生命保険を活用した事業承継について、弁護士がわかりやすく解説

2021年09月15日
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生命保険を活用した事業承継について、弁護士がわかりやすく解説

企業の経営者の中には、相続に関連した後継者問題に悩まれる方も多いかもしれません。会社の事業承継がスムーズにできなければ、優良な企業であっても廃業を余儀なくされる可能性もあり得ます。優秀な後継者の確保はこれからの企業の重要な課題といえるでしょう。

事業承継にあたっては、後継者が会社の株式の全部または大部分を引き継ぐことになるため、事業承継の手段によっては、多額の資金が必要になることがあります。このような経済的負担が原因で円滑な事業承継が実現できないということもありますが、生命保険を活用することによって、経済的負担を軽減することができる場合があります。

今回は、生命保険を活用した事業承継について、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説します。

1、事業承継と保険の関係について

事業承継をする際の経済的負担を軽減する方法のひとつとして生命保険(法人)の活用が挙げられます。以下では、事業承継と生命保険の関係について説明します。

  1. (1)事業承継による経済的負担

    法人の事業承継としては、主に、現経営者が保有する株式を後継者である新経営者に引き継ぐ方法がとられます。株式を譲渡によって承継する場合には、後継者が株式取得の対価を支払わなければならないため、株式の価額によっては、高額な資金を準備しなければなりません

    また、贈与や相続によって事業承継を行う場合には、株式取得の対価は発生しませんが、贈与税や相続税といった税金を支払わなければなりません。事業承継に伴う税金も株式の価額によっては高額な課税がされる場合があります。

    このような事業承継に伴う経済的負担が事業承継を断念する理由のひとつに挙げられています。

  2. (2)保険の活用による事業承継対策とは

    上記のような経済的負担については、生命保険の活用によって負担の軽減を図ることが可能になります。

    経営者としては、生命保険の保険金受取人を会社や後継者に指定しておくことで、経営者が亡くなった後に、事業承継に必要となる資金を残すことが可能になります。これによって、会社や後継者は、経営者の株式を引き継ぐことや贈与税、相続税などの税金を支払うための資金を確保することが可能になるのです。

    また、生命保険を利用することによって、後述するような自社株式の評価を引き下げることができますので、株式を譲渡することになった場合の後継者の負担を軽減することにもつながります。

    このように、保険を活用することによって、円滑な事業承継を行うことができるようになります。

2、事業承継に生命保険を活用するメリット

事業承継に生命保険を利用することによるメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

  1. (1)納税資金の準備

    事業承継によって親族を後継者とするような場合には、生命保険を活用して後継者の納税資金を確保することが可能になります。

    相続が発生した場合に、相続税を支払う資金がないときには、不動産やその他の資産を売却して現金化したうえで、税金の支払いに充てられることになります。しかし、会社の事業継続に必要な資産を売却しなければならなくなった場合には、たとえ相続によって事業を承継したとしてもこれまでのような順調な経営は難しくなるかもしれません。

    そのため、後継者に対する納税資金を確保しておくということが、円滑な事業承継にとって重要となるのです。

  2. (2)遺産分割の備え

    相続によって、後継者である親族が経営者の資産の大分部を取得することになった場合には、他の相続人から遺留分を請求される可能性もあります。

    遺留分は、相続人の最低限度の取得割合です。したがって、被相続人が特定の相続人に対し、全財産を相続させるといった内容の遺言書を残していたとしても、他の相続人の遺留分は、特別な事情がない限り保障されます。
    遺留分の請求を受けた場合には、金銭によって支払いをしなければなりません。流動資産(1年以内に現金化できる資産)が不足している場合には、支払いが困難になることがあります。

    生命保険を利用し、その受取人を後継者とすれば、遺産分割による資金需要にも対処することが可能です。

  3. (3)自社株式の評価額の引き下げ

    生命保険の受取人には、配偶者または2親等内の血族を指定する必要があり、それ以外を後継者にするときには、生命保険金の受け取りによる資金対策を講じることはできません。

    しかし、生命保険の保険料については、会社の損金(法人税を計算するときに差し引かれる費用のこと)として算入して、利益を圧縮することが可能です。会社の利益を圧縮することができれば、株式の評価額を抑えることができ、結果として、株式譲渡をする際に後継者の経済的負担を軽減することが可能になります。

3、事業承継に活用できるその他保険について

事業承継に活用することができる保険には、定期の生命保険の他にも以下の種類があります。
事業承継の方法ごとに適切な保険を選択することによって、後継者の経済的負担を軽減する効果が期待できます。

  1. (1)終身保険

    「終身保険」とは、定期保険とは異なり、一定期間のみの保障ではなく、亡くなるまで保証が継続する保険のことをいいます。

    経営者の死亡によって、受取人は必ず保険金を受け取ることができますので、資金確保を目的としているときには有効な保険となります。そのため、後継者を終身保険の受取人に指定し、後継者は受け取った保険金を相続税の支払いに充てることが可能になります。

    また、受取人を会社に指定しておくことで、会社が相続人から自己株式を買い取るための資金に充てることもできます。

    もっとも、終身保険の保険料は全額が資産計上されることになりますので、会社の利益圧縮の手段としては利用することはできません

  2. (2)長期平準定期保険

    「長期平準定期保険」とは、通常の定期保険よりも保険期間が長く、低額な保険料の負担で、終身保険のような長期間の保証を得られる特徴がある保険です。

    長期平準定期保険の保険料については、企業の損金として計上し、会社の利益を圧縮することによる株価引き下げ効果も期待できます。
    また、長期平準定期保険は、解約返戻金のピークが20年から30年後に設定されていることが多いため、経営者の退職金の確保としても有効な手段となります。

  3. (3)逓増定期保険

    逓増定期保険とは、一定期間を超えると死亡保障金額が当初の5倍程度まで増加するタイプの定期保険のことをいいます。

    逓増定期保険は、保険料が高額なため、利益の圧縮の効果が非常に高い保険であるといえますが、それに伴い会社のキャッシュフローは悪化する可能性もあり、活用は慎重に検討する必要があります。

    5年から10年後に解約返戻金のピークが設定されていますので、近い将来に事業承継を予定しているようなケースでは、効果的な保険となります

4、事業承継で保険を活用する場合に注意すべきこと

事業承継で保険の活用を検討している場合には、以下のような点に注意が必要です。

  1. (1)将来のキャッシュフローを予測する

    活用しようとする保険の種類によっては、毎月の保険料が非常に高額になることがあります。

    将来のキャッシュフローを正確に予測することなく、保険に加入してしまうと、急な資金需要に対応することができず、場合によっては、せっかく加入した保険を解約しなければならない事態にもなります。

    解約返戻金のある保険では、ピーク前の解約の場合には、解約返戻金が相当低額に抑えられていることがあり、保険の活用がマイナス働くこともあり得ます。
    将来のキャッシュフローをある程度正確に予想しながら、保険料を設定しましょう

  2. (2)事業承継の時期を明確にする

    生命保険は、利益の圧縮とともに将来の退職金確保の手段として利用されることがあります。その場合には、各保険の解約返戻金のピークと退職時期のタイミングを合わせることが重要となります。

    解約返戻金の受け取り額によって益金として計上され、経営者の退職金の支払い時期と同年度に損金を計上しなければ、大幅な黒字となり、会社が多額の税金の支払いが発生するリスクがあります。

    そのため、長期平準定期保険や逓増定期保険の活用を検討している方は、事業承継計画を綿密に立てたうえで、事業承継(退職)の時期と解約返戻金の受け取り時期のタイミングを合わせるようにしましょう

5、まとめ

事業承継を円滑にすすめるにあたっては、後継者に対する経済的負担の軽減がポイントとなってきます。
そのためには、各種法人保険を利用することが有効な手段となります。保険によって期待できる効果が異なってきますので、適切な保険の選択が重要となります。
どのような事業承継の方法をとるかによって有効な保険も異なってきますので、まずは、事業承継の方法を決める必要があります。

そのためには、事業承継の対応豊富な専門家の関与が必要不可欠となります。
ベリーベスト法律事務所では、弁護士や税理士による法務・税務両面からのアドバイスを受けることが可能です。円滑な事業承継を検討している企業のご担当者の方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています