芸術作品で逮捕? わいせつ物頒布等罪の刑罰と逮捕後の流れを解説
- 性・風俗事件
- わいせつ物頒布等罪
平成28年版犯罪白書によると、ネットワークを利用した犯罪のうちわいせつ物頒布等罪の容疑で検挙された事件の件数は、平成27年で835件でした。わいせつ物頒布等罪は、無修正ポルノなどを頒布する行為はもちろん、芸術だと思って製作・頒布されたものであっても、「わいせつ物」とみなされれば、逮捕される場合があります。DVDなどを頒布することはもちろん、ネットを使って領付を行えば、ここ、新潟にいても同様の事件で逮捕される可能性も大いにあるのです。
しかし、自らの作品が多くの目にとまることは、芸術家としての喜びでもあるはずです。ネットを使って自分の作品を広めたい、しかし、逮捕は困ると悩んでいる方も多いと思います。
そこで今回は、なにが「わいせつ」であり、どのような行為が「わいせつ物頒布等罪」にあたるのかについて、新潟オフィスの弁護士が詳しく解説していきます。
1、わいせつ物頒布等罪とは
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(1)わいせつ物頒布等罪の刑罰
わいせつ物領付罪は刑法第175条で以下のとおり定められています。
刑法第175条
「わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、または公然と陳列した者は、2年以下の有期懲役もしくは250万円以下の罰金もしくは科料とし、または懲役及び罰金を併科する。
電気通信の送信によってわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。(第1項)
有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、または同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。」
つまり、多くのひとに対し、わいせつ物と考えられるものを領付した場合、罪に問われるということです。これは、ネットを使って領付した場合にも適用されます。
また、わいせつ物を売買する目的で所持し、保管していた場合にも罪に問われることになるでしょう。 -
(2)「わいせつ」の定義
上記のように、罰せられる行為は刑法で定まっています。しかし、やはり「わいせつ」の内容は条文を読むだけではわかりません。実はこの、「わいせつ」という言葉の内容については、判例で例示されています。
わいせつとは、「いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反すること」と定義されています。しかし、この定義は具体性に欠け、かなりあいまいであることから批判もあります。時代によって「性的道義観念」が変わることから、いまだ議論されている最中であるともいえるでしょう。
2、わいせつ物頒布等罪で逮捕されてしまった場合
自分が作成・配布したものがわいせつ物だと認識していた場合とそうでない場合など、それぞれの事情があるでしょう。しかし、いずれにせよ逮捕されてしまったときは、早期解決を目指さなければ、今後の社会生活に大きなダメージとなる可能性があります。そこで、万が一のときはどのような行動をとるべきかについて解説します。
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(1)早期釈放されるために
刑事事件で逮捕されると、まず警察官による取り調べが行われます。この場合、拘束時間の上限は48時間と決まっていますが、嫌疑が晴れなければ検察へ送致されます。
送致を受けた検察は24時間以内に、引き続き身柄拘束をしたまま取り調べを行う「勾留(こうりゅう)」の必要があるか否かを判断します。勾留を行うためには裁判所の許可が必要です。この手続きを勾留請求と呼ばれています。
裁判所に勾留が認められると、原則10日間、引き続き取り調べの必要があると判断されれば追加で10日間、つまり合計最大23日間もの間、留置場か拘置所で過ごしながら取り調べを受けることになります。
23日間もの間身体拘束を受けると、学校や会社などで退学や懲戒免職などの不利益を被ることは避けられません。その後の社会生活にも重要な影響がでることでしょう。
そこで、前述した一連の流れのそれぞれのタイミングで、早期釈放のために行動する必要があります。犯罪の内容が軽微で、被疑者が十分に反省していると判断された場合は早期の釈放の可能性があるためです。
なるべく迅速に弁護士に依頼し、どのような対処を取るべきか相談するべきでしょう。逮捕されてから勾留請求が行われるまでの最長72時間は、家族であっても面会することはできません。しかし、弁護士ならばすぐに面会することが可能です。そこで相談ができれば、精神的な支えにもなり、早い段階での釈放の手助けとなるでしょう。
また裁判になっても、そのまま弁護活動を任せることができます。 -
(2)示談による解決は可能?
示談とは、紛争の当事者同士が話し合うことによって事件の解決を目指すことをいいます。刑事事件における示談の場合、被害者と示談することで反省の意を示し、損害賠償金を支払うことによって民事責任を果たすことによって、被害者の処罰感情を緩和してもらい、被害届を取り下げてもらうことなどを目指すことになります。
しかし、わいせつ物領付罪の場合、被害者は誰になるのかという疑問があります。わいせつ物頒布等罪は、「社会公共に対する犯罪」で、特定の被害者がいない犯罪と考えられているためです。
もし、わいせつな動画を作成する際に被写体となった人物が特定できるなら、その方を実質的な被害者として示談交渉をすることが考えられます。示談がうまくいけば、被害届の取り下げや、不起訴、早期の釈放の可能性がうまれます。
ただし、わいせつ事件の場合、示談交渉を加害者本人や加害者家族が行うことは非常に難しいものです。わいせつ画像の被写体がいた場合にその方と示談したいと望んでも、被害者は加害者と直接話し合うことが苦痛だと断られる場合が多いでしょう。しかし、法律に関する知見が豊富で第三者である弁護士であれば、交渉に応じてもらえる可能性が高くなります。
いずれにせよ、早期解決を望まれるならば早急に弁護士に相談しましょう。
3、わいせつ物頒布等罪で逮捕された場合の弁護活動
ここでは、わいせつ物頒布等罪で逮捕された場合、具体的に弁護士が行えるサポートや弁護活動について解説します。
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(1)勾留接見から裁判まで
勾留中も引き続き身柄の拘束を受け、厳しい取り調べに応じなくてはいけません。しかし、弁護士に依頼することで勾留中もさまざまな相談ができます。取り調べを受けていると心細くなってつい、促されるままに自分がやってもいない罪を犯したと言ってしまい、罪が重くなってしまう場合があります。
そのような事態に陥らないよう弁護士がしっかりとサポートし、もし裁判まで手続きがすすんだ場合であっても、全力を尽くして早期解決を目指します。 -
(2)贖罪寄付(しょくざいきふ)
罪を犯したと認めた場合、示談などで被害者に誠意をもって謝罪し、損害を補償した場合は反省していると認められて、早期釈放や刑の減軽などが期待できます。しかし、先ほど述べたようにわいせつ物領付罪は被害者がいない場合や示談を拒絶されることも多く、示談交渉そのものができない可能性もあります。
そのような際は、「贖罪寄付(しょくざいきふ)」という方法があります。贖罪寄付とは、その名のとおり罪を償うという気持ちを示すために、金銭を弁護士会へ寄付することです。贖罪寄付を行うと、弁護士会から証明書が発行されます。その証明書が、反省している証拠として認められるのです。
もし、わいせつ物を有償で頒布することによって利益が得ていた場合は、その利益を贖罪寄付することによって、反省の念を示すことになるでしょう。 -
(3)再犯防止のための環境整理
たとえ十分な反省をしていたとしても、罪を犯す前後で同じ環境である場合、再犯率は高くなると判断されます。そのため、再犯防止に向けた環境を整える取り組みが重要です。具体的には、家族による監督や、わいせつ画像の入手経路を断つことなどが考えられます。
これらを実行することによって、反省と、再犯をしないという意志を証明することになり、早期釈放の可能性が高くなります。
4、まとめ
「わいせつ物頒布等罪」における「わいせつ物」の概念自体があいまいで、具体的にどのような行為が罪にあたるのか、理解しづらいと感じる方も多いでしょう。しかし、わいせつ物頒布等罪にまつわる事件だけに限らず、刑事事件は個人で対応することによって不当に重い罪が科せられてしまう可能性が考えられます。
少しでもご不安なことがある方は、お気軽にベリーベスト法律事務所 新潟オフィスまでお問い合わせください。刑事事件に対応した経験が豊富な弁護士が力を尽くします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています