指導のためでも部下を殴れば暴行罪! 罰則や逮捕後の流れ、対処法は?

2018年09月19日
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指導のためでも部下を殴れば暴行罪! 罰則や逮捕後の流れ、対処法は?

かつて、職場で部下や後輩を指導する際に、殴ったり蹴ったりすることは、職業によっては日常茶飯事だった……という昔話を聞いたことはありませんか? しかし本来、暴行を加えてしまえば、相手がケガをしていなかったとしても、暴行罪に問われる可能性があるのです

なお、新潟県の統計資料によると、平成24年から28年の4年間に、県内で暴行事件が発覚した数は680件で、そのうち643件が検挙されています。

たとえ指導目的でも、暴行は犯罪行為に該当し、罰せられることもあります。相手がケガをしてしまえば、さらに重い罪に問われることにもなるのです。そこで、今回は、暴行罪の概要や逮捕後の流れ、暴行してしまったときの対処法について新潟オフィスの弁護士が解説します。

1、暴行罪の概要と罰則

まず、「暴行罪」とはどのような罪なのか、その定義や具体的な行為の例、罰則について、くわしく解説します。

  1. (1)暴行罪の定義と具体的行為

    「暴行罪」は、身体の安全を守るために規定された犯罪です。刑法208条において「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」と規定されています。

    よって、相手にケガをさせていなかったとしても、暴行罪は成立します。たとえば暴行を働いた結果、相手にケガを負わせてしまったケースにおいては、さらに重い刑罰が科される「傷害」罪に問われることになるので注意が必要です。

    なお、刑法で示す「暴行」とは、人体に対してふるわれる物理的な力すべてを指します。わかりやすい例としては、「殴る」、「蹴る」、「押す」などの行為ですが、この範囲にとどまりません。たとえば、「胸ぐらをつかむ」、「衣服を強く引っ張る」、「コップの水をかける」、「髪を切る」などの行為も「暴行」に該当します。

    また、身体的接触がなくても「暴力」として認められることがあります。具体的には以下のようなケースでも暴行罪として成立することがあります。

    • 驚かせるつもりで、相手にぶつけないように石を投げた
    • 爆音を出すことで相手の意識をもうろうとさせた
    • 嫌がらせのためにあおり運転をした


    ただし、サッカーなどのスポーツなどで発生する身体接触は、当然のことながら「正当業務行為」と認定されるため、暴行にはあたりません。

    なお、暴行罪の要件には、故意があったことが必要とされます。ただし、「未必の故意」でも足りるとされているため、暴行を加える本人が「もしかしたら相手がケガをする可能性がある」という認識が少しでもあれば、「未必の故意」があったとして暴行罪に問われる可能性があります。

  2. (2)部下への指導でも暴行罪にあたるのか?

    職場で部下や後輩に指導をする際に、つい熱が入って手が出てしまった……という話はまれに聞きます。しかし、冒頭で述べたとおり、相手に物理的な力を行使した時点で暴行罪が成立します。

    部下や後輩がミスを犯し、厳しく指導しなければならない状況だったとしても、暴力に正当性はありません。暴行に至った場合は、世間でよく議論されるような「パワハラと指導の境界線」といった曖昧な問題ではなく、明らかに度を超えた指導とみなされる可能性が高いといえるでしょう。

    なお、職場での指導は加害者意識が希薄になりやすく、被害者も暴露することによる、さらなる暴行や失職などをおそれ、我慢してしまうことが多くあるようです。その結果、行動がエスカレートしやすい状況が整っているといわれています。

    しかし、実際に暴行を働いてしまった場合は、外部からの目撃や被害者本人、さらには別の社員からの訴えにより、逮捕される可能性があることはもちろん、解雇や自主退職に追い込まれるケースもあります。

  3. (3)暴行罪の罰則

    暴行罪の罰則は、刑法第208条において「2年以下の懲役または30万円以下の罰金または拘留若しくは科料」と定められています。

    なお、「懲役(ちょうえき)」は刑務所で服役すること、「拘留(こうりゅう)」は1日~30日未満の期間、刑事施設で拘束されることです。そして「罰金(ばっきん)」や「科料(かりょう)」は、お金を払って罪を償うことを指します。なお、「科料」は罰金よりも少ない額を指します。

    暴行罪では相手がケガをしていないことが大前提です。そのため、初犯で悪質性が認められない場合は不起訴処分や罰金刑で済むこともあります。

    しかし、事件が悪質な場合は初犯でも懲役刑となる可能性があるでしょう。たとえば、繰り返し暴行をした場合や凶器をちらつかせた場合、犯行が計画的に行われた場合などが該当します。

    なお、相手にケガをさせてしまった場合は傷害罪に問われ、暴行罪と比べて格段に重い15年以下の懲役または50万円以下の罰金刑が課せられます。

2、逮捕とその後の流れ

暴行罪での逮捕は、どのような状況で行われるのでしょうか。逮捕されるタイミングや逮捕後の流れなどについて解説します。

  1. (1)後になって逮捕されることはある?

    多くの暴行事件では、暴行の最中や直後に通報され、駆けつけた警察官に身柄を拘束される「現行犯逮捕」が多数を占めます。

    しかし、事件発生の翌日以降に逮捕されるケースもあります。被害者が翌日以降に被害届を出したときなど、警察が事件を認知したうえで加害者を特定でき、かつ逃亡や証拠隠滅をするおそれがあるときなど、警察は「逮捕状」を裁判所に請求したうえで身柄の拘束を行います。これを「通常逮捕」と呼びます。「後日逮捕」と呼ぶこともあるようです。

    たとえば、加害者が被害者の住所を知っている場合は、被害者に接触して証拠隠滅を図る可能性が考えられます。ひとり暮らしで定職に就いていないケースも、逃亡のおそれがあるとして通常逮捕されることがあるでしょう。

  2. (2)逮捕の証拠となるもの

    暴行罪では、ケガがないことが前提となるため、傷害事件における診断書のような書面がありません。また、どの行為が暴行にあたるのか曖昧な部分があるため、証拠が不十分であるとして不起訴や早期の身柄釈放になることもあります。

    ただし、暴行当時の様子を録音したものや、多数の目撃情報、防犯カメラの映像があれば、暴行行為の証拠となり得ます。特に、暴行現場が職場だった場合は、多数の社員が目撃している可能性が高いものです。被害者の証言と整合性のある目撃証言が複数あれば、暴行行為の証拠となることがあります。

  3. (3)暴行罪の時効

    暴行罪の公訴時効は3年です。事件から3年経過した時点で、検察は事件を起訴できなくなります。

    加害者の立場からすれば、暴行から少なくとも3年間は逮捕・起訴される可能性があるということです。また、逮捕されなくても、暴行を根拠に損害賠償請求をされる可能性があります。損害賠償請求権の時効は事件から20年たつか、被害者が損害および加害者を知った時点から3年と定められています。なお、傷害罪の公訴時効は10年です。

  4. (4)逮捕後の流れ

    暴行罪で逮捕された後の流れを簡単にまとめると、以下の流れになります。

    • 逮捕後48時間以内……警察による取り調べ、検察への「送致(そうち)」
    • 送致から24時間以内……検察による捜査。必要に応じて「勾留請求(こうりゅうせいきゅう)」
    • 勾留後……身柄を拘束されたまま操作が続行される。勾留可能期間は最長20日間。
    • 勾留期間満了まで……起訴・不起訴の決定


    暴行容疑のみで逮捕されたケースであれば、比較的早く身柄を釈放されることが多い傾向があります。しかし、証拠があるのに否認している場合や証拠を隠滅するおそれがある場合は、長期間身柄を拘束されることになるでしょう。

    身柄が拘束されている間は、会社を休むことになります。期間が長引けば長引くほど、懲戒処分を受けたり、職場の人間関係に影響を与えたりする可能性が考えられます。

3、職場で部下に暴行してしまったらどうする?

職場で部下に暴行を加えてしまったときの対処法について紹介します。

  1. (1)謝罪する

    行き過ぎた指導により暴行を加えてしまった場合、まずは相手に謝罪することがもっとも大切なことです。職場内で起きた事件の場合、被害者自身も事件を公にせず穏便に済ませたいと考えることが多く、謝罪を受け入れて被害届を出さないケースが多い傾向があります。

    ついカッとなって暴行を加えてしまったのであれば、冷静になって謝罪をすることで事件化するのを未然に防ぐことができる可能性は高いでしょう。ただし、常態化しているケースで事件化を未然に防ぐことは難しくなるかもしれません。

  2. (2)示談交渉

    「示談」とは、被害者と加害者が話し合うことで事件を解決しようとすることを指します。当然のことながら、示談には加害者の謝罪が必要不可欠となります。

    ただし、示談には法的な効力があります。警察が介入する前に示談が成立していれば、当事者間で事件が解決しているとして逮捕されない可能性が高まります。逮捕された後で示談が成立したとしても、被害者の処罰感情が薄くなったとされ、不起訴処分や略式裁判による罰金刑で済むことも多いでしょう。

    示談は、事件化などを防ぐ効果があるだけでなく、当事者間の賠償金トラブルを解決する手続きでもあります。示談を成立させることは、被害者から損害賠償請求をされるリスクから解放されるでしょう。

    もし示談をしなかったり、示談が不成立となったりした場合は、検察が起訴する際に考慮する「情状事情」をひとつ失うことになります。逮捕・起訴されるリスクが高くなり、さらに、今後、民事上の損害賠償を請求される可能性も残ります。

    できるだけ早期に、かつ適切に示談を成立させるためには弁護士にサポートを依頼することをおすすめします。

  3. (3)会社に陳情する

    部下への暴行は懲戒解雇事由に該当する可能性があります。しかしながら、懲戒解雇は暴行の動機や内容、他の従業員への影響などを総合的に勘案して判断されます。傷害罪より軽い罪状なので、解雇ではなく減給や降格で済む可能性もあるでしょう。

    ただし、会社によっては重大な企業秩序違反があったとして懲戒解雇される可能性も否定できません。その際は、法律に精通した弁護士を通じて会社に働きかけることで、解雇を回避できる可能性が高まります。

4、まとめ

今回は、暴行罪の概要や逮捕後の流れ、対処法などについて解説しました。

暴行罪における暴行の範囲は幅広く、思いもよらない行為であっても暴行罪で訴えられる可能性があります。特に、指導に熱が入り過ぎてしまい、部下に暴行を加えてしまったのであれば、まずは本人に誠意をもって謝罪をすることが何よりの第1歩です。

もし、相手があなたと会いたがらないなど、謝罪もできない状況であれば、できるだけ早期に弁護士に相談し、逮捕や懲戒解雇処分を回避するように働きかけることが大切です。

万が一、部下に暴行を伴う指導をしてしまった方は、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士にご相談ください。新潟オフィスの弁護士が、あなたの会社での立場と信用の回復をお手伝いします。

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