歩合制に最低賃金の保証はある? 残業代の計算方法と併せて解説
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新潟県の調査によると、2019年中の新潟県内の5人以上の事業所における平均月間現金給与総額は27万5943円で、前年比5.6%の減少となりました。
労働者の給与について歩合制が採用されている場合にも、雇用契約である以上は、労働基準法や最低賃金法が適用されます。
歩合給の名の下に、法律上必要な水準よりも低い給与しか支払われていないケースもしばしば見受けられるので、ご自身の給与水準に問題がないか、この機会にチェックしておきましょう。
本記事では、歩合制の場合の最低賃金や残業代の適用に関して、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「毎月勤労統計調査地方調査結果(令和元年平均)」(新潟県))
1、歩合給についての法律上の取り扱い
従業員の能力に応じた待遇を与えるという観点からは、歩合給には一定のメリットがあります。しかし、歩合給が徹底的に実施されてしまうと、一部の労働者は生活に必要な賃金すら得られなくなってしまうおそれがあります。
そのため、労働基準法や最低賃金法において、歩合給には法律上一定の制限が設けられています。
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(1)完全歩合制は労働基準法上認められない
使用者との間の指揮命令関係を前提に雇用関係に入った労働者には、労働基準法が適用されます。
労働基準法第27条によれば、歩合給などの出来高払い制で働く労働者に対しては、使用者は労働時間に応じて一定額の賃金を保障しなければならないとされています。
つまり、「歩合給の割合を100%」とする完全歩合制は法律上認められず、歩合給を採用する場合は、基本給との併用制としなければならないということです。
なお、保障給の最低ラインは、労働時間に応じて、平均賃金の6割程度と解されています。 -
(2)歩合制でも最低賃金の適用がある
さらに、歩合制で働く人であっても、労働基準法上の労働者である以上は、最低賃金法も同時に適用されます。
最低賃金法では、都道府県ごとに1時間当たりの最低賃金が定められています。
歩合制で働く労働者が受け取る固定給と歩合給の合計額を、総労働時間で割った金額が最低賃金を下回る場合は、差額分の賃金が未払い扱いとなってしまいますので注意が必要です。なお、令和2年10月1日から、新潟県の最低賃金は831円となっております。 -
(3)歩合制が採用される傾向のある業界例
歩合給が採用されることが多い業界は、労働者が職務上挙げた成果が会社の業績に直結しやすい業界です。
たとえば不動産・証券・保険などの営業職や、タクシードライバーなどがその典型例といえるでしょう。
2、歩合制でも残業代は発生する?
歩合制が採用されている場合、歩合給は労働者が挙げた成果に応じて決定されるのが通常です。
これに対して、単に長い時間働いたというだけでは、成果が上がっていない限り歩合給に反映されることは少ないでしょう。
しかし、歩合給の考え方とは別に、歩合制で働く労働者についても、労働基準法上の「時間外労働」に関するルールは適用され、残業代が発生することに注意が必要です。
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(1)雇用契約である以上は残業代が発生する
使用者と指揮命令関係にある労働基準法上の労働者は、管理監督者に該当するなどの例外要件を満たさない限り、時間外労働に関するルールが適用されます。
この点は、固定給制であっても歩合制であっても変わりません。
具体的には、法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)を超える労働をした労働者に対しては、使用者は通常の賃金に対して25%以上の割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法第37条第1項本文)。 -
(2)歩合給と残業代は区別できなければならない
使用者は労働者に対して、業績に応じて支払われる歩合給と、時間外労働の対価である残業代を、必ず区別して支払う必要があります。
仮に使用者が、「歩合給の中に残業代が含まれている」と主張しても、歩合給のうちのどの部分が残業代であるのかについて明確に区別可能であり、かつその金額について法的に合理的な説明がつかない限りは、残業代がきちんと支払われたことにはなりません。
最近の最高裁判例では、タクシー会社がドライバーに対して支払う賃金について、残業代相当額を歩合給から控除するというルールを定めていた事例において、「通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することはできない」ことを理由に、残業代の未払いを認定しました(最高裁令和2年3月30日判決)。
3、歩合制における残業代の計算方法
歩合制においては、基本給部分と歩合給部分でそれぞれ1時間当たりの基礎賃金(時給)を算定した後、その合計額に残業時間数と割増率をかけて、残業代の総額を計算します。
以下の設例を用いて、具体的に歩合給の残業代がどのように計算されるかを見ていきましょう。
- 1週間の所定労働時間=40時間
- 1週間の基本給=10万円
- 1週間の歩合給=2万円
- 実際の1週間の労働時間=50時間
- 時間外労働の割増率は25%
この1週間について発生した残業代の総額を求めよ。
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(1)基本給部分の時間単価を計算する
基本給は、就業規則などで定められる所定労働時間分の労働への対価という意味合いを持っています。
したがって、基本給部分の1時間当たりの基礎賃金については、基本給の金額を所定労働時間で割ることにより求められます。基本給部分の1時間当たりの基礎賃金
=10万円÷40時間
=2500円 -
(2)歩合給部分の時間単価を計算する
これに対して歩合給は、労働者が働いた時間全体を通して、労働者が挙げた成果への報酬という意味合いを持ちます。
そのため、歩合給部分の1時間当たりの基礎賃金は、歩合給の金額を総労働時間で割ることにより求められます。歩合給部分の1時間当たりの基礎賃金
=2万円÷50時間
=400円 -
(3)時間単価の合計×残業時間数×割増率
上記より、1時間当たりの基礎賃金を基本給部分と歩合給部分で合計すると、2900円となります。
この金額に対して、1週間の残業時間数と割増率をかけると、この1週間の残業代の金額を求めることができます。
この1週間の残業時間数は10時間ですので、最終的な計算結果は以下のとおりです。1週間の残業代
=2900円×10時間×1.25
=3万6250円
4、歩合制の労働者が未払い賃金を請求する方法
歩合制の会社では、残業代の計算が正しく行われていなかったり、歩合給に残業代が不当に含められていたりして、未払いの残業代が発生しているケースも多くみられます。
その場合には、以下の方法により、会社に対して未払残業代を請求しましょう。
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(1)会社と交渉する
会社に対して、労働基準法上の根拠を示して未払残業代が発生していることを主張すれば、会社が任意に支払いに応じてくれる場合があります。
法的手続きをとる場合よりも早期かつ円満に問題を解決できますので、可能であれば交渉をまとめたいところです。
とはいえ、労働者の方が自分で会社と交渉をした場合、会社が労働者側の言い分を十分に聞いてくれなかったり、法的な主張を整理された形で組み立てることがうまくいかなかったりするおそれがあります。
そのため、会社に交渉を持ち掛ける際には、事前に弁護士にご相談することをおすすめいたします。 -
(2)労働審判を申し立てる
会社との交渉がまとまらない場合には、裁判所に労働審判を申し立てることが次の選択肢となります。
労働審判は、訴訟よりも迅速に労務紛争を解決するための手続きです。
労働審判では、原則として3回までの審理を経て、裁判所が「審判」という形で解決案を提示します。
また、労働審判の過程で当事者同士が妥協し、調停が成立するケースもあります。
労働審判の手続きを利用すると、裁判官や労働審判員が客観的な視点から問題解決を導いてくれるメリットがあります。
ただし、裁判官や労働審判員に法的な主張を正しく伝える必要がありますので、弁護士のサポートを受ける方がより安心です。 -
(3)訴訟で争う
労働審判に対して不服が申し立てられた場合や、労使の言い分があまりにも乖離(かいり)している場合には、訴訟で徹底的に争うほかありません。
訴訟では、未払残業代の存在を基礎づける労働時間等について、労働者側が証拠を用いて立証する必要があります。
その場合、証拠の収集や残業代の計算などについて、法的な観点から適切に行う必要がありますので、弁護士のサポートが役立ちます。
ベリーベスト法律事務所では、法律にのっとった給与計算を行ったうえで、交渉・労働審判・訴訟などのあらゆる方策の中から、依頼者の状況に合わせて適切な手段を選択してサポートいたします。
5、まとめ
労働基準法上、歩合制であっても一定の基本給を保障する必要があり、最低賃金も適用されます。
また、歩合制で働く労働者の方についても残業代は発生します。
歩合制に関する上記の法律上のルールは、多くの会社において見過ごされており、その結果未払残業代が発生しているケースが多く存在します。
歩合制で働く労働者の方は、未払残業代が発生していないかどうか確認をするためにも、一度ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています