過労死ラインとは? 長時間残業に関する労働基準法上の規制を解説
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新潟県でも、過労死を巡る問題がたびたびニュースで取り上げられています。
2018年1月には、新潟県職員が「過労死ライン」を超える時間外労働を長時間強いられた結果、勤務中に倒れて死亡したことが報じられました。
長時間労働による労働者への負担については、近年、日本全国でも大きな社会問題となっています。
特に、長時間労働が恒常化したことにより死亡にまでつながるケースや、長時間労働によって、うつ病を発症したのが原因で自ら命を絶ったケースも存在し、いわゆる「過労死ライン」の議論がよく取り沙汰されています。
この記事では、長時間労働に関する「過労死ライン」が意味するところや、長時間労働への労働基準法上の規制内容などについて、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説します。
参考:『新潟県職員「過労死」で4人処分 知事「勤務管理を徹底する」』(2018年8月31日、産経新聞)
1、過労死ラインとは
「過労死ライン」という言葉を耳にしたことがある方は多いかと思います。しかしながら、実際にどのようなことを意味しているのかについては、あまり広く知られてはいないのが実情でしょう。
そこで、まずは「過労死ライン」が意味するところについて解説します。
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(1)脳・心臓疾患の業務起因性に関する目安となるライン
通常「過労死ライン」と言われているものは、労災の認定(労働基準監督署が労働者の怪我や病気、死亡の原因が仕事に関係のあるものと認めること)において、脳や心臓の疾患が業務に起因していたかどうかを判断する際の目安となる時間外の労働時間を意味しています。
脳・心臓疾患の業務起因性の判断においては、「長期間の過重業務」が、労災の原因となる「業務による明らかな過重負荷」の認定要件のひとつとされています。
長期間の過重業務が労働者に課されていたかどうかを判断するにあたっては、病変の発症前6か月間の労働時間を考慮して、病気の発症と労働の間の関連性の強さがどの程度であるかを認定することになります。
このとき、病気の発症と労働の間の関連性が「強い」と判断される労働時間のラインを「過労死ライン」と呼んでいるのです。 -
(2)過労死ラインとされる労働時間とは?
(1)で述べた観点から、脳・心臓疾患の発症と労働の関連性が強いと判断される「過労死ライン」は、以下のように定められています。
- <過労死ライン>
- ①発症前1か月間に100時間を超える時間外労働を行った場合
- ②発症前2~6か月間に平均して80時間を超える時間外労働を行った場合
なお、過労死ラインを越えなかったからといって、脳・心臓疾患が労災認定されないとは限りません。
労災認定基準によると、時間外労働が月45時間を超えて長くなるほど、病気の発症と労働の関連性が強まることが指摘されています。
したがって、過労死ラインに近づけば近づくほど、労災認定の可能性は高くなるでしょう。
また、労災認定にあたっては、「長期間の過重業務」があったかどうかだけでなく、「異常な出来事」や「短期間の過重業務」があったかどうかについても考慮されます。
たとえば、時間外労働が過労死ラインに届いていなかったとしても、人事異動などによって職場環境が急激に変化したり、あまり休日が確保されていなかったりなどの事情と併せて、労災認定が行われる可能性は十分あるでしょう。
2、過労死の定義は?
「過労死」は、長時間労働を原因とする死亡を言い表す言葉として、すでに一般的なものとなりつつあります。
では、法律上「過労死」とはどのような意義を持つ言葉なのでしょうか。
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(1)過労死等防止対策推進法上の「過労死等」
過労死等防止対策推進法という法律の中で、「過労死等」という言葉が定義されています。
(定義)
第二条 この法律において「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患もしくは心臓疾患を原因とする死亡もしくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患もしくは心臓疾患もしくは精神障害をいう。
(過労死等防止対策推進法第2条)
「過労死等」の定義には、脳疾患や心臓疾患だけでなく、業務上の強い心理的負荷がかかったことで精神障害を発症し、それが原因で自殺してしまったケースも含まれるのが特徴です。
また、「過労死等」の定義上、疾患による死亡だけでなく、疾患や精神障害についても含まれています。
過労死等防止対策推進法は、国や地方公共団体などに対して、過労による疾患の発症や、疾患を原因とする死亡が発生することを防ぐ各種の取り組みを義務付けています。 -
(2)労災認定における「過労死」
また、法律上の定義ではありませんが、長時間労働を原因とする疾患により死亡してしまい、労災が認定された場合についても、一般的に「過労死」と呼ばれています。
労災認定においては、すでに解説した「過労死ライン」を目安として、その他の要素も総合的に考慮しつつ、労働が死亡の原因になったといえるかどうかが判断されます。
仮に過労死として労災認定された場合は、労働者の遺族が労災保険(労働者災害補償保険。労働者が仕事中や通勤途中にケガ・病気・障害、あるいは、死亡した場合に、労働者やその労働者の遺族の生活を守るための社会保険。)に対して保険金の給付を請求することができます。
さらに、会社に対して直接損害賠償請求を行うことにより、さらに上乗せして損害を補塡(ほてん)してもらえる可能性もあります。
3、三六協定と過労死ライン|労働基準法上の規制内容は?
過労死ラインを越えて労働者が残業を強いられることがないように、労働基準法上、時間外労働についての厳格なルールが定められています。
以下では、時間外労働についての労働基準法上のルールを詳しく見ていきましょう。
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(1)労働者に残業をさせるには三六協定の締結が必要
そもそも法律上、使用者が労働者に時間外労働をさせることは「原則禁止」であることを押さえておく必要があります。
(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
○2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。
(労働基準法第32条)
上記のように、労働基準法は、使用者が労働者に法定労働時間を超えて働かせることを禁止しています。
ただし、労働基準法第36条第1項の定めに従い、使用者と労働者の過半数代表との間で、時間外労働を認める旨の労使協定を締結した場合には、例外的に時間外労働をさせることができるようになります。
この労使協定を、一般に「三六協定」と呼んでいます。
三六協定の中には、時間外労働の上限時間や、その他の時間外労働に関する条件を規定することが必要です。
なお、使用者が労働者に時間外労働をさせた場合、労働者に対して所定の割合による割増賃金を支払う必要がありますので(労働基準法第37条第1項)、サービス残業は違法となります。 -
(2)時間外労働には上限時間が設けられている
三六協定では、時間外労働の上限時間を、1日・1か月・1年の各期間について定めることになっています(労働基準法第36条第2項第4号)。
この上限時間については、どんな時間でも自由に定めていいというわけではなく、上限が設定されています。
そもそも、三六協定における時間外労働の上限時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内で設定しなければなりません(同条第3項)。
そのうえ、上限時間は以下の範囲に抑える必要があります(同条第4項、第5項、第6項)。原則:月45時間、年360時間
臨時的に特別な事情がある場合:月100時間、複数月の平均80時間、年720時間
これを見ると、労災認定における過労死ラインとされている労働時間ぎりぎりまで、法律上は労働者を働かせることができる規定ぶりになっていることがわかります。
これでは、労働者保護の観点からいささか不十分にも思われますが、現行法の規定内容として押さえておきましょう。
4、長時間残業にお悩みの方は弁護士に相談を
恒常的な長時間労働にお悩みの労働者の方は、健康面への影響がこれ以上及ばないように、一刻も早くその状況から抜け出す必要があります。
しかし、長時間労働による過酷な環境に置かれている中で、ご自身だけで会社に対してSOSを出すのは心身ともに負担かと思います。
さらに、いわゆる「ブラック企業」に分類されるような会社では、社員が声を上げても黙殺されてしまう可能性すらあるでしょう。
そんな時は、ベリーベスト法律事務所の弁護士にご相談ください。
依頼者の方々のそれぞれの事情に応じて、労災認定や会社に対する損害賠償請求についてサポートいたします。
一度ご相談をいただければ、問題解決への道筋がわかり、精神的な負担が軽くなるかもしれません。
決してお一人で抱え込むことなく、勇気を出してベリーベスト法律事務所にご相談ください。
5、まとめ
過労死ラインとは、一般的に労災認定の目安となる労働時間のラインを意味しています。
過労死ラインを踏まえて、労働基準法上も長時間労働についての規制が設けられています。
しかし、一部の企業では、こうした規制が順守されていないケースも残念ながら見受けられます。
もし長時間労働の被害に遭ってしまっているという場合は、すぐにベリーベスト法律事務所 新潟オフィスまでご相談ください。
労働問題についての経験が豊富な弁護士が、全力でサポートいたします。
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