【弁護士が解説】令和元年の意匠法改正のポイントは?
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新潟県内の平成26年から平成28年の3年間における意匠権の出願件数は、1年間あたり平均366件で、全国第11位となっています。
特許権が986件で全国第20位、実用新案権が99件で全国第12位、商標権が917件で全国第15位であることと比較すると、新潟県においては、意匠権の出願件数が比較的多いといえるでしょう。
令和元年に意匠法が改正され、意匠権による保護範囲が拡大されました。
これまで以上に意匠権が問題となる範囲が広がるため、企業担当者の方は、自社の行為が意匠権侵害に当たらないように、いっそうの注意が求められます。
この記事では、令和元年意匠法改正の内容について、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「新潟県における知財活動の概要」(特許庁))
1、意匠法とは?
まずは前提として、意匠法とはどのような法律であるかについて、基本的な点を理解しましょう。
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(1)「意匠(=デザイン)」を保護する法律
意匠法は、いわゆる「知的財産法」の一種です。
知的財産法とは、個人や法人が知的創造活動の結果として生み出した、無形的な資産を保護することを目的とする法律です。意匠法は、知的財産の中でも「意匠(=デザイン)」を保護する法律となります。
たとえば、- 車
- 楽器
- 家具
- 家電
- ペットボトル
などのデザインが、意匠法による保護対象です。
なお、上記の「モノ」そのものではなく、あくまでも「デザイン」という無形的なものが意匠法の保護対象となることに注意しましょう。 -
(2)登録された意匠には独占権が認められる
意匠法に基づき登録された意匠には、「意匠権」という権利が発生します(意匠法第20条第1項)。
デザインが意匠権の対象となった場合、意匠権者は、業としてそのデザインや、類似のデザインを利用(実施)する権利を専有します(同法第23条)。
つまり、意匠権者以外の人は、意匠権者に無断でデザインを利用することができなくなるのです。仮にデザインを利用したい場合には、意匠権者から専用実施権や通常実施権の設定を受ける必要があります。
このように、意匠権によって、意匠権者が登録意匠(デザイン)を用いて収益を上げる権利が保護されているといえます。
2、令和元年意匠法改正により、意匠権の保護対象が拡充
令和元年に、意匠法の内容を大きく変更する改正法が公布され、一部の規定を除き、令和2年4月1日より施行されました。
法改正以前は、物品、すなわち、有機物のうち市場で流通する動産と一体となったデザインでなければ意匠権の対象にはなりませんでした。
しかし、近年ではデザインの対象や役割が拡大し、従来の意匠法における定義に収まらないデザインについても、保護の必要性が訴えられていました。
そこで、令和元年意匠法改正によって、意匠権の保護対象に以下のものが新たに加えられました。
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(1)画像
まず、物品と一体となっていない「画像」そのものについても、意匠として登録ができるようになりました(意匠法第2条第1項)。
意匠法の保護対象となる「画像」は、「機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるもの」に限られます。
主として想定されているのは、道路や壁などに投影される画像や、ルート検索などを提供するアプリのようにサーバーに記録されユーザーが利用するたびにネットワークを通じて送信される画像などです。
ただし、壁紙等の装飾的な画像や映画又はゲーム等のコンテンツ画像は、今回の改正でも保護の対象とはなっていません。 -
(2)建築物
「建築物」の形状・模様・色彩などについても、新たに意匠法の保護対象となりました(意匠法第2条第1項)。
近年では、店舗やホテルなどを中心として、非常に個性的なデザインを持つ建築物が増加しています。
こうした建築物について意匠権の登録を認めることによって、 建築物の外観をアピールポイントとして、他の企業との差別化を図ることができるようになります。 -
(3)建物の「内装」のデザイン
さらに、店舗や事務所などの「内装」について、内装全体として統一的な美観を起こさせる場合には、全体をひとつの意匠として登録できるようになりました(意匠法第8条の2)。
これまでは、ひとつの物に対してひとつの意匠のみ登録できるという原則(一意匠一出願の原則)によって、内装を構成するそれぞれの物のデザインを個別に意匠登録するしかありませんでした。
しかし、今回の改正によって、内装全体をひとつの意匠として登録する選択肢が増えたことになります。
3、令和元年意匠法改正のその他のポイント
意匠権の保護対象の拡大以外にも、令和元年意匠法改正によって、さまざまなポイントについて法改正が行われました。
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(1)関連意匠制度の拡充
関連意匠制度とは、自己が出願し意匠に類似している意匠を、一定期間内に出願すれば登録することができる制度です。
法改正以前は、関連意匠の出願可能期間は、元となる意匠(本意匠)の出願から8か月程度に限定されていました。
しかし、近年では複数の製品群を一貫したコンセプトに基づいてデザインする手法が広まっており、関連意匠の保護期間を広げる要請が高まっていました。
そのため、令和元年意匠法改正によって、関連意匠の出願可能期間が「本意匠の意匠登録出願の日から10年以内」と大幅に延長されました(意匠法第10条第1項)。
さらに、関連意匠に類似する意匠についても、関連意匠として意匠登録が認められるようになりました(同条第4項)。
これにより、意匠A(本意匠=基礎意匠)に類似した意匠Bについて関連意匠としての登録を受けた後、さらに関連意匠Bに類似した意匠Cについても、意匠Aの出願から10年を経過する日前まで、関連意匠としての登録が受けられるようになります。 -
(2)意匠権の存続期間延長
意匠権の存続期間は、従来は設定登録の日から20年とされていました。
しかし、令和元年意匠法改正によって、意匠権の存続期間は「意匠登録出願の日から25年」に延長されました(意匠法第21条第1項)。
なお、関連意匠の意匠権の存続期間は、基礎意匠の意匠登録出願の日から25年、すわなち、基礎意匠の存続期間と同時に終了します(同条第2項)。 -
(3)その他の改正点
令和元年意匠法改正においては、その他にも以下の点でルールの変更が行われています。
- 創作非容易性の水準の明確化
- 組物の部分意匠の導入
- 間接侵害規定の拡充
- 損害賠償額算定方法の見直し
- 複数意匠一括出願の導入(2021年4月1日施行予定)
- 物品区分の扱いの見直し(2021年4月1日施行予定)
- 手続救済規定の拡充(2021年4月1日施行予定)
改正内容の詳細については、以下の特許庁のホームぺージも併せてご参照ください。
(参考:「令和元年意匠法改正特設サイト」(特許庁))
4、意匠権を侵害するとどうなる?
令和元年意匠法改正により、意匠権の保護範囲が拡大されたため、これまで以上に「意匠権の侵害」には敏感になる必要があります。
特にインターネット事業者などは、画像に関する意匠権侵害を犯さないように注意する必要があるでしょう。
意匠権を侵害した場合、以下のような事態が生じてしまいます。
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(1)犯罪として刑事罰が科される
意匠権者の許諾なく、意匠権を侵害した者は、「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金」が科され、またはこれらが併科されます(意匠法第69条)。
意匠権侵害は、窃盗や詐欺などに比肩する重大な犯罪であり、悪質なケースでは逮捕されてしまう可能性もあります。 -
(2)差止請求・損害賠償請求を受けてしまう
意匠権侵害を行った者に対しては、意匠権者から差止請求が行われる可能性があります(意匠法第37条第1項)。
すでに販売を開始していた商品などに差止めの対象となった意匠が使用されている場合、商品の回収などに発展してしまうので注意が必要です。
また、意匠権侵害は民法上の不法行為にも該当します(民法第709条)。
意匠権侵害に関して不法行為を主張する側にとっては、- 一定の行為について意匠権侵害とみなす規定(意匠法第38条)
- 損害の推定規定(同法第39条)
- 過失の推定規定(同法第40条)
によって、通常の不法行為よりも立証の点で有利になっています。
そのため、侵害を主張される側としては、反論のために十分な準備が求められます。 -
(3)弁護士に相談して対応するのがおすすめ
意匠権侵害によって刑事告訴や差止・損害賠償請求を受けてしまった場合、対応を間違えると、会社にとって重大な損害が生じてしまいます。
慎重な対応を期すためには、弁護士に相談することをおすすめいたします。
弁護士は、依頼者にとって法的に弱い点・言い分を主張しやすい点を適切に整理し、依頼者に発生する損害ができる限り小さくなるよう尽力します。
5、まとめ
令和元年意匠法改正では、意匠権による保護対象の拡大・関連意匠制度の拡充などを中心に、さまざまなルールの変更が行われました。
全体的にデザインを厚く保護する方向のルール変更になっているため、インターネット事業者なども含めて、デザインを取り扱う事業者の方は注意が必要です。
ベリーベスト法律事務所では、知的財産専門チームを備えており、意匠権侵害を主張された個人・企業の方を法的な観点から全面的にバックアップいたします。
意匠法に関連する問題にお悩みの方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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