社員の二重就業(副業)が発覚! 処分できる? 許可する際の注意点は?

2022年01月27日
  • 一般企業法務
  • 二重就業
社員の二重就業(副業)が発覚! 処分できる? 許可する際の注意点は?

大手企業を中心に「副業解禁」が進んでいます。二重就業(副業)は労働者にとっても会社にとってもメリットがありますが、一定のリスクもあるため禁止している企業も少なくありません。

では社員が禁止している二重就業をしていた場合、会社は処分できるのでしょうか?また今後副業を希望する社員がでてきた場合に備えてどんな対策をすればいいのでしょうか?詳しく解説します。

1、二重就業(副業)とは?

二重就業(副業)はこれまで多くの企業で禁止されていました。ところが近年は政府の取り組みをきっかけに解禁する企業が増えてきました。

  1. (1)二重就業と副業は同じ

    「二重就業」とは、特定の企業と雇用契約を結びながら、ほかの企業でも雇用されたり自ら事業を起こしたりすることです
    「副業」「兼業」などさまざまな言い方がありますが、示す内容は基本的には同じです。

    雇用形態は正社員やアルバイト、パートのほか、雇用契約を結ばないフリーランスになったり自ら起業したりするケースもあります。

    たとえば企業で事務職員として働きながら、終業後に飲食店でアルバイトをするといった働き方です。

    二重就業を認めるかどうかは各企業の判断によります。

  2. (2)副業が注目される背景

    副業を希望する方や副業を解禁する企業が増えている背景には、少子高齢化に伴う人手不足などを理由に政府が進めている「働き方改革」があります

    働き方改革では「柔軟な働き方がしやすい環境整備」が推進されており、具体的な施策の一つが「副業・兼業の普及促進」です。

    平成30年には「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が作成されたほか、厚生労働省がつくる「モデル就業規則」において、それまで副業を禁じる文章例だったものが副業を認める例に変更されました。

    こういった動きを受けて企業は副業解禁に向けて動き出し、労働者も副業へと目を向けるようになりました。
    新型コロナウイルスの影響による雇用の流動化や収入減少も、結果的にこの流れを後押ししています。

2、二重就業のメリット・デメリット

二重就業(副業)は、労働者にとっても企業にとっても多くのメリットがあります。その一方、無視できないデメリットもあります。

  1. (1)【労働者側】副業のメリット・デメリット

    労働者にとって、副業には以下のようなメリット・デメリットがあります。

    【メリット】
    • 本業を辞めずにほかの仕事ができる
    • やりたい仕事に挑戦できる
    • 新たな知識、スキル、人脈の獲得につながる
    • 収入が増加する、複数の収入源をもてる
    • 起業や転職の準備ができる
    • 時間を有効に使える

    【デメリット】
    • 労働時間が長くなり、身体的・精神的に疲れる
    • 時間的余裕がなくなる
    • 疲労などから本業に支障がでるおそれがある
    • 副業禁止の会社の場合、バレると処分される可能性がある
    • 社会保険の手続きや確定申告が必要になることがある
  2. (2)【企業側】副業のメリット・デメリット

    労働者を雇う企業にとっても、社員の副業を認めることにはメリット・デメリットがあります。

    【メリット】
    • 優秀な人材の離職を防げる
    • 優秀な人材を副業として迎えられる
    • 社員のスキルアップにつながる
    • 副業で得た知識が本業に生かされる
    • 企業イメージのアップが期待できる

    【デメリット】
    • 副業をしている社員の労働生産性が下がる可能性がある
    • 情報漏えいのおそれがある
    • 競合他社で副業されると技術流出のリスクがある
    • 労働時間や健康管理に気を付けなければいけない
    • 副業の内容によっては会社の信用が低下する

3、「副業禁止」はできる? 就業規則の拘束力とは?

副業解禁の流れがあるとはいえ、できれば従業員に副業をさせたくないという企業も多いでしょう。では就業規則で副業を禁止することはできるのでしょうか?それにはどの程度の拘束力があるのでしょうか?

  1. (1)就業規則で副業について定めておこう

    労働時間などと違って副業に関しては法律で細かな定めがなく、副業の可否は企業がそれぞれ判断し、就業規則で定めます。

    ただ副業が大きな話題となったのは近年のことであり、まだ就業規則に定めていない企業も多いでしょう。規模が小さい企業はそもそも就業規則を作っていないかもしれません。

    ですがルールがなければ社員が勝手に副業をし、前章でデメリットとしてあげたような業務への支障や情報漏えいが現実になるおそれがあります

    したがって、会社側としては、労使で話し合って内容を決めて就業規則に定め、周知徹底しておきましょう。

    なお就業規則は法的拘束力を有していますが、労働基本法や労働契約法といった法律が優先されるため、法律に反した内容は無効です。

  2. (2)副業を禁止するケース

    本業でのパフォーマンス低下などの心配から、企業としては、従業員の副業を全面的に禁止したいと考えていたとしても、全面的に禁止するかどうかは慎重に判断する必要があります

    労働者には職業選択の自由があります。
    また、これまでの判例では、就業時間以外は労働者のプライベートな時間であり、その過ごし方について会社が口を出すことは原則できないとしています。

    一方で次のようなケースについては、副業を制限することは不当ではないとの判断が示されています。

    • 本業に支障をきたすおそれがある
    • 企業秘密などの漏えいのおそれがある
    • 企業の信用を損なうおそれがある
    • 競業で不利益を被るおそれがある


    このような判例から、副業を認めたうえで事前許可制にしたり、禁止するケースを具体的に定めたりするのがよいでしょう。

    副業を全面的に禁止したい、適切な内容がわからないといった場合は弁護士に相談しましょう。

  3. (3)「副業禁止」に違反した場合は処分できる?

    就業規則は法律ではないため「副業禁止」規定に違反したことで社員が罪に問われることはありません。
    ですが違反した場合は懲戒処分の対象になり得ます。

    ただし上記のように本業に影響がないケースで解雇など重い懲戒処分にすれば「処分は重すぎる」として、社員から訴えられる可能性があります

    仮に社内の「副業禁止」規定に社員が抵触するようなことをしたとしても、当該社員とよく話し合う、口頭での注意にとどめるなど、懲戒処分にすべきかどうかは慎重に判断しましょう。

4、二重就業を認めるときの注意点

二重就業(副業)を解禁する場合「就業時間外はご自由にどうぞ」というわけにはいきません。使用者として従業員の労働状況をきちんと把握するとともに、会社に悪影響がないように気をつけなければいけません。

  1. (1)会社にあった就業規則を作る

    労働者としては、副業によって収入を増やすことを目的としている場合、今ある知識やスキルを生かせる仕事であれば、新しく技術を習得する手間や時間がいらず、手っ取り早く稼げるでしょう。

    そこで本業と同業・同職種の副業を考える労働者は少なくありません。
    ですが競合他社で副業をするとなると、独自技術や社内情報の漏えいのリスクがでてきます自ら起業した場合も競業のおそれがあります

    こういったケースを防ぐために、副業を認める条件をきちんと就業規則に定めておく必要があります。

  2. (2)副業を認める就業規則のポイント

    就業規則で副業を定める際のポイントは、以下の通りです。

    • 認める副業の範囲や内容を示す(時間の制限、労務提供に影響のない範囲でのみ認める、競業避止など)
    • 会社への届出や事前許可の有無を定める
    • 副業状況の情報共有(上司への報告など)の仕組みを記す


    なお厚生労働省の「モデル就業規則」では次のような例が示されています。

    第68条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
    2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
    3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
    • (1)労務提供上の支障がある場合
    • (2)企業秘密が漏洩する場合
    • (3)会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
    • (4)競業により、企業の利益を害する場合
  3. (3)労働状況を適切に管理する

    本業での労働時間を維持しながら就業時間外で副業をするとなると、必然的に労働時間が長くなります。

    体や心を休める時間が短くなれば、本業の際に集中力が途切れたり効率が低下したりするおそれがあります。本業がタクシー運転手などの場合、事故につながるリスクもあります。

    また本業と副業両方で雇用されている場合、両方の労働時間を合わせると長時間労働になることもあります。

    労働契約法第5条では次のように使用者に安全配慮義務を課しています。
    「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」

    従業員が副業を始める前に労働時間や内容を確認するのはもちろん、日々健康や勤務状況に注意を払い、労働時間や健康の管理に努めましょう

5、まとめ

新型コロナウイルスの感染拡大で収入が減少した労働者は少なくありません。これから副業をする方はますます増えると予想されます。社員から「副業をしたい」という申し出があった際に、規定や社内体制が整備されていなければ、対応が後手にまわってしまいます。ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスでは、副業や就業規則の作成に関するサポートを行っております。副業規定がない、現在の規定に不安があるという企業はどうぞお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています