「介護ビザ」とは? 介護施設で外国人を雇用する際の流れを解説
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介護が必要な高齢者が増加を続けているなかで、介護業界は慢性的な人手不足という問題に直面しています。そのため、労働の担い手として、海外から人材を受け入れる動きが活発化しています。
新潟県のホームページには、介護福祉士等の修学にかかる費用について、外国人留学生向けにも貸し付けを開始したことが掲載されています。県としても、外国人の労働力を積極的に迎え入れようという動きが感じられます。
介護施設で外国人労働者を採用するために知っておきたいのが、「介護ビザ」の存在です。
平成29年9月から制度が開始された介護ビザを活用すれば、介護施設で長期間の外国人雇用が可能になります。
ここでは、介護業界が置かれている現状を確認しながら、外国人労働者の在留資格や介護ビザについて、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説します。
1、介護業界の現状、深刻な人材不足
高齢者の数は年々増加し、これに伴って介護業界は慢性的な人手不足に陥っています。
人手が足りない業界は、今日の日本においては珍しくないので、さほど深刻な事態に感じられないかもしれません。
ところが、介護業界の人手不足は近い将来を見据えると、非常に深刻な状態なのです。
経済産業省が2018年に公開した報告書によると、介護職員の不足は今後さら加速すると見込まれています。令和7(2025)年には43万人、令和17(2035)年には79万人もの人材が不足する可能性があると試算されているのです。
このままでは、介護を必要とする人口が増大するにもかかわらず、介護業界は人材を確保できず、深刻な人手不足に陥ると考えられます。十分な介護サービスが提供できない時代が、すぐそこまで来ているのが現状です。
2、介護業界で外国人労働者が働くことができる4つの在留資格
介護業界の深刻な人手不足を解消するために注目されているのが、外国人の労働力です。
製造業、サービス業など、外国人が活躍する職種が増加するなかで、政府が中心となり介護業界でも外国人の労働力を積極的に活用することを考えています。
介護業界で外国人労働者が働くためには、介護従事者として認められる在留資格が必要です。介護現場に従事することができる在留資格は4つあります。ひとつずつ見ていきましょう。
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(1)介護
平成29年9月に入国管理法が改正されたことで新設された在留資格です。
通称「介護ビザ」と呼ばれるもので、他の在留資格と比べると制限や条件面において柔軟であるため、外国人労働者・介護事業者の双方にとってメリットが多いものだといえます。
詳細は後述します。 -
(2)EPA(経済連携協定)
平成20年に導入された在留資格で、相手国との経済上の連携強化を目的に公的な特例として在留を認められた資格です。
公益社団法人国際厚生事業団が唯一の受け入れ調整機関であり、人材と事業所等とのマッチングを行います。規定の資格を取得するなどの要件を満たせば、永続的な就労が可能です。ただし、一部の業務制限がある、対象国がインドネシア・フィリピン・ベトナムの3か国に限られる、資格が取得できなければ帰国しなければいけないといったデメリットがあります。 -
(3)技能実習
平成5年に創設された在留資格です。日本において技能を学び諸外国へと持ち帰る実習生のために認められた資格で、中国・インドネシア・フィリピン・ベトナム・タイなど15か国が対象となります。
平成29年11月に施行された「外国人の技能実習の適正な実施および技能実習生の保護に関する法律」にあわせて、介護職種も対象になりました。
就労期間は最長で5年です。訪問系サービスでは勤務できないといった制限があります。 -
(4)特定技能
平成31年4月から始まった在留資格です。
介護をはじめとした14の業種が対象で、通算して5年の在留が可能となります。
技能実習と似た点がありますが「技能習得を通じた国際協力」を目的としているのではなく、特定技能では「労働力の確保」が目的となっています。
実習生としてではなく純然とした労働力としての資格であるため、幅広い業務に従事することが可能です。
3、介護ビザの概要、メリットとデメリットについて
「介護ビザ」とは、どのような在留資格なのでしょうか。
介護ビザの概要や、外国人労働者を雇用するうえでのメリット・デメリットを解説します。
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(1)介護ビザ=在留資格「介護」とは?
一般的に「介護ビザ」と呼ばれるものは、正しくは外国人の在留資格のうち「介護」として認められているものです。
そもそも「ビザ」と「在留資格」は別のものです。しかし、一般的に「ビザ=在留資格」と呼称されているため、在留資格「介護」は「介護ビザ」とも呼ばれています。
介護ビザは、専門的な技術・知識などを活用し、日本の企業や事業所に就職するための在留資格であるため、業務内容に制限がありません。
さらに、介護福祉士資格を取得していることが必須条件のため、即戦力となることが期待できます。本人が望む限り繰り返し在留期間を更新することができ、永続的に働くことも可能です。 -
(2)介護ビザで外国人労働者を就労させるメリット・デメリット
介護ビザの場合、対象国の制限がないため国籍に関係なく雇用が可能です。
また、EPAや技能実習は業務制限がありますが、介護ビザは制限がありません。そのため、訪問系サービスの事業所でも人材が確保できます。さらに、ビザの更新によって長期的な雇用が実現するという点も大きなメリットとなるでしょう。
デメリットとしては、EPAや技能実習のように外国人労働者をあっせん・紹介してくれる団体が存在しません。そのため、介護事業者は独自に人材を確保する必要があります。
4、介護ビザの取得要件
介護ビザを取得するには、どのような要件をクリアする必要があるのでしょうか?
介護ビザの取得要件を解説します。
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(1)介護福祉士の資格を取得すること
介護ビザが認められるには、国家資格である「介護福祉士」資格が必須です。
都道府県知事が指定する専門学校など、日本国内の介護福祉士養成施設を卒業して介護福祉士の資格を取得する必要があります。 -
(2)介護福祉士としての業務に従事すること
介護ビザは、介護事業者との契約に基づいて実際に介護事業に従事している場合、または介護の指導に従事している場合に認められます。
介護ビザで介護業務以外に従事していた場合は、不法就労となるおそれがあります。働いている本人だけでなく、事業所が処罰される可能性があるので注意しましょう。 -
(3)日本人が従事する場合と同等の報酬を受けること
日本国内の企業や事業所が外国人を雇用する場合は、「日本人と同等額以上の報酬」を受けることが条件となっています。
外国人であることを理由に低賃金で労働させる差別行為を抑え、単純労働者の入国を排除する目的があります。
5、介護施設で外国人労働者を採用する場合の手順
介護施設で外国人労働者を採用する場合は、どのような流れになるのでしょうか。介護ビザが認定される一般的なモデルとしては、次のような流れが考えられます。
【在留資格「留学」の期間】
- 外国人留学生として日本に入国する
- 専門学校などの養成施設で2年以上修学する
- 介護福祉士の資格を取得する
【在留資格「介護」の期間】
- 在留資格を「留学」から「介護」に変更する
- 介護福祉士として業務に従事する
介護ビザ認定までの流れを考えると、介護施設で外国人労働者を採用する場合には、次の2つのパターンが想定されます。
- 介護福祉士の資格取得を予定している留学生を募集する
- すでに介護ビザを取得している外国人労働者を採用する
介護福祉士の資格を取得した留学生を介護施設で採用する場合には、在留資格を「介護」に変更しなくてはなりません。この場合、改めて入国管理局の審査を通過する必要があり、雇用主側は採用予定の外国人留学生をサポートすることが求められます。
すでに介護ビザを習得しているケースでは、在留期間等に問題がないかを確認しておくことが大切です。また、業務が在留資格の活動に該当するかを確認するために、入国管理局で「就労資格証明書」を取得してもらうと安心です。
在留資格の変更には、条件を証明する証拠が必要となるほか、入国管理局へと出向く機会もあります。書類の不備等で、不許可になるケースも少なくありません。雇用の手続きや在留資格の変更、更新に関しては弁護士に一任するのが得策です。
6、まとめ
人手不足が深刻化する介護業界では、今後、外国人の労働力は必須になると考えられます。介護施設で長期的に外国人労働者を雇用したい場合は、業務や就労期間の規制が柔軟な介護ビザを取得している人材を探す、または介護ビザが取得できるようにサポートするのが良いでしょう。
ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスでは、外国人労働者が介護施設で勤務できるようにビザ申請をサポートしています。
採用予定の留学生の在留資格変更、すでに雇用している外国人労働者のビザ延長申請など、煩わしい手続きはすべてお任せください。もし変更申請等が不許可になってしまった場合でも、不許可理由の確認や再申請に向けた対策などをアドバイスします。
介護施設で外国人労働者の雇用を検討している場合は、お気軽にベリーベスト法律事務所新潟オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています