銀行融資で社長の個人保証を外すには? 民法改正のポイントも解説
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財務局の作成資料によると、2019年7月から9月における新潟県内の企業倒産件数は20件で、前年同期比81.8%増となっています。
最近は新型コロナウイルスの影響もあり、企業倒産の件数は今後ますます増えていく可能性もあります。
企業が金融機関から運転資金などを借り入れる際には、代表者である社長の個人保証を求められる場合が多いでしょう。
この場合、もし企業が倒産するなどして債務を支払えなくなると、社長個人で会社の債務を支払わなければなりません。
そうなってしまうと、社長も会社とともに連鎖倒産に追い込まれてしまうことがほとんどです。
社長個人の倒産リスクを回避するため、何とか金融機関に個人保証なしの融資をしてもらうことはできないのでしょうか。
この記事では、個人保証なしで金融機関から融資を受けるためのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説します。
民法改正や経営者保証ガイドラインの内容にも触れますので、参考にしてください。
1、会社が融資を受ける際に要求される「個人保証」とは?
会社が融資を受ける際には、金融機関から社長の個人保証を要求されることが多い実情があります。
そもそも「個人保証」とは何かということについて、個人保証が要求される理由とともに解説します。
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(1)社長が会社の債務を連帯保証する
「個人保証」とは、一般的には社長などの個人が、会社の債務を連帯保証することをいいます。
連帯保証人は、主たる債務者が債務を履行できなくなった場合に、債権者に対して代わりに債務の全額を支払わなければならない義務を負っています。
つまり、社長が会社の債務を個人保証した場合、会社の債務不履行に陥った際に社長が個人で会社の債務を全額支払わなければならないということです。 -
(2)社長の個人保証を要求する理由は?
金融機関が社長に対して個人保証を要求する理由は、大きく二つあります。
①責任財産を拡張する
責任財産とは、債権者が債権の弁済を受けるための原資となる財産をいいます。
社長を連帯保証人とすることにより、債権者である金融機関は、会社だけでなく社長が所有する財産からも弁済を受けることが可能になります。
これを「責任財産の拡張」といいます。
金融機関が社長に対して個人保証を要求する直接的な理由は、この責任財産の拡張にあります。
②社長に会社経営に対して責任を持ってもらう
会社にお金を貸している金融機関としては、会社の経営が傾くと借金を返してもらえなくなるので困ってしまいます。
会社の経営に対してもっとも大きな責任を持っているのは社長です。
そのため金融機関としては、社長には会社の経営が傾かないようにしっかり経営してほしいと考えるでしょう。
もし会社が倒産した場合は社長個人も破産してしまうということになれば、社長としても会社の経営がうまくいくように必死で努力するに違いありません。
このように、社長に会社経営に対して責任を持ってもらいたいということも、金融機関が社長に対して個人保証を要求する理由のひとつといえます。
2、中小企業経営者が知っておきたい「経営者保証ガイドライン」
金融機関が会社に対して融資をする際、社長の個人保証を要求するかどうかについては、基本的に「経営者保証に関するガイドライン」(経営者保証ガイドライン)を基準としています。
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(1)経営者保証ガイドラインの目的とは?
金融機関としては、社長の個人保証を取った方が、会社に対してお金を貸しやすくなります。
しかし会社の経営者(社長)にとっては、- 会社の経営が傾くことを恐れて思い切った経営ができない
- 会社の経営が傾いた場合、社長も連鎖倒産してしまうため、早期の事業再生が難しい
などのデメリットがあることも事実です。
このような問題を解決するため、金融庁・中小企業庁・日本商工会議所・一般社団法人全国銀行協会(全銀協)が連携して、社長の個人保証を必要としない融資を行うための基準として、経営者保証ガイドラインが策定されました。 -
(2)一定の条件を満たせば社長の個人保証を外すことが可能
経営者保証ガイドラインに従えば、以下の条件をすべて満たす場合には、社長の個人保証なしでの融資を受けることができます。
- ①保証契約の主たる債務者が中小企業であること
- ②保証人が個人であり、主たる債務者である中小企業の経営者であること
- ③主たる債務者および保証人の双方が弁済について誠実であり、債権者の請求に応じ、それぞれの財産状況や負債の状況を適時適切に開示していること
- ④主たる債務者および保証人が反社会勢力でなく、そのおそれもないこと
なお、上記の基準は新規融資を受ける場合だけでなく、既存の融資について社長の個人保証を外すように交渉する際にも適用することができます。 -
(3)ガイドラインに法的拘束力はないが、事実上のルールとして機能
経営者保証ガイドラインは、法令とは異なる自主ルールという位置づけのため、金融機関に対する法的拘束力はありません。
しかし、金融機関を監督する金融庁や、銀行が加盟している全銀協などの連携で策定されたものであることから、すべての金融機関について経営者保証ガイドラインを順守することが強く期待されています。
そのため、経営者保証ガイドラインは法的拘束力がないにもかかわらず、金融機関の間では事実上のルールとして機能しています。
3、2020年施行の改正民法における個人保証に関する重要改正とは
2020年4月1日に改正民法が施行され、個人保証に関するルールが大きく改正されました。
新しいルールは、2020年4月1日以降に締結・更新される保証契約について適用されます。
社長が会社の債務を引き続き個人保証せざるを得ない場合でも、保証契約の内容が新しいルールに沿っているか、また債権者や主たる債務者が新しいルールを守っているかを確認しましょう。
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(1)すべての個人根保証契約に極度額の設定が必要に
新しいルールでは、個人が保証人とするすべての根保証契約について、極度額の定めが必要とされています(民法第465条の2第2項)。
極度額の定めがない個人根保証契約は無効となりますので、自分が保証人になっている根保証契約がある場合には、極度額が定められているかどうか確認しましょう。 -
(2)事業用融資における第三者保証についての特則(経営者保証は対象外)
新しいルールでは、会社が事業のために借金をする際、第三者(個人)に保証人になってもらう場合には、その第三者に公正証書で保証債務を履行する意思を表示してもらうことが必要です(民法第465条の6第1項)。
ただし、株式会社の取締役などの会社経営者が保証人となる場合には、このルールは適用されません(民法第465条の9)。 -
(3)主たる債務者から保証人への情報提供義務
新しいルールでは、保証契約を締結する時に、主たる債務者が保証人に対して以下の情報を提供する義務を負います(民法第465条の10第1項)。
- ①財産および収支の状況
- ②主たる債務以外に負担している債務の有無ならびにその額および履行状況
- ③主たる債務の担保として他に提供し、または提供しようとするものがあるときは、その旨およびその内容
もし主たる債務者が上記の情報提供義務を怠った場合、以下の条件を満たせば、保証人が保証契約を取り消すことができます(同条第2項)。- ①情報提供義務違反を原因として、保証人が上記事実について誤認をしたことにより保証契約を締結したこと
- ②債権者が情報提供義務違反の事実を知りまたは知ることができたこと
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(4)債権者から保証人への情報提供義務
新しいルールでは、保証人は債権者に対して、主たる債務の履行状況についての情報を提供するよう請求することができます(民法第458条の2)。
また、主たる債務者が期限の利益を喪失した場合には、債権者は保証人に対して、そのことを知った時から2か月以内に通知をしなければなりません(民法第458条の3)。
4、社長の個人保証を外すためのポイント
会社の債務について社長の個人保証を外すために、注意すべきポイントについて解説します。
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(1)経営者保証ガイドラインに沿って財務体制を強化する
金融機関が社長の個人保証を外す交渉に応じてくれるかどうかは、会社や保証人が、経営者保証ガイドラインに規定に沿った信用性を兼ね備えているかどうかによって決まります。
経営者保証ガイドラインでは、主たる債務者である会社および保証人に対して以下の対応を求めていますので、これらを満たすように努めましょう。
①法人と経営者との関係の明確な区分・分離
簡単にいうと、「会社と社長の資産を混ぜずに分けて管理する」ということが重要です。
必要に応じて公認会計士や税理士などの外部専門家に検証を依頼することが望ましいとされています。
②財務基盤の強化
財務状況や経営成績の改善を通じた返済能力の向上に努める必要があります。
③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
債権者からの要請があった場合に、会社の財務状況を速やかかつ適切に開示することが重要です。
そのためには、日頃から会社の財務状況をしっかり把握しておく必要があります。
また、債権者に対する説明を行った後で状況が変化した場合には、債務者である会社側から自発的に報告を行うことが求められます。 -
(2)弁護士とともに金融機関と粘り強く交渉する
経営者保証ガイドラインの基準はあるにせよ、結局社長の個人保証を外せるかどうかは、金融機関がそれに同意してくれるかどうかにかかっています。
そのため、上記の債務者・保証人側の対応を十分に行った上で、弁護士を伴って金融機関と粘り強く交渉をしましょう。
法的観点や経営者保証ガイドラインの観点を踏まえて、丁寧に会社の状況を説明すれば、金融機関が交渉に応じてくれる可能性が上がるでしょう。
5、事業承継や相続に向けて個人保証を外す努力が求められる
事業承継や相続が発生する際にも、社長の個人保証が残っていることはそれぞれ問題になり得ます。
事業承継の場合、社長の個人保証債務は、後継者に自動的に引き継がれるわけではありません。
しかし、会社が個人保証を外せるほどの信頼を金融機関から得られていない場合には、後継者に対しても会社の債務を個人保証することを求められるでしょう。
そのことに抵抗感を感じてしまい、後継者がなかなか見つからないということも考えられます。
そのため、できるだけ現社長の任期の間に個人保証を外しておく必要性が高いといえます。
また、相続の場面でも、社長の個人保証債務は相続人に承継されてしまいます(根保証の場合は、極度額の定めがある場合に限ります)。
相続人の負担を軽減するためにも、個人保証は社長の生前に外しておきたいところでしょう。
このように、事業承継や相続の場面でも、社長の個人保証が残っていることはデメリットとして働いてしまいます。
「4、社長の個人保証を外すためのポイント」で解説したポイントを踏まえて、個人保証を外すことができるように努めましょう。
6、まとめ
会社が金融機関からお金を借りる際の慣行として、社長の個人保証を取ることは実務上広く行われています。
しかし、経営者保証ガイドラインを踏まえて会社の財務体制を改善すれば、個人保証を外せる可能性があります。
社長の個人保証を外したいとお考えの方は、ぜひベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士にご相談ください。
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