固定給は残業代が支払われないって本当? 請求できるケースや方法とは
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新潟労働局が公表する「長時間労働が疑われる事業場に関する監督指導結果」によると、平成30年度は県内の410事業場に対する監督指導が行われています。そのうち330事業場では労働基準関係法令違反があり、違法な時間外労働や残業代の不払いがあったとされています。
残業代不払いについてはさまざまなケースがありますが、なかには「固定給だから残業代は出ない」などと会社からいわれ長時間働かされているというケースもあります。
本コラムでは、「固定給は残業代が出ないのか」という疑問にお答えし、請求可能なケースや請求手順についてもベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説します。
1、そもそも固定給とは?
まずは、固定給とは何かを、しっかりと理解しておきましょう。
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(1)固定給とは
固定給とは、月給・週給・時間給・年俸といった一定の期間や時間単位で、決まった金額を給与として支払う制度をいいます。
固定給の労働者側のメリットは、月々決まった金額を給与としてもらえる点にあります。
しかし、固定給の内訳を正確に理解している労働者はそう多くないので、残業代の不払いに気がつかずに長時間の残業に従事しているケースも見受けられます。 -
(2)基本給と固定給の違い
固定給の内訳を理解するために、基本給と固定給の違いを押さえておきましょう。
基本給とは、職種や勤続年数、年齢などさまざまな面を総合的に考慮して決定される、賃金の基本となる給与の額をいいます。
基本給の場合に支払われるのは、基本給に家族手当や通勤手当などの各種手当を加算した金額になります。その他、基本給を基礎として、賞与や退職金が算定されます。
一方、固定給は各種手当も含む固定の金額が、給与として支払われます。
たとえば、「月給35万円」と「基本給30万円」の場合、一見すると月給35万円の方が支給額は多いように感じるかもしれません。しかし、基本給に各種手当が5万円を超える場合は、「基本給30万円」の方が支給される給与は多いということになります。
2、固定給は残業代が出ないのか?
では本題である「固定給は残業代が出ないのか」という疑問にお答えしていきます。
結論からいえば、「固定給でも残業代は支給される」といえます。
原則として、固定給であっても実際の労働時間が法定労働時間を超えたときなどには、残業代を支払わなければなりません。
例外は、会社が「固定給に1か月○時間分の残業手当を含む」旨の賃金規定を設けているような場合です。
残業代に関しては、一定時間分の残業手当を固定給に含むことが認められています。このように、一定の時間外労働を見越して固定給に含む残業代を、固定残業代といいます。
ただし、賃金規定で定められた固定残業代に相当する残業時間を超えて労働をした場合には、超えた時間分の残業代請求が可能です。
固定残業代として支給されている場合、「残業代も含んだ給与を支払っているのだから残業すべきだ」などと主張し制度を悪用する会社も存在し、裁判に発展するケースもあります。
固定残業代が支払われている場合も、手当の支払われない長時間労働が認められるものではありません。
3、固定給で残業代を請求できるケース・請求できないケース
続いて、固定給の場合に残業代を請求できるケースと、残業代を請求できないケースをみていきましょう。
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(1)固定給で残業代を請求できるケース
固定給であっても「固定残業代相当の残業時間を超えて残業した場合」や「固定残業代の規定が無効な場合」には残業代を請求できます。
たとえば、下記のようなケースで考えてみましょう。
●賃金規定
固定給月40万円:残業手当5万円分(月40時間)を含む
●労働状況
残業が45時間
この場合、固定給に含まれる残業時間40時間を超える5時間分の残業代を請求できます。
なお、固定給含まれている一定の残業時間より、実際に残業した時間が少ないときでも、固定給の減額や別の期間の残業と相殺することは労働基準法の原則に反するので許されていません。
たとえば前述のケースにおいて、残業が30時間だったとしても、固定給である40万円を給与として受け取ることができます。
また、次のようなケースでは、固定残業代の規定そのものが無効と判断されることもあります。- 固定残業代が最低賃金を下回る賃金をもとに計算されていた
- 固定残業代の金額と、何時間相当の残業分なのかが書面に明確に記されていない など
このようなケースでは、さかのぼって残業代を請求できる可能性があるので弁護士に相談してみると良いでしょう。
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(2)固定給で残業代を請求できないケース
固定給であっても、「管理監督者」および「裁量労働適用者」は残業代を請求できません。
「管理監督者」とは、経営者と一体となり仕事をする必要があるため、労働時間などの規制の適用が除外されることが労働基準法で規定されています。そのため管理監督者に当たる場合には、原則として残業代を請求することはできません。
管理職とは、以下のような事情を考慮して判断されます。- 出退勤が自由
- 職務の権限・責任がある
- 一般社員よりも給与が優遇されている
実際には、条件に当てはまらない「名ばかり管理職」のケースも少なくありません。そういった場合は残業代の請求が可能です。
「裁量労働適用者」は、実際の労働時間に関係なく、みなし労働時間に対応した固定給が設定されていれば良いとされるので、原則として残業代を請求することはできません。
ただし、裁量労働制が認められている職種は限定されており、会社が導入するためには所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。
また、裁量労働制であっても、休日や深夜に働いた分は、割増賃金を請求することが可能です。
労働形態に疑問を感じた場合は、弁護士へ相談することをおすすめします。
4、残業代請求の手順とは
残業代の請求は、主に次のような手順で進めます。
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(1)会社に直接請求する
まずは会社に残業代を直接請求して、残業代の支払いを受けられたら問題は解決します。
会社に請求する際には、タイムカードなどの証拠に基づいて残業代を計算してから請求します。請求書を送付する際は、「内容証明郵便」などを使って請求した証拠を残しておくことが後の争いを防ぐためにも大切です。
しかし、個人が会社に直接請求しても、会社は残業代の支払いを拒むことも少なくありません。そういった場合には弁護士に会社との交渉を一任すると、早期に残業代の支払いを受けられる可能性が高くなります。
弁護士が代理人になると、会社は裁判などの大ごとになる前に残業代を支払う方が得策と考えます。また、弁護士は計算方法が複雑な残業代の金額を、確実に算出することができます。交渉だけでなく、残業代計算といった事務的な処理も一任できるので、負担を大幅に軽減できるでしょう。 -
(2)労働基準監督署に相談する
組織的に残業代の支払いがなされていない場合などには、労働基準監督署に相談するのもひとつの方法です。相談することで、会社に対して行政による監督指導が行われる可能性があります。その結果、未払いであった残業代の支払いを受けることができ、労働環境も改善されることが期待できます。
ただし、労働基準監督署は、あくまで会社に対して是正勧告するにとどまります。会社に対して、強制力はありません。また、個人の残業代請求に関して、交渉などを行ってくれるわけではないことも覚えておきましょう。 -
(3)労働審判を申し立てる
交渉による解決が見込めない場合は、労働審判を申し立てます。
労働審判は、通常の裁判よりも簡易かつ迅速な手続きを利用することができ、原則として3回以内の期日で審理されます。そのため、おおよそ2〜3か月での解決が期待できるでしょう。
なお、労働審判に対して、当事者から異議の申し立てがあったときには、裁判に移行し解決が図られます。
労働審判は、証拠の準備や各種書類の準備が必要となるため、弁護士の力を借りるのが得策です。
5、まとめ
本コラムでは、「固定給は残業代が出ないのか」という疑問にお答えし、請求可能なケースや請求手順について解説しました。
固定給であっても、残業代を請求できるケースがあります。労働に対しては、正当な賃金が支払われるべきです。「未払い残業代があるのではないか」と思ったときには、早期に弁護士へ相談することを検討されると良いでしょう。
ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士は、固定給における残業代未払い問題に全力で対応します。ぜひ、ひとりで悩まずご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています