頻発する「置き引き」の定義や罪名を弁護士がわかりやすく解説
- 財産事件
- 置き引き
- 罪
ひとくちに窃盗犯といってもさまざまな手口があり、自転車や自動車、オートバイなどを盗む乗り物盗をはじめ、万引きやひったくり、そして置き引きも窃盗犯に含まれます。新潟市で発表している「平成29年 新潟市の犯罪状況」によると、認知された刑法犯のうち71.8%が窃盗犯でした。非常に身近な犯罪であることがわかるでしょう。
今回は、置き引きとはそもそもどのような行為なのか、そしてなぜ窃盗罪に該当するのか? などの疑問に、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が回答します。
1、置き引きとは? どのようなケースで該当するのか
「置き引き」とは、置いてある他人の物を持ち去る行為をいいます。
これは法律用語ではなく、慣用的な言葉として使われており、「万引き」や「ひったくり」なども同様に慣用的な言葉です。万引きであれば、スーパーなどの店舗内から商品をひそかに盗み出す行為ですし、ひったくりは歩いている人の手荷物などをすれ違いざまに奪って逃げるような行為で、いずれも、イメージしやすいものです。しかし、意外と置き引きの定義を問われると、ぱっと浮かばない方もいるかもしれません。
置き引きの具体例を挙げると、たとえば公衆トイレに入った際、前にトイレを使用した人が忘れていった財布を見つけ、これを持ち帰ってしまうと置き引きに該当します。このほか、ショッピングセンターに落ちていた他人の荷物、ATMで持ち帰るのを忘れられた現金、自転車かごに残された荷物など、これらを持ち帰る行為はすべて置き引きと考えられます。
上記に挙げた例は、置き引きにあたる行為の具体的例ですが、日常でよくみられるシチュエーションの中にも置き引きとして扱うべきか、線引きの難しい事例があります。故意なく人の物を持ち帰ってしまった場合などがこれにあたります。さらには、少しの間だけ置かれている人の物、たとえば無造作に置いてあった他人のペンを借りた場合も、個別に判断する必要があります。
2、置き引きは窃盗罪!? 窃盗罪について
置き引きをした場合、刑法上の「窃盗罪」になるケースが多いです。それでは、窃盗罪とは具体的にどのようなことを指すのか、どのような罰が与えられるのかをご説明します。
-
(1)窃盗罪の概要
窃盗罪は下記の条文で刑法235条に規定されています。
「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役、又は50万円以下の罰金に処する」
条文に「財物」とあるため、窃盗罪にあたる行為かどうかを考えるには、どのようなものが財物にあたるのかを知っておく必要があるでしょう。そもそも財物とは財産的価値のある「物」であり、そのため情報自体は財物として扱われません。つまり、他人のデータをコピーしただけでは窃盗罪にはあたりません。財産的価値という点については、主観的に価値が認められれば財物として扱われます。つまり、交換価値は必要なく、思い出の品や記念品なども財物になるということです。
さらに、窃盗罪は奪い方や窃取(せっしゅ)する物の種類次第で、別の罪に問われる可能性もあります。例としては、不動産を侵奪すれば不動産侵奪、暴行または脅迫を用いた場合には強盗などの罪になる可能性もあるでしょう。しかし、置き引きで不動産が対象となることや、所有者が目の前にいるということ考えにくいため、窃盗罪になるケースがほとんどでしょう。 -
(2)窃盗罪の成立には「自分の物にする意思」の有無がかかわってくる
窃盗罪の成立には、物を奪う際の方法のように客観的に判断できるもののほか、主観的な要件として「不法領得の意思」が必要です。不法領得の意思とは、他人の物を自分の物として使用する意思のことを意味します。置き引きにおいても重要な点となります。
たとえば放置されている他人のペンを盗む行為は、置き引きであり窃盗罪となります。しかし初めから自分の物にするという意思がなく、一時的に利用しすぐ返すつもりであった場合には不法領得の意思がないと判断される可能性があります。
このような行為が罪に問われるかどうかは個別に判断する必要があります。明確な区分けは難しい理由は、まさに「不法領得の意思」が主観によるものであるためです。しかし、場合によっては本当に自分の物にするという意思がなかったとしても窃盗罪になる可能性があることに、注意が必要です。
確かに、間違って他人の物を持ち帰ってしまったようなケースでは不法領得の意思はありません。しかし客観的に見ても、それは本心かどうかがわからないため注意が必要です。持ち帰ってしまった他人の物がどのような物で、どのようにして持ち帰ってしまったのか、さらにその後の対応なども重要になってくるでしょう。 -
(3)占有離脱物横領罪になる場合もある
置き引きでは窃盗罪の他「占有離脱物横領罪」に該当する可能性があります。占有離脱物横領罪については1年以下の懲役または10万円以下の罰金、もしくは科料が科せられ、罰則規定については窃盗罪よりも軽く設定されています。
故意に置き引きをした場合や、意図せず他人の物を持ち帰ってしまった場合においても逮捕の可能性があることを考えれば、窃盗罪と占有離脱物横領罪のどちらに該当するのか、ということは重要になってくるでしょう。
大きな分かれ目は被害者に占有があるかどうかです。占有の有無については以下の具体的な事例を考えた方が理解しやすいでしょう。
●運行中の電車内に忘れられた財布
たとえば電車内に置き忘れた財布を持ち帰った場合には占有離脱物横領罪となる可能性が高まります。不特定多数の人が出入りできるような場所に置かれると、その物は所有者の占有から離脱したとみなされるためです。
●開店中のスーパーに忘れられた財布
開店中のスーパーも電車内と同じく所有者に占有がないと判断され、そこに置き忘れられた財布を持ち帰った人は占有離脱物横領罪となる可能性があります。しかし財布の持ち主が置き忘れた直後、数メートルしか離れていない状態で忘れたことに気がついて引き返した場合、この間に持ち帰った人は窃盗罪と判断される可能性が高いと考えられます。さらに、財布が忘れられていることに気づいた従業員が、閉店後にこれを持ち帰った場合、窃盗罪になります。閉店したスーパーは人が自由に出入りできる状態ではなく、この場合、財布の占有は店主に移っているものと解されるからです。占有の離脱していない物を持ち帰ったため窃盗罪になると解釈されるのです。
●ホテルで前の客が忘れていった財布
ホテルに宿泊したところ、前の客が忘れていった財布を見つけこれを持ち帰ったとします。この財布はホテルの支配人に移っているため、窃盗罪になります。
3、逮捕されてしまった場合の流れ
置き引きはここまでで説明した通り、法的には「窃盗罪」に該当する犯罪行為です。そのため、持ち主が通報してしまえば逮捕に至る可能性があります。逮捕されてしまった場合には警察や検察の捜査、そして裁判によって刑罰を決められていく……という流れになります。
逮捕後はまず警察で最大48時間身柄拘束されます。釈放されず捜査の続行が必要と判断されると検察に身柄が移され24時間以内に勾留するかどうかの判断を下されます。「勾留(こうりゅう)」とは、引き続き拘置所や留置場で身柄を拘束したまま捜査を行うことを指します。もし勾留の必要ありという結果になれば最大10日間、さらに10日以内の延長もあり得るでしょう。
勾留期間が終わるまでには、検察官が起訴・不起訴の判断をします。不起訴、または、ここまでに釈放されれば前科が付くこともありません。
起訴されたときは、刑事裁判で罪を裁かれることになります。起訴されると、99.9%が有罪となるのが現状です。そのため、逮捕された人はできるだけ起訴されないように目指すことが必要です。また、結果的に不起訴となったとしても、長い間拘束されてしまうと、仕事や学業へ影響が出ることになります。早期の釈放を目指すことにもなるでしょう。
-
(1)「在宅事件扱い」となる可能性もある
置き引きや万引きのように、比較的軽微な犯罪では逮捕されず在宅での捜査が行われる可能性があります。しかし、逃亡や証拠隠滅のおそれがなく、身元引受人がいることなどが条件となるでしょう。この条件には、住所が特定されており勤務先や配偶者がいることなど、被疑者の生活状況や、犯行の悪質性も考慮されます。
-
(2)被害者に告訴をする意思がなければ逮捕される可能性は低い
窃盗罪や占有離脱物横領罪は相対的親告罪です。親告罪とは被害者の告訴がなければ刑事裁判ができない犯罪のことですが、相対的親告罪では被害者との関係性によって告訴の必要性が変わります。
具体的には、配偶者・直系血族・同居の親族との間では非親告罪(ただし、刑の免除規定(刑法244条1項)が存在するため、実質的に不可罰。)、それ以外の親族との間では親告罪となります(同条2項)。
そして、警察が被疑者を逮捕するためには、逮捕状が必要です。さらに、逮捕状を請求するには被害者に対して告訴するかどうかを確かめる必要があります。もし被害者が告訴をしないという意思表示をすれば、逮捕までする必要はないという判断になりやすいでしょう。
しかし、現行犯逮捕についてはこの規定の例外として扱われます。警察官の目の前で置き引きをすれば、その場で逮捕される可能性はあるということです。逮捕状が必要な通常逮捕と、逮捕状が必要ない現行犯逮捕とでは緊急性が異なるため、さまざまな規定の例外とされています。現行犯逮捕であれば警察官である必要もなく、行為を見かけた第三者が逮捕することもできます。しかし、この場合でも、逮捕後に被害者が告訴しなければ有罪にはなりません。
つまり、逮捕前に持ち主に謝罪と弁償を行い、告訴しないように依頼する示談が成立すれば、逮捕も回避できる可能性があるでしょう。示談交渉は弁護士に依頼したほうが、スムーズに進めることができます。
4、不安な場合は弁護士へ相談!
上で説明した通り、逮捕後は早急に対応することが重要になってきます。早めの釈放を目指さなければ、数週間もの間身柄を拘束されるかもしれません。加えて起訴されないようにする必要もあるでしょう。もし置き引きが故意のものでなければなおさら、他人の物を盗もうとしたわけではないと訴えかける必要があります。
そこで、早期の釈放や不起訴を目指すためには、できるだけ迅速に弁護士へ依頼することが重要になってきます。もちろん弁護士へ依頼しなければならないわけではありませんが、法律の専門家である弁護士に相談し、アドバイスを得たほうが望む方向へ話が進みやすくなるのは間違いありません。また、逮捕後は家族であっても自由に面会ができなくなることがありますが、弁護士であれば面会の制限もありません。
逮捕前でも弁護士への相談は有効です。他人の物を持ち帰ってしまったことに気づいた場合、返却したいが逮捕されてしまうのではないか、と不安に思うかもしれません。そのようなとき、先に弁護士に相談しておけば、警察へ同行して説明を代行してくれることもあります。
5、まとめ
置き引きは窃盗罪、もしくは占有離脱物横領罪に該当する可能性があります。間違って人の物を持ち帰ってしまった場合でも、逮捕の可能性がないとはいえません。
もしこのような事態に陥った場合には、まず弁護士に相談してみると良いでしょう。ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスではこのような問題にも対応し、逮捕前・逮捕後にかかわらず適切なアドバイスをいたします。まずはひとりで悩まず、相談してください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています