことです。
勾留が決まると、最長で20日間身柄を拘束され、勾留期間満了までに、起訴・不起訴処分が決定される流れとなります。
なお、勾留の可否が決定されるまでの72時間は、たとえ家族であっても本人との面会はできません。電話することも難しいでしょう。この段階で制限なく面会できるのは、弁護士のみとなります。
4、高齢の親が万引きをしたらどうするべきか
高齢の親が万引きをしてしまったら、家族として何をするべきなのでしょうか。高齢の親に前科を付けないためにも、家族がすべきことをまとめてみました。
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(1)被害者への謝罪
事件の悪質性にもよりますが、高齢者の万引きでは、店側がまずは配偶者や子どもなどの家族に連絡をする可能性が考えられます。万引きをしたと連絡を受けたら、すぐにかけつけ、本人に反省を促し、被害者に対する謝罪の意を示すことが大切です。
家族の監督に期待できれば、店側が通報せず、逮捕を回避できる可能性もあるでしょう。すでに逮捕されたあとであっても、本人による謝罪文の写しを証拠として提出することで、反省していると認められ、不起訴処分や刑罰の軽減につながる可能性もあります。 -
(2)被害者との示談
「示談(じだん)」とは、当事者同士が話し合いによって事件を解決することです。
示談には謝罪も含まれますが、単純な謝罪と違い、店舗の利用禁止や事件を口外しないなど、交渉が穏やかに行われれば、お互いにとって必要な項目を盛り込むことも可能となります。示談が成立することで、すでに提出された被害届が取り下げてもらえることもあるでしょう。
警察や検察は、被害者のいる事件においては示談成立の有無を重要視します。示談が成立していることを示談書などで明らかにできれば、「微罪処分」や「不起訴」処分など、前科を付けずに釈放してもらえる可能性が高まります。万が一、起訴されてしまったとしても、罰金刑など、刑罰が軽くなるなどの効果が期待できます。
示談金については、被害品の返還や買い取りで済むケースが多い傾向があります。事件によって変わりますが、万引きの場合は被害額とかけ離れた額を請求されるケースはあまり多くはないでしょう。ただし、同じ店舗で複数回の万引きを繰り返しているなど悪質なケースでは、過去の弁済や慰謝料などが加わることもあります。
なお、万引きに対して厳しい姿勢をとっている店舗では示談に応じないことがあります。直接、示談交渉することが難しいときや、示談の際、どのような交渉をすればよいのかわからないときなどは、法律と交渉のプロでもある弁護士に相談するのもひとつの手です。 -
(3)クレプトマニアの改善
高齢の家族が、お金に困っているわけでもないのに万引きを繰り返しているケースは、「クレプトマニア」を疑う必要があるかもしれません。クレプトマニアとは、窃盗症や窃盗癖とも呼ばれる精神疾患のひとつです。
窃盗の目的が金銭的な利益や個人での用途ではないこと、窃盗を犯す際に快感や満足感を得やすいことなどが特徴です。アルコール依存症や買い物依存症などと同様、自分の意志だけでは、窃盗の衝動をコントロールできない病気の一種です。
クレプトマニアの症状は、家族や被害店舗側から叱られたり、刑罰を受けたりすることでは改善されません。医師などの治療やカウンセリングが必要不可欠になるでしょう。いち早く専門外来や治療施設に相談する、自助グループに入るなどの方法を用い、家族がサポートしていくことが大切です。
また、今後クレプトマニアを改善するための取り組みを家族で行うことを証明できれば、早期治療を理由に罪が軽くなる可能性もあります。
5、まとめ
今回は、高齢の親が万引きをしてしまったケースを想定し、窃盗罪と逮捕の関係、対処法について解説しました。万引きで逮捕されてしまうと、長期間身柄を拘束されたり、刑罰を受けたりする可能性があります。高齢の家族にとっては、大変な負担になることは想像に難くありません。よって、家族が速やかに動き出すことが大切です。
ただし、万引きはれっきとした刑法犯罪です。身柄釈放に向けた働きかけや示談成立など、家族のみの力では対処できないことも多くあります。専門家である弁護士に頼ることで、迅速かつ効果的な対処が期待できるでしょう。
家族が万引きで逮捕されてしまったときは、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスへ相談してください。刑事事件の対応経験が豊富な新潟オフィスの弁護士が尽力いたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています