営業職の残業代が出ないのは違法? 残業代の請求方法を弁護士が解説

2024年10月24日
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営業職の残業代が出ないのは違法? 残業代の請求方法を弁護士が解説

令和5年度に新潟県の労働相談所に寄せられた労働者からの相談は1748件となっており、その相談内容は「労働条件に関するもの」がもっとも多く、全体の59.1%を占めています。労働条件のなかでは「労働時間・休暇」に関する相談がもっとも多く、次いで「退職」「労働契約」「解雇」「賃金」の順になっています。

残業代等の未払いなど、労働条件に悩んでいる労働者は少なくありません。
たとえば営業職として会社に勤務している場合、「すでに給料にインセンティブが含まれているから別途残業代は出ない」といわれて残業代不支給になるケースがあるかもしれません。しかし、法律的には、営業職でも残業代請求は可能です。

本コラムでは、営業職が残業代をもらいにくい理由や営業職でも残業代を請求できるケース、正しく残業代を請求する手順や方法を、ベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士が解説します。


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1、営業職で残業が多くなる理由・原因

そもそも営業職は以下の理由から残業の多い仕事とされています。

  1. (1)得意先との付き合いを優先する

    営業職は「得意先」と懇親を深めて仕事を取るという側面もあります。そのような場合は、得意先の都合に合わせることも多く、「定時で仕事を終える」のは難しくなります。また、接待や先方の飲み会などに参加しても、会社からは「時間外労働」とは見られず、実際には拘束されているのに残業代が支払われないケースが多々あります

  2. (2)ノルマや数字に追われる

    営業職は、目標値として設定された数字の達成度によって評価される職種です。数字を上げられなければ「能力が低い」とみなされてしまうでしょう。ノルマが課されるケースもあります。数値目標を達成するために、どうしても就業時間を超えて働く営業職の方が数多くいるのが現状です。

  3. (3)勤務時間外の対応も多い

    営業職は、日中の勤務時間内には外回りをしているケースが多数です。社内における報告書や日報作成のための事務作業などには、どうしても帰社後の夕方以降や夜間に対応するしかなく、デスクワークの事務員より残業時間が長くなる傾向があります。

2、営業職によくある違法残業

営業職の場合、以下のようなパターンで「違法残業」させられる事例が頻繁にみられます。心当たりがないか、確認してみてください。

  1. (1)営業手当が含まれているから残業代が不要と誤解している

    よくあるのが「給料に営業手当が含まれている」といわれるパターンです。会社からは、すでに給料に「営業手当」がついているため、別途の残業代は出ないと主張されることがあります。
    しかし「営業手当=時間外労働の賃金」とは限りません。営業手当を残業代とするには、就業規則で明確に「営業手当を時間外労働の賃金として支給する」ことが書かれていなければなりません。また給与明細書においても、基本給と営業手当が明確に区別されていて、何時間分の労働分に相当するのかも記載されている必要があります。
    さらに、営業手当が支給されていても、想定以上の時間外労働を行った場合には、会社は超過分の残業代を支払わなければなりません。

    このようなルールを守らずに、「営業手当が出ているから残業代を支給しない」という扱いをすることは違法です。

  2. (2)事業場外のみなし労働時間制を誤って適用している

    外回りの営業職の場合、会社から「みなし労働時間制だから残業代が出ない」といわれるケースも少なくありません。
    労働基準法において「事業場外ではたらく労働者については、一定時間の労働をしたとみなすことができ、個別の残業代を支払わなくてよい」と規定されているからです。これは「事業場外のみなし労働時間制」と呼ばれるものです。

    しかし、事業場外のみなし労働時間制を適用するには、以下の条件を満たさねばなりません。

    ●実労働時間の算定が必要
    労働時間の正確な算定が必要です。グループで営業活動をしており、上司やリーダーが労働時間を把握している場合などにはみなし労働時間制を適用できません。
    ●会社から指示を受けておらず本人の裁量で活動している
    労働時間中、本人が会社からの具体的な指示を受けずに行動している必要があります。他方、会社から「次はどこへ行くように」などと電話やメールで指示を受けている場合などにはみなし労働時間制を適用できません。

    企業側が「みなし労働時間制」を主張しても、実際には要件を満たさず適用が認められないケースは多々あります。その場合、残業代不払いの「違法残業」とみなされる可能性があります。

  3. (3)歩合制

    歩合制が採用されている企業でも残業代が支払われない場合があります。
    歩合制でも所定の労働時間を超えて勤務すれば残業代が発生します。また、歩合給に残業代を含む場合、歩合の賃金と残業代に相当する部分が明確に区別されていなければなりません。そのうえで、予定される時間を超えて勤務した分については残業代を支給する必要があります。

    歩合制を理由に一切残業代を支給されていない場合、「違法残業」とみなされる可能性が高いでしょう。

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3、残業代請求する手順・方法

営業職でも実際には残業代が発生しており、未払い残業代を会社に請求したい場合、以下の手順で対応を進めていきましょう。

  1. (1)証拠を集める

    まずは残業代が発生しているという「証拠」が必要です。証拠がないと、会社側が残業代の支払いに応じる可能性は極めて低くなります。証拠としては、以下のような資料を集めるのが有効です。

    • タイムカード
    • 営業日報、業務報告書
    • 就業規則の移し
    • メールの送受信記録
    • パソコンのログイン記録
    • タクシーなどの領収証
    • 手帳、スケジュール帳
    • 雇用契約書、労働条件通知署
    • 給与明細書
  2. (2)残業代を計算する

    資料がそろったら、以下の方法で未払い残業代を計算しましょう。

    1時間あたりの給料×残業時間×割増率
    1時間あたりの給料は、以下のようにして計算します。
    ●1時間あたりの給料=1か月分の給与額(一部の手当を含む)÷1か月間の所定労働時間

    賃金の割増率は、以下のとおりです。

    • 1日8時間、1週間に40時間の法定労働時間を超えた場合…1.25倍
    • 深夜労働(22時~5時までの労働)…1.25倍
    • 休日労働…1.35倍


    集めた資料と照らし合わせながら、正確に未払い額を計算しましょう。なお、厳密な計算は会社の規則ごとに異なるため、ご自身だけでは計算が難しい場合には弁護士へ相談することをおすすめします。

  3. (3)会社へ残業代請求をする

    未払い残業代の金額を計算できたら、会社へ請求しましょう。
    具体的には、未払い残業代の計算書を添付して、書面で通知することをおすすめします。口頭のみでは、うやむやにされる可能性が高くなるからです。
    「内容証明郵便」を利用して書面を郵送すれば、手元に証拠を残すことができ、なおかつ会社へこちらの真剣さを伝えることができます。

  4. (4)交渉、合意

    会社へ残業代請求の意思表示をしたら、交渉していくらをいつまでに支払うのかを、決めます。お互いに納得できる条件を定められたら「合意書」を作成しましょう。口頭ではうやむやにされてしまうリスクがあるため、必ず書面化してください。
    合意書作成後、約束通りに支払われたら解決です。

  5. (5)労働審判や訴訟を起こす

    交渉が決裂してしまった場合には、裁判所で「労働審判」や「訴訟(裁判)」を起こします
    まずは労働審判を行い、それでも解決できなかったときに労働訴訟に移ります。これらの手続きは複雑で、個人での対応は難しいため、弁護士に依頼して手続きを進めた方がよいでしょう。

4、残業代請求する際に知っておくべきこと

    これから残業代請求を検討している方は、次に説明する事項について確認しておきましょう。

  1. (1)退職後も残業代請求できる

    「退職したら残業代を請求できないのでは?」と思われがちですが、退職後も残業代請求が可能です。転職後であっても、前の勤務先に残業代請求はできるので、あきらめる必要はありません。ただし、残業代請求には時効が適用されるため、時効が成立する前に請求しましょう。

  2. (2)残業代請求権の「時効」

    残業代請求権には「時効」があります。
    令和2年4月に労働基準法が改正され時効は2年から3年に延長されました。時効の起算点は給料日の翌日です。
    ただし、一部のケースでは時効が適用されないこともあります。

  3. (3)割増賃金

    計算の際にも説明しましたが、残業代には「割増賃金」が適用され、通常の賃金額より高くなる可能性があります

    • 法定労働時間である1日8時間、1週間に40時間を超える場合には1.25倍
    • 22時から5時までの深夜労働をしたら1.25倍
    • 休日労働をしたら1.35倍
    • 時間外労働で深夜労働をしたら1.5倍
    • 休日に深夜労働をしたら1.6倍


    残業代計算の際には、上記の「割増賃金」も適用して正確に算定しましょう。

  4. (4)深夜労働、休日労働の割増賃金はみなし労働時間制でも請求可能

    営業職の場合、事業場外のみなし労働時間制が適用されて通常の時間外労働の残業代を請求できないケースもあります。その場合でも「深夜労働」や「休日労働」があれば、割増賃金を請求できます。
    日常的に深夜や休日に出勤している場合は、労働時間に関する証拠を集め、割増賃金を請求しましょう

  5. (5)遅延損害金と付加金について

    会社との交渉が決裂したら、最終的に訴訟を起こして残業代を請求しなければなりません。訴訟と聞くと、金銭的・精神的な負担も大きくなるイメージを持たれる方もいるかもしれません。

    しかし、訴訟には労働者にとって大きなメリットがあります。それは、残業代に「遅延損害金」と「付加金」が加算されることです。

    遅延損害金とは、残業代を不払いにしている日数分加算される損害金です。元本の3%として計算されます。
    付加金とは、裁判所が判決で不払い残業代の支払い命令を下すときに加算できる金額で、元本と同等の金額となります。つまり判決にいたると、元本の2倍の金額の支払い命令が出る可能性があります。
    会社側が不合理な主張をしているならためらわずに踏み切りましょう。

  6. (6)証拠が足りなくても残業代請求できるケースがある

    手元の証拠が足りない場合でも、弁護士が対応すれば会社へ証拠開示請求できるケースがあります。さらに裁判所から文書提出命令を出してもらえる可能性もあります。証拠不足を理由に残業代請求を諦める必要はありません

5、まとめ

営業職で残業代が支払われていない場合、違法残業となっている可能性もあります。上記に紹介した以外にも「管理監督者」として残業代を支払われていない方もいるかもしれません。残業代の請求は労働者として当然の権利です。どのように対処すべきか悩まれている方は、労働問題の経験豊富な弁護士への相談が、解決への近道となる可能性があります。
未払いの残業代には時効が適用されるため、すでに会社を辞めていても少しでも心あたりがある方は、お早めにベリーベスト法律事務所 新潟オフィスの弁護士までご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています