経営者が知っておくべき事業承継対策について弁護士が詳しく解説
- 事業承継・相続対策
- 事業承継
- 対策
現在の日本では、中小企業の数は、国内企業の90%を超えると言われていますが、そのほとんどはオーナー型企業であると言っても過言ではありません。
そのため、経営者が高齢化してきた場合に「誰に会社を引き継いでもらうか」という後継者問題が深刻な課題となってきています。後継者が不在であることや、事業承継に伴う複雑な手続きが面倒であることなどを理由に事業承継問題を先送りにしがちですが、事業承継対策については、早めに行うことが重要です。
今回は、経営者が知っておくべき事業承継対策について、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説します。
1、事業承継対策が必要な理由
事業承継とは、自らが経営する会社や事業を後継者に引き継ぐことをいいます。多くの企業では、事業承継は、まだ先の問題だとしてまだ十分な対策を講じていないことも多いでしょう。しかし、事前に事業承継対策をしていなかったことで、将来トラブルに巻き込まれることもありますので、事前の対策が重要となります。
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(1)相続トラブルの防止
経営者が死亡したときには、経営者の所有している資産を相続人が分配することになります。その際には、会社の株式や個人名義の事業用資産も相続の対象に含まれてきます。
相続によって、会社の株式や資産が分散してしまうと、事業の円滑な遂行が困難になるおそれがあり、場合によっては、取引先との信頼関係にも影響を及ぼすこともあります。
相続によって会社の資産が分散することや、相続争いが長期化することによる経営の不安定化を防止するためにも事前の事業承継対策が必要となります。 -
(2)事業を存続させるため
事業承継を適切に行うためには、事前の準備が重要となります。事業承継は、経営者を交代すればそれで終了というわけではなく、後継者を育成するために相当な期間を要することになります。また、経営者が交代した後も、事業を存続させるためには、旧経営者が有していたヒト、モノ、カネの三つの資源を後継者に引き継ぐ手続きも必要になってきます。
これらを適切に行うためには、事前に綿密な計画を立てて対策を行い、事業承継を行っていかなければなりません。突然、経営者が死亡したという場合には、事業承継がうまくいかずに、やむを得ず事業を廃止せざるを得なくなることもあります。そのような事態を回避するために事前の事業承継対策が行われています。 -
(3)税金対策のため
事業承継の際には、相続税や贈与税が課税されることになりますが、事業承継税制の適用により、納税の猶予または免除を受けることが可能になります。
事業承継税制の適用を受けられない場合には、多額の税金の支払いによって、会社の存続が危ぶまれることもありますので、事業承継税制の適用を受けることができるかどうかが事業存続にあたっては重要なポイントとなります。
事前に事業承継対策を行い、事業承継税制適用の要件を満たすように準備することで、税金対策を行うことが可能になります。
2、事業承継の対策を始める時期は?
事業承継対策を行う時期について、特に決まりはありませんが、対策を行うのは早ければ早いほどよいということは確かです。
事業承継をするためには、後継者の育成に非常に時間がかかりますので、早めに始めることが非常に有効です。経営者が今は元気であっても、いつ病気などで働けなくなるかがわかりません。突然、経営者が亡くなってしまった場合には、事業承継そのものができなくなってしまい廃業をしなければならないという事態に追い込まれてしまうこともあります。
3、事業承継の主な方法
事業承継の方法としては、主に以下の三つの方法があります。一般的には、親族内承継、親族外(従業員)承継、第三者承継の順で事業承継を検討し、いずれも難しいときには、廃業という選択をすることになります。
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(1)親族内承継
親族内承継とは、経営者の親族に対して事業を承継させる方法です。
親族内承継には、身近な存在である親族であれば段階的に経営者としての教育を与えやすいということ、債務保証についても金融機関から理解を得やすいということ、自社株式を後継者に移転することによって所有と経営の分離を防ぎ、後継者が経営に専念しやすい環境を整えることができるというメリットがあります。
他方、事業承継に際して、自社株式を後継者に贈与、遺贈または相続によって移転した場合に遺留分の問題が生じるおそれがあり、後継者以外の相続人への心情的な配慮をしなければならないというデメリットもあります。 -
(2)親族外(従業員)承継
親族外(従業員)承継とは、会社の内外から後継者を選定し、事業を承継する方法のことをいいます。
親族外(従業員)承継には、優秀な後継者を会社の内外から選定することができるというメリットがあります。特に、親族に適当な後継者がいないというケースでは、この方法がとられることが多いといえます。
他方、現経営者が個人で保証している債務の引き継ぎが困難になる場合があること、自社株式の承継が後継者の資金面から困難になる場合があること、現経営者の親族の理解を得るのに苦労するなどのデメリットもあります。 -
(3)第三者承継
第三者承継とは、M&Aによって第三者に会社の株式を売却することによって事業を承継する方法のことをいいます。
第三者承継によって、現経営者が自社株式を第三者へ売却する場合には、株式の売却代金を得ることができるというメリットがあります。
他方、売却先と条件面で双方が納得するのに時間がかかることがあり、M&Aの仲介業者への報酬の支払いが必要となることがデメリットといえます。
4、事業承継の流れ
どのような流れで事業承継を行うかについては、対象となる企業や選択する承継方法などによって異なってきますが、一般的な流れとしては、以下のようになります。
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(1)会社の現状を把握する
事業承継を考えるにあたっては、まずは、会社の現在の状況の把握を行わなければなりません。その際には、会社の経営状態や財務状態をできる限り正確に把握し、現在から将来への市場の動向の分析も必要となってきます。また、経営者や後継者についての資産、負債の整理も必要になります。
具体的には、以下のような項目について検討をおこなうことになります。- 関係者・株主構成の確認
- 従業員の人数、年齢の確認
- 貸借対照表、損益計算書の分析
- キャッシュフロー計算書の作成
- 借入金の返済状況、連帯保証、抵当権の確認
- 経営者の個人名義資産、負債の調査
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(2)後継者の選定
上記の会社の現状把握によって、事業を継続する方向で決まったときには、次はどのような方法で、誰に事業承継をするかを検討します。
事業承継については、既に説明したとおり、親族内承継、親族外(従業員)承継、第三者承継という三つの方法があります。それぞれメリットとデメリットがありますので、各企業の実情に応じて適切な方法を選択するようにしましょう。
後継者の選定は、事業の円滑な承継のために極めて重要な事項です。後継者の選定を誤れば、事業承継そのものが早々にとん挫したり、事業継続が困難な経営状況に陥ることもあります。そのため、事業承継を成功させるためには、後継者候補のリストアップを行った後、後継者の適性を見極めながら十分な時間をかけて慎重に行うことが重要となります。 -
(3)資産承継方法の決定
後継者が決まった場合には、事業資産をどのように承継するかを検討します。
資産承継の方法としては、売買、生前贈与、相続、株式譲渡、吸収合併などさまざまな方法があります。事業承継の方法に応じて、適切な資産承継方法も異なってきますので、専門家と相談しながら行っていくとよいでしょう。 -
(4)事業承継計画の作成と実行
事業承継方法が決まり、関係者の意思確認を終えたら、事業承継計画書の作成を行います。事業承継計画は、現経営者の退任する予定の時期を確認して、そこへ向けてのタイムスケジュールを作成し、長期的な計画を作成するとよいでしょう。
その後は、事業承継計画書に従って、事業承継を進めていくとともに、定期的に進捗状況を確認するようにしましょう。
5、事業承継は弁護士に相談すべき?
事業承継は、経営面だけでなく、税務・法務の面からも検討が必要なため、非常に専門的な手続きとなります。事業承継を検討している方は、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)適切な事業承継計画の立案が可能
事業承継をするにあたっては、どのような方法の事業承継をするか、どのような方法で資産を承継させるかなどを検討しなければなりません。
将来トラブルにならないようにするためにも、綿密な計画の立案が必要となりますが、経営者の方だけでは、税務・法務両面からメリットとデメリットを踏まえた最適な手段を選択することが難しいといえます。
専門家である弁護士が介入することによって、会社の資産や負債状況、後継者の育成状況なども踏まえて最適な事業承継計画を立案することが可能となります。 -
(2)相続対策も可能
親族内承継を選択するときには、経営者の相続時のトラブルを予想して、対策を講じておくことが必要になります。特に、特定の親族に経営権を集中させる場合には、他の相続人から不満が出ることもあり、遺留分を巡るトラブルに発展することもあります。
このようなトラブルが発生した場合には、事業承継がスムーズにいかず、円滑な事業運営に支障が出ることがあります。
あらかじめ予想できるトラブルについては、専門家である弁護士が法的に有効な対策を講じることで回避することが可能です。
6、まとめ
事業承継は、企業にとって今後重大な課題となってきますので、早期に着手しておくことが必要になります。そのためには、専門家の協力が必要不可欠となってきます。
ベリーベスト法律事務所では、弁護士だけでなく税理士も所属していますので、法務面だけでなく税務面からのアドバイスを行うことも可能です。企業のご担当者様などで、事業承継対策を検討している場合は、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています